[特別レポート]

5G基地局をベースにエッジ/クラウド連携の社会システムを開発へ

― AIエンジンで低消費電力化し省エネ・データセンターを実現 ―
2019/03/08
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

世界初の泡支援自然対流方式を開発

 次に、実証されている主な技術的トピックを紹介しよう。

〔1〕泡支援自然対流方式の実証

 図10(1)および写真3に示したじゃぶ漬け方式によるルータの冷却の場合は、CPUの熱だけで冷媒(FC3283:3M社のフロリナート〕が循環して冷えてはいたが、自然対流ではなかなか冷え切らない。そこで、図10(2)に示すような泡支援自然対流方式(富士通が開発。特許は大阪大学が申請中)によって、冷却効果を向上させることに成功した(写真4)。

図10 泡支援自然対流方式の仕組み

図10 泡支援自然対流方式の仕組み

出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】

写真4 液浸方式を利用した通信システム

写真4 液浸方式を利用した通信システム

出所 松岡 茂登氏提供(大阪大学サイバーメディアセンター教授)

 泡支援自然対流方式は、原理的には金魚鉢の泡のように、下からぶくぶくと泡を空気ポンプで発生させる。これによって、冷媒(FC3283:3M社のフロリナート)がよく循環するようになるため、ルータ(ホットスポット)の冷却が大幅に改善された。図10右の泡支援自然対流方式は、2018年11月27日に特許申請された世界初の冷却方式であり、また日本でも初公開である。

〔2〕冷却効果:人間の体温程度まで冷却を実現

 実証実験では、図11の泡支援の冷却効果の例に示すように、泡の流れ速度が0.1リットル/分から10リットル/分へと変化するにつれて、

  1. CPU-1の表面温度は人間の体温程度の42℃から38℃へ下がる
  2. CPU-2の表面温度は35℃から30℃と10%以上の冷却効果が向上する

ことが判明した(図11の停止=0とは自然対流のことであり、泡支援がない場合を示す)。

図11 泡支援の冷却効果の例(1)

図11 泡支援の冷却効果の例(1)

FC3283:3M社のフロリナート(フッ素系不活性液体)
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】

 なお、使用されているマルチコアCPUの仕様は、ハイエンドなIntel Xeon Silver 4108(1.80GHz、コア数は24個)である(実証サイトのサーバは富士通製が220台、前出の写真4)。

〔3〕PUEは1.02:世界トップレベルを実現

 泡支援対流(BAC)を使用することによって、電力の使用効率を示すPUE注6は、世界トップレベルとなっている。

 図12は、泡支援の冷却効果を表すグラフである。冷媒を、ファンやポンプなどで強制的に対流させる強制対流方式に比べて、低いPUEでCPU温度が効果的に冷却されている。

図12 泡支援の冷却効果の例(2)

図12 泡支援の冷却効果の例(2)

PUE:ピーユーイー。Power Usage Effectiveness、電力使用効率。データセンター設備のエネルギー効率を表す指標。数値が小さいほど効率がよくPUE=1.0が最も効率のよい夢の値(これ以下の値はない)
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】

〔4〕各液浸方式の比較と位置付け

 図13に、①強制対流方式、②自然対流方式、③泡支援対流方式の各液浸方式について、消費電力と冷却上限(能力)の比較を示す。この結果により、今後の実証作業では、泡支援対流方式の採用を推進していく。

図13 各液浸方式の比較

図13 各液浸方式の比較

出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】


▼ 注6
PUE:Power Usage Effectiveness、電力の使用効率。「データセンター全体の消費電力」÷「IT機器の消費電力」。1.0に近いほど電気使用効率がよい。

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