具体的な3つの連携:オーケストレーション
次に、実証事業の開発において重要となる、3つのオーケストレーション(連携)を見てみよう。
〔1〕アプリケーション連携(クラウドとエッジの連携)
1つ目は、アプリケーション連携(Cloud Assisted Edge Computing)で、いわゆるクラウドで分担させるアプリケーションと、身近なエッジで分担させるアプリケーションを分けて設定し、トータルのアプリケーションを顧客に提供する形態である(図5)。
図5 クラウドとエッジコンピューティングの連携(アプリケーションの連携)
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】
図5の横軸は、前述した往復の遅延、いわゆるレスポンスの速度である。縦軸はスループット(実際の情報の速さ)を示す。図5には4色の線があるが、例えば緑色はHEMS(Home Energy Management System、家庭のエネルギー管理システム)の場合である。HEMSでは、①電力制御のような非常に速い部分と、②宅内(家屋内)のセンシング(温湿度管理)のように遅くてもよい制御とがあり、速いレスポンスと遅いセンシングが共存している。それらを連携させて管理するというのがこのアプリケーション連携の例である。
また、図5の橙色線はVehicle Control(自動車制御)とされているが、①運転アシスト(運転支援)の場合は多少遅いレスポンスでも間に合う。ところが、②自動運転制御になると、信号が赤でも突然飛び出してくる人などに対処できるよう緊急動作が求められ、瞬時にレスポンスする必要がある。この場合も非常に速いレスポンスが必要な場面と遅いレスポンスでもよい場面が共存している。
これらのすべての制御をエッジに任せてしまうと、エッジの処理はパンクしてしまう。このため、遅くてよい制御はクラウド側で行うようにして、トータルで自動車制御というサービスを提供している例である。
〔2〕最適なタスク配置
(1)最適タスク配置とは
2つ目は、コンピューティングシステム間の最適なタスク(稼働)配置である。あるタスクあるいは稼働処理を、どこのコンピューティングシステムに任せれば全体として省エネができるのか、ということである。これは、Workload Allocation Optimization(最適タスク配置)といわれる。稼働配置の観点では、一般には、あらゆるコンピューティングシステムの稼働を均等にし、ある部分にだけ負荷が集中しないようにするLoad Balancer(負荷分散)がよく知られているが、省エネになるかどうかは保障されない。
今回の実証では、いわゆるワークロード(Workload、作業負荷)をきちんと配置することによって省エネを実現していくことを目指している。
(2)最適なタスク配置(マクロ最適)の例
図6は、コンピューティングシステム間の最適タスク配置という連携の例である。図6の左側に示すのは、あるクラウドシステムのラックの中あるいはラック間など、1つのコンピューティングシステムの中で最適化する(2013年のATRで実証済み)場合の例である。
図6 広域コンピューティングシステム間の最適タスク配置
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】
今回は、図6の右側に示すように、地域のコンピューティングシステムの省エネの実証である。データ処理を1カ所のコンピュータシステムの中だけに限定するのではなく、遠隔のシステムで行うほうが省エネの面からは良い場合もある。そこで、高速光通信やAIエンジンなどを使用して、異なるコンピューティングシステムを利用したほうがよいと判断された場合には、遠隔のシステムにも稼働を割り振るという、広域分散システムによる最適化を実証する。
図6には最適タスク配置の例を示しており、左側が従来のミクロ最適、右側はマクロ最適と呼ばれている。同実証事業では、マクロ最適化によって省エネを実証することが目的の1つとなっている。
図6右では、5G基地局において、スマートフォンや各種センサーなどのIoTデバイスから収集されたデータ処理について、NTT西日本が担当している有線のネットワーク(高速光ネットワーク)によって、コンピューティングシステム同士を広域的に連携させた「広域分散エッジコンピューティングシステム」を実現する。
図7 動的連携:動線予測に基づくクラウドからMECへのアプリケーションのダウンロード
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】
〔3〕動的連携
(1)動的連携とは
3つ目は、動的連携すなわちアプリケーションのハンドオーバーである。通信は5G基地局をまたいで行われるので、端末が移動すると基地局の通信範囲(半径約2㎞程度)によって、絶えず基地局の切り替え(ハンドオーバー)が行われている。A地点にある端末Aが数㎞離れたB地点に移動し基地局を切り替た場合でも、連続的にアプリケーション(あるいはサービス)を通信(やり取り)し続ける必要がある。このとき、電波のハンドオーバーは比較的簡単であるが、コンピューティングシステムのハンドオーバーは難しい。
つまり、移動している端末Aに対して、どこのエッジがその端末Aにアプリケーションを提供するかという課題である。そのため、あらかじめその端末Aがどこに向かうかということを予測する必要がある(動線予測)。その場合、端末Aへのアプリケーションは、予測された目的の移動先の場所をカバーするエッジに待機させておかなければならない。
しかし、このように、多数の端末の移動先をたえず予測しながら、アプリケーションをエッジに待機させていると、消費電力はかなり大きくなってしまう。これを解決するため、AIエンジンなどを駆使して動線予測しながら、端末が移動した先でアプリケーションを使えるように、タイミングよくアプリケーションを立ち上げる。これが動的連携である。
(2)動的連携(動線予測)の例
図7は、移動する端末(車)が動線予測をしながら、端末の行き先でアプリケーションを使えるように、クラウドからMECへタイミングよくアプリケーションをダウンロードする動的連携のイメージである。あらかじめ、車の動線を予測しながら次のMECに必要なアプリケーション(マイクロサービスと呼ばれる)をクラウドからダウンロードすることによって、全体的に省エネを実現できるのだ。