IGESの「COP25報告セミナー」に見るCOP25の焦点
後編では、IGESが主催したCOP25報告セミナー「新たなベンチマーク - 1.5℃・2050・ネットゼロ」で講演された、いくつかのトピックを紹介する。
前編でも触れたが、パリ協定では、「今世紀末までの、世界の平均気温上昇を産業革命以前(1750年前後)に比べ、2℃より十分低く保ち(できれば1.5℃に抑える努力をし)、21世紀後半に温室効果ガス(CO2)の排出量を実質ゼロにする」という合意であった
(表1)。
表1 国連気候変動会議(UNFCCC COP25)と京都議定書とパリ協定
温室効果ガス:京都議定書では温室効果ガスとして、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(亜酸化窒素)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)および六ふっ化硫黄(SF6)の6種類を規定。温室効果ガスのうち二酸化炭素(CO2)の排出量が最も多く,温暖化への寄与割合が約76%※(日本の場合は約90%)と大きいため,二酸化炭素の排出を重点的に抑えていくことが期待されている。
※JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)IPCC第5次評価報告書
NDC:Nationally Determined Contribution、各国の削減目標。パリ協定に基づいて、各国が自主的に決定する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の削減目標。その目標を各国が国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出する。
出所 各種資料より編集部作成
しかし、その後発表された、国連による「IPCC1.5℃特別報告書」(2018年10月)や「Emission Gap Report 2019(UNEPギャップレポート 2019)」(2019年11月)によれば、2030年代には世界の平均気温上昇が1.5℃を超えてしまうことが予測された。
これを1.5℃に抑制するには、2030年までに、CO2の排出量を対2010年比で45%削減し、2050年までに気候中立性(クライメイト・ニュートラリティ、すなわちCO2排出量を正味ゼロにする)を達成することが必要となった。
このため、2019年12月のCOP25時点で、各国から提出されている2030年までの約束草案(NDC)をすべて達成したとしても、パリ協定を実現するには、なお最大32ギガトンのCO2削減量が必要(UNEPギャップレポート 2019)である(後出の図3参照)。
このような背景から、COP25における主な焦点は、次に示す温室効果ガスの削減目標の引き上げと市場メカニズムの2点であった。
〔1〕各国の温室効果ガスの削減目標の見直し・引き上げ
COPでは、この削減目標引き上げに関する取り組みの強化を、「野心(Ambition)の強化」と呼んでいる。COP25では、参加国間の意見の対立から、「新たに再提出する削減目標に、可能な限り野心を反映させる」という合意となった。
2030年の排出削減目標を含めたNDCの提出期限は2020年2月までで、2020年11月に開催予定のCOP26の9〜12カ月前である。
〔2〕パリ協定6条(市場メカニズム)の議論
2018年のCOP24では、パリ協定の実施指針(ルールブック)で大筋ルールの詳細が決められたが、COP24の積み残しルールとして、COP25では特に争点となっているパリ協定6条(市場メカニズム注4)の合意を得ることであった。しかし、これについては合意できず、2020年のCOP26へ先送りされた(後述)。
▼ 注1
NDC:Nationally Determined Contribution、各国の削減目標。パリ協定に基づいて各国が自主的に決定する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の削減目標。その目標を各国が国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出する。
▼ 注2
IGES:Institute for Global Environmental Strategies、公益財団法人地球環境戦略研究機関。アジア太平洋地域における持続可能な開発の実現に向けて、国際機関や各国政府、地方自治体、研究機関、企業、NGO等と連携しながら、気候変動、自然資源管理、持続可能な消費と生産、グリーン経済などの分野で実践的な政策研究を行っている。日本政府および神奈川県の支援によって1998年3月31日に設立。本部は神奈川県葉山町(理事長:武内 和彦氏)。
▼ 注3
UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change、国連気候変動枠組条約
▼ 注4
市場メカニズム:2カ国以上の国が協力し合ってCO2排出量を削減した場合の、その削減分を国際的に取引する仕組み。