[COP25に見る脱炭素社会への警告]

COP25に見る脱炭素社会への警告 ≪後編≫

― 焦点となった市場メカニズムと温室効果ガス削減目標(NDC)の引き上げ ―
2020/03/06
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本の研究者・自治体・企業等からのレポート

写真1 2018年9月の大阪府泉南市の台風21号の被害状況

写真1 2018年9月の大阪府泉南市の台風21号の被害状況

出所 高村ゆかり(東京大学)「COP25と世界の動き」、IGES COP25報告セミナー「新たなベンチマーク- 1.5℃・2050・ネットゼロ」、2019年12月23日

〔1〕2019年の日本の損害保険支払額は1兆円規模に

 IGESのCOP25報告セミナーで、東京大学未来ビジョン研究センター教授の高村 ゆかり氏は、異常気象による2018年7月の西日本豪雨と同年9月の台風21号(写真1)や、関東地方を中心に電力系統に甚大な被害を与えた、2019年9月の台風15号および10月の台風19号の被害状況などを紹介した。

 さらに、2019年7月から多発化し、セミナー当日の2019年23日においてもなお延焼中のオーストラリアの大規模な森林火災注5など、国際的にも気候変動が原因と考えられる災害が増大している例を紹介しながら、

  1. 2018年に続き、2019年も日本の損害保険支払額は1兆円規模となる見通しであること
  2. 被害による損失総額は、過去30年間で約3倍になり、保険支払い額の約4倍に(損失総額の4分の3は保険が支払われていない損失)に達していること

などが報告された。

〔2〕自治体による「CO2排出量実質ゼロ」表明

 このような異常気象による多大な災害等の防止に向けて、日本でも東京都や京都市、横浜市をはじめとする74の自治体(15都府県、32市、1特別区、19町、7村。図1参照)が、「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ」にすることを表明している。

図1 「2050年までにCO2排出量を実施ゼロ」を表明した74の自治体(2020年2月28日時点)

図1 「2050年までにCO2排出量を実施ゼロ」を表明した74の自治体(2020年2月28日時点)

出所 https://www.env.go.jp/policy/focus_on_core_competencies/01_ponti_200228.pdf

 表明した自治体を合計すると、人口は約5,628万人に達し、そのGDP(国内総生産)は約282兆円となり、日本の総人口の約44.3%を占めている(2020年2月28時点)。

 さらに高村氏は、国際的に「気候非常事態宣言」注6をする国や都市が広がっていることや、研究者の立場から、気温上昇1.5℃と2℃の差による被害の違いについても、最新の科学的成果注7をベースに言及した。

〔3〕1.5℃を目指す京都アピール

 一方、気候温暖化対策では、京都議定書などをはじめ、国際的にも先進的な役割を果たしている京都市の環境政策局地球環境・エネルギー担当局長の下間 健之(しもつま たけし)氏は、

  1. 日本の自治体として、初めて京都市長が2050年CO2排出量正味ゼロを宣言(図2)したこと(2019年5月)注8
  2. パリ協定の実行を支えるIPCC京都ガイドラインを採択したこと(2019年5月)注9
  3. 脱炭素を目指して、京都発・産学公連携から社会実装へ向けて、セルロースナノファイバーを開発したこと注10注11

など、先進的な取り組みを展開している京都市が、COP25に参加した背景を紹介した。

 また下間氏は、COP25に先立つ2019年9月に開催された、国連気候行動サミットにおいて、議長国チリ主導で設立された野心のための気候同盟(CAA:Climate Ambition Alliance)注12を紹介した。このCAAに参加している世界の都市や地域と連帯し、2050年に、排出量ゼロを目指した野心的な行動が重要であることをアピールした。


▼ 注5
オーストラリアでは南東部(ニューサウスウェールズ州)を中心に各地で火災が相次いぎ、2019年7月から2020年1月までに日本の面積(37万8000km2)の半分近くにあたる17万km2以上の森林や農地が消失しなお燃え続けている。これまでに28人が死亡し、住宅2,900棟以上が全焼。現地の保険協会によると、損害額は1,000億円にのぼると推定されている。コアラやカンガルー等のほか鳥類や虫類も含め、推定で10億以上もの動物が犠牲になっているとみられ、生態系への深刻な影響が懸念されている。

▼ 注6
気候非常事態宣言した国や自治体等:英国、アイルランド、カナダ、フランス(6月)等の他、 欧州議会、多数の州、都市、自治体や大学等(2019年5月〜11月)。日本は大阪府堺市、鳥取県東伯郡北栄町、福岡県大木町、長野県、長野県北安曇郡白馬村、神奈川県鎌倉市、長崎県壱岐市(2019年9月から12月にかけて)など。

▼ 注7
科学的成果である『IPCC1.5℃特別報告書』(2018年)、『海洋・雪氷圏特別報告書』(2019年)、『土地に関する特別報告書』(2019年)、『IPBES地球規模評価報告書』(2019年)など。

▼ 注8
https://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/page/0000252588.html

▼ 注9
https://www2.city.kyoto.lg.jp/shikai/img/iinkai/bunkakankyo/R01/data/010520bunkakankyo01.pdf

▼ 注10
脱炭素を目指すセルロースナノファイバー(CNF):再生可能エネルギーの社会実装

▼ 注11
CNF(セルロースナノファイバー):より強くより軽い、植物由来で環境にも優しい素材(次世代のバイオマス素材)。木材から化学的・機械的処理によって取り出した直径、数〜数十ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)の繊維状物質。鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度をもち、熱による膨張・収縮が少なく、環境負荷も少ない。

▼ 注12
国連気候行動サミット(2019年9月)において設立された、2050年までにカーボン排出のネットゼロを目指すCAA(野心のための気候同盟)への参加は、国や地域、都市、企業、投資家など約280メンバーであったが、COP25の会期中に5倍近くの約1,290メンバーにまで拡大した(2019年12月11日時点)。
http://kyushu.env.go.jp/20200108_Uchida.pdfの16ページ目。

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