[COP25に見る脱炭素社会への警告]

COP25に見る脱炭素社会への警告 ≪後編≫

― 焦点となった市場メカニズムと温室効果ガス削減目標(NDC)の引き上げ ―
2020/03/06
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

今後の展開:誇りをもって参加できるCOP26へ

〔1〕歴史上最長開催のCOP25への失望

 COP25議長を務めたチリ環境大臣、カロライナ・シュミット氏の、加盟国の合意を取り付ける粘り強い努力によって、2日間延長(2019年12月2日〜15日の14日間)という、歴史上最長のCOP25であった。

 前編で紹介した国連事務総長のグレーテス氏は、当初掲げた目標から大幅に後退した合意内容に「COP25の結果に失望している。しかし私たちはあきらめてはいけない」(2019年12月15日)注14とツイートし、COP25の結果を端的に表現した。

 しかし、COP25では、パリ協定とCOP21の合意を再確認しただけでなく、2020年のCOP26に先駆けて、各国ができるだけ高い野心を反映した温室効果ガスのNDCを再提出することに期待を示した注15

 さらに、合意できなかった市場メカニズムも、COP26に向けて合意を目指したスケジュールが進行している。

〔2〕石炭国と批判を受ける日本の今後

 気候変動交渉をとりまく世界各国の状況は楽観できるものではないが、COP25を通して、「2050年にCO2ゼロ」を目指す世界の潮流が生まれ、それをリードする非国家アクターの動きも活発化している(前編を参照)。

 さらに、COP25会期中の12月6日には、マドリード市内で、気候マーチが開催され、「CAMBIEMOS EL MUNDO」(世界を変えましょう)などのプラカード掲げた50万人もの多くの市民や世界の若者が参加し、これまでにない若者のCOP25といわれるほどであった(https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4203.html)。

 そのような盛り上がりの中で、日本は2度も不名誉な「化石賞」注16を受賞するなど、日本の石炭火力政策への厳しい目が注がれたCOP25でもあった。

 日本は「パリ協定」の資金援助の基金に多額の資金を提供している国(世界第2位)注17である。また、日本は2014年度以降5年連続で排出量を削減注18している、あるいはRE100への加盟者数が世界第3位に達しているなど、評価されることも実行している。

 その一方で、石炭政策に固執するあまり、石炭国(グテーレス氏は石炭中毒と表現)としてのマイナスイメージが先行しており、国際的なビジネスを展開するうえで、グローバル・サプライチェーンから外されるなど、その影響が懸念されている。

 次回、2020年11月9日〜11月20日に英国のグラスゴーで開催されるCOP26では、(存在するのであれば)「環境賞」を受賞し、パリ協定の実現に向けて、日本から誇りをもって参加できるCOP26となるよう期待したい。


▼ 注14
https://twitter.com/antonioguterres/status/1206199048660611073

▼ 注15
提出期限は2020年2月。2030年に向けた新たなNDC(国別削減目標)の合意をつくるため、COP26が開催される2020年11月の9カ月〜12か月前に提出ことが規定されている。

▼ 注16
「化石賞」:温暖化対策に消極的な国にCANインターナショナル(CAN-I)が与える不名誉な賞。CAN:Climate Action Network、気候変動問題に取り組む国際ネットワーク組織。120カ国以上・1100の環境NGOからなる。1989年に設立。世界各地には、各国・地域ごとに、参加団体を取りまとめるCANの拠点組織(ノード)があり、Climate Action Network International(CAN-I)への参加全団体の事務局として活動している。CANの日本のノードとして、CAN-Japanがある。

▼ 注17
https://www.wwf.or.jp/staffblog/activity/4186.html

▼ 注18
経済産業省「COP25について〜パリ協定の実施と気候変動問題の解決に向けて〜」

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