日本のCO2排出量の推移と2050年ネットゼロ
ここで、日本のCO2排出量の推移を見てみよう。
図1は、日本における温室効果ガス(CO2)排出量の推移と2030年度(46%削減、2013年度比)および2050年度の削減目標(ネットゼロ達成)を示した図である。
図1 ⽇本におけるCO2排出量の推移と2030年度および2050年度の⽬標
出所 IGES(地球環境戦略研究機関)田中 勇伍、松尾 直樹、「再エネ100%シナリオは本当に『現実的ではない』のか?」、2021年6月9日
この図1を、図2(1)を参考にしながら見ると、2019年度の場合、
- エネルギー起源CO2(電力部門:エネルギー転換部門)が42%
- エネルギー起源CO2(運輸部門)が20%
- エネルギー起源CO2(その他産業部門)が27%
の構成となっている。中でも電力部門のCO2排出量は42%と多く、電力部門の脱炭素化は最重要の必須項目となっている。
図2 エネルギー起源CO2排出量の部門別内訳と温室効果ガスのガス種別の内訳
エネルギー転換部門:石油や石炭等を産業・民生・運輸部門で消費される最終エネルギーに転換する部門〔例:「電力」部門〕。それ以外(産業・運輸・家庭等)は「非電力」部門
出所 経済産業省 第3回 中央環境審議会地球環境部会合同会合「温室効果ガス排出の現状等、資料3」、2021年2月26日
図1に示すように、日本のCO2排出量は、2013年度がピーク(図1の1,408Mt-CO2:約14.1億トンCO2換算)となっているが、日本の目標は、これを2030年度に46%削減して7.6億トン(14.1億トン×0.54)のCO2排出量へ減少させ、2050年度にネットゼロ(CO2排出量を実質ゼロ)とする目標である。
図2(2)には、日本の温室効果ガス排出量のガス種別の内訳を示すが、CO2の比率が圧倒的に多く、全体の91.2%を占めていることがわかる。
また、石油や石炭などの燃料を燃焼して発生・排出される「エネルギー起源CO2」(84.9%)は、ゴミや紙などの廃棄物の焼却によって発生・排出される「非エネルギー起源CO2」(6.3%)に比べて、圧倒的に大きいこともわかる。
骨太方針2021&成長戦略実行計画が閣議決定!
以上、日本におけるCO2排出量の推移と2030年度(46%削減)および2050年度(ネットゼロ)の目標を見てきたが、これを実現するには、国あるいは国を構成する都道府県などの自治体やあらゆる産業の企業から、さらに家庭の生活様式に至るまで、これまでのパラダイムを大幅に改革することが求められる。このため、ダイナミックな国の政策転換が求められる。
このような背景から、2021年6月18日に「第9回経済財政諮問会議注1・第12回成長戦略会議合同会議」が開催され、「経済財政運営と改革の基本方針2021(通称:骨太方針2021)」およびこの骨太方針2021に基づく「成長戦略実行計画」などが閣議決定された(表3参照)。
10の府省庁が連携して最新版「グリーン成長戦略」を発表!
〔1〕より具体化したロードマップを策定
経済産業省は、前述した閣議決定に加えて、表3の骨太方針2021や成長戦略実行計画と連携させながら、関係省庁(表4右側に示す10の各担当府省庁)とも連携し、2020年12月に発表した「グリーン成長戦略」注2(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略)を改訂し、より具体化した最新版を発表した。
表4 最新版の2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略の概要
出所 経済産業省ニュースリリース「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」(2021年6月18日)をもとに編集部で作成
2020年12月に発表された「グリーン成長戦略」は、今後成長が期待されている、①エネルギー関連産業/②輸送・製造関連産業/③家庭・オフィス関連産業において、14分野の重点産業を特定した、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(全60ページ+14資料)として発表された。
この発表に刺激を受けて、多くの企業で、研究開発方針や経営方針の転換といった具体的な取り組みが始まったため、その流れをさらに加速するため、2050年カーボンニュートラルへのロードマップをより詳細に具体化した最新版「グリーン成長戦略」が策定された。
その結果、表4に示すように、2021年6月18日版の「グリーン成長戦略」では、「本文128+参考30ページ」(旧版:本文60ページ+14工程表)と、大幅にページ数が増大し充実したものとなった。
〔2〕NEDOにグリーンイノベーション基金事業2兆円の公募を開始
グリーン成長戦略を推進するため、すでにNEDOにグリーンイノベーション基金事業2兆円(新規)の基金が開設され、2021年4月から順次公募が開始されている注3。
この基金によって、2050年カーボンニュートラルの実現に必須となる重要な3つの要素である、
- 電化と電力のグリーン化(次世代蓄電池技術など)
- 水素社会の実現(熱・電力分野等を脱炭素化するための水素大量供給・利用技術など)
- CO2固定・再利用(CO2を素材の原料や燃料等として再利用するカーボンリサイクルなど)
を中心に据えて、14の重点分野における技術開発・社会実装に向けた研究開発プロジェクトを、今後10年間継続して支援していく。
▼ 注1
経済財政諮問会議:経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを発揮させるとともに、関係国務大臣や有識者議員等の意見を政策形成に反映させることを目的として、内閣府に設置された合議制の機関。
▼ 注2
グリーン成長戦略:「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策。グリーン成長戦略は、前述した「成長戦略会議」で、その方向性等について審議されてきたこともあり、その骨格部分は、「成長戦略実行計画」(2021年6月18日閣議決定)の第3章、第4章に盛り込まれている。
▼ 注3
グリーンイノベーション基金事業の概要を参照。