[特別レポート]

企業は再エネをどう調達するか! その方法と課題

― 加速するコーポレートPPAの導入と2つの非化石証書取引市場 ―
2021/08/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

イオン:オフサイト型コーポレートPPA

〔1〕2040年を目途にCO2排出量ゼロを目指す

 同じ流通業であるイオン注12(2018年3月にRE100に加盟)は、2018年に策定した「イオン 脱炭素ビジョン2050」に基づき、「店舗」「商品・物流」「お客さまとともに」の3つを柱に、「省エネと創エネ」の両面から、店舗で排出する温室効果ガスを総量でゼロにする取り組みを、グループ全体で推進している。

 この目標達成の実現に向けて、イオンは、このほど2030年までに日本国内の店舗(イオンの連結対象子会社が運営する日本国内の店舗)で使用している、年間約71億kWh(2020年度)のうち、50%を再エネに切り替える新たな目標を、2021年7月8日に決定した。この目標は、地球の平均気温上昇を産業革命(1750年前後)前と比べ、1.5℃未満に抑える「パリ協定」の目標に整合するものとなっている。

 イオンの新たな目標は、「店舗で排出するCO2等を2050年までに総量でゼロにする」という従来の目標を前倒しし、「2040年を目途に前倒しで達成する」ことを掲げた野心的な内容になっている注13

〔2〕イオンの2030年までの店舗への再エネ導入計画

 新たな目標では、イオン店舗の屋上などへの太陽光発電設備や、オンサイト型コーポレートPPAモデルの導入を拡大する(図3)。

図3 イオン:屋上を貸して太陽光発電の電力を購入(オンサイト型コーポレートPPA)

図3 イオン:屋上を貸して太陽光発電の電力を購入(オンサイト型コーポレートPPA)

出典:イオン
出所 石田 雅也「企業の自然エネルギー調達の課題」、自然エネルギー財団ウェビナー、2021年7月9日

 この他に、卒FIT電力の買い取りを強化するなど、各地域での再エネ直接契約を推進し、2030年までに、イオンが国内で運営するショッピングセンター(SC:Shopping Center)と総合スーパー(GMS:General Merchandise Store)で使用する電力については、100%再エネの導入を目指している(表6)。

表6 イオンにおける2030年までの店舗への再エネ導入計画

表6 イオンにおける2030年までの店舗への再エネ導入計画

※2021年7月時点の店舗・施設数(再エネ導入目標年度までに開閉店による増減あり)
出所 https://www.aeon.info/wp-content/uploads/news/pdf/2021/07/210708R_1_1.pdf

「日本でも、太陽光発電の普及に伴って再エネの電力コストが低下し、従来の電力会社の電気料金と比較してもほとんど差がなくなってきたこと、さらにCO2排出量削減の観点からも、コーポレートPPAを導入することへの期待は高まっています」と石田氏は語る。

ソニー:自己託送によって再エネを調達

〔1〕自己託送で年間約192トンのCO2を削減

 ソニー注14は、自社の事業活動において、2050年までに環境負荷をゼロにすることを目指す長期環境計画「Road to Zero」ビジョン(2010年発表)の実現に向けて、再エネ調達の多彩な取り組みを展開している。同社は2018年9月に「RE100」に加盟している。

 例えば、ソニーはエネルギー調達では、2020年2月には、日本初となるメガワット級(1.7MW)の太陽光発電設備を活用した自己託送を稼働注15している。

 さらに、2021年2月から、初めてソニーグループの敷地外(オフサイト)から自己託送によって再エネの調達(約400kW)を開始した注16。この調達によって、年間約192トンのCO2削減が可能となる。

〔2〕4者による自己託送の仕組み

 2021年2月から開始した自己託送は、図4に示すソニー、FD、牛舎、デジタルグリッドの4者によって、次のように実現している。

図4 ソニー:牛舎の屋根から工場へ太陽光の電力(自己託送)

図4 ソニー:牛舎の屋根から工場へ太陽光の電力(自己託送)

出典:デジタルグリッド
[参考] https://www.digitalgrid.com/pdf/article210224.pdf
    https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr/news/20210224.pdf
出所 石田 雅也、「企業の自然エネルギー調達の課題」、自然エネルギー財団ウェビナー、2021年7月9日

  1. 再エネの発電者であり、同時にその再エネ電力の需要者であるソニー(SONY)は、FD(For Delight、愛知県刈谷市)とエネルギーサービス契約を締結。
  2. FDは、太陽光発電設備の設計・施工・所有者。
  3. ソニーの敷地外にある牛舎(愛知県東海市)の屋根に設置した、約400kWの太陽光発電設備(PV)で発電した電力を、電力会社(中部電力)の送配電ネットワークを介して、約30km離れたソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(SGMO)の幸田サイト注17へ供給(自己託送)することによって、電力を自家消費する。
  4. 電力は、デジタルグリッド注18のP2P電力取引プラットフォーム「デジタルグリッドプラットフォーム」(DGP)を活用して、計画値同時同量注19を実現する〔AIによって発電予測を行い、電力広域的運営推進機関(OCCTO)への計画値を提出〕。

「このような自己託送を利用することによって、自社の敷地に太陽光発電設備の設置スペースがない場合でも、他の敷地を活用することができるため、再エネの調達手段が広がります。また自己託送では、再エネ賦課金がかからない点もメリットです」と、石田氏はその有効性を説明した。


▼ 注12
イオン株式会社:本社は千葉県千葉市。1926(大正15)年9月設立。小売、デベロッパー、金融、サービスおよびそれに関連する事業。
グループ従業員数:約57万人、グループ売上:8兆6,039億円(2021年2月末時点)

▼ 注13
イオンニュースリース、「2030年までに国内店舗で50%の再生可能エネルギー導入を目指します」、2021年7月8日

▼ 注14
ソニーグループ株式会社:本社は東京都港区。1946(昭和21)年5月7日設立。ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エレクトロニクス・プロダクツ等。
連結従業員数:10万9,700名、2020年度連結総売上:8兆9,994億円(2020年3月31日現在)

▼ 注15
株式会社ソニー・ミュージックソリューションズの製品倉庫であるJARED大井川センター(静岡県焼津市)の建屋屋上に、約1.7MW(1,700kW)の太陽光発電設備を設置。発電した電力のうち、大井川センターでの消費量を上回る余剰電力を、電力会社(東京電力エナジーパートナー)の送配電ネットワークを介して、ソニーの製造工場である静岡プロダクションセンター(静岡県榛原郡吉田町)へ供給(自己託送)し、ソニーグループとして発電したすべての電力を自家消費している。東電エナジーパートナーの100%子会社である日本ファシリティ・ソリューション(JFS)が設備の設置および運用を担当している。
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/201908/19-0821/

▼ 注16
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr/news/20210224.pdf

▼ 注17
SGMO幸田サイト:愛知県額田郡。デジタルスチルカメラやデジタル一眼カメラ用交換レンズ等を製造する工場。

▼ 注18
デジタルグリッド:日本初の民間電力取引所として運用を開始している。

▼ 注19
計画値同時同量:発電事業者や小売電気事業者に義務付けられた制度。電気の需要量と供給量(発電量)を30分単位で予測(計画値)し、その需要量と計画量に差がないように一致させること。電力の実際の需要量と供給量の差分(ズレ)は「インバランス」と呼ばれ、この量に応じてペナルティが課され、インバランス料金は調整役の一般送配電事業者に支払うことになる。

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