[特別レポート]

企業は再エネをどう調達するか! その方法と課題

― 加速するコーポレートPPAの導入と2つの非化石証書取引市場 ―
2021/08/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

FIPによる電力取引の仕組み

 次に、これまでのFIT制度に加えて、2022年4月から新しく実施される「FIP」(Feed in Premium)制度における電力取引の仕組みを見てみよう。

 図5は、FIPによる電力取引における、①再エネ発電事業者(大型電源)、②卸売電力取引所、③小売電気事業者、④需要家(企業)の関係を示す。

図5 FIP(フィード・イン・プレミアム)による電力取引の仕組み

図5 FIP(フィード・イン・プレミアム)による電力取引の仕組み

出典:資源エネルギー庁
出所 石田 雅也、「企業の自然エネルギー調達の課題」、自然エネルギー財団ウェビナー、2021年7月9日

 図5の左に示す再エネ発電事業者は、2通りの方法で電力を売却する。

  1. 1つは、再エネ発電事業者が電力だけを卸売電力取引所に売る。この場合、CO2排出量ゼロという環境価値が発電事業者に残るので、それは別途、小売電気事業者経由で需要家(企業)に販売する。このように、「再エネ電力」と「環境価値」を分けて取引するケースは、コーポレートPPAのうち「バーチャルPPA」〔図5右上および図6上図〕と呼ばれる。米国ではこれが主流となっている。
  2. もう1つは、再エネ発電事業者が、小売電気事業者と相対契約(企業間で個々に行われる契約)を結び、「再エネ電力と環境価値」をセットで取引し、さらに、小売電気事業者はそれを需要家(企業)に提供(販売)する形態である。これは、フィジカルPPAと呼ばれる(図5右下および図6下図)。前出のセブン&アイの事例がフィジカルPPAに相当する。

図6 日本で実施できる2つのコーポレートPPAの形態

図6 日本で実施できる2つのコーポレートPPAの形態

出所 石田 雅也、「企業の自然エネルギー調達の課題」、自然エネルギー財団ウェビナー、2021年7月9日

 日本では、以上の2つの形態で、今後、コーポレートPPAが普及していくと見られている。

 なお、海外の場合、再エネ発電事業者と需要家(企業)は、直接契約を結ぶことができるが、日本の場合には、電気事業法のもとに、小売電気事業者の介在が必要となる注20

 前述した日本で実施可能な2つのコーポレートPPAのうち、バーチャルPPAでの電力購入契約は、小売電気事業者と企業間は従来通り(既存の契約のまま)で、環境価値だけを取引する形態となる。このため、既存契約を変えずに済むので、契約が結びやすい。

日本におけるコーポレートPPAの課題

 日本におけるコーポレートPPAは、再エネ電力の重要な調達手段として期待されているが、いくつかの課題もある。

  1. 今後、コーポレートPPAを実施するためには、新規の開発プロジェクトを増やす必要がある。
  2. 日本では、海外に比べて太陽光発電や風力発電の発電コストがまだ若干高い。あと2円/kWh程度安くなると、コーポレートPPAを実施しやすくなる。
  3. コーポレートPPAの契約内容が複雑であり、また日本では実施例が少ない。
  4. コーポレートPPAに対応できる発電事業者や小売電気事業者が少ない(これは時間の問題で解決できる)。
  5. 制度が十分に整っていない(非FIT非化石証書を需要家が購入できない等)。非化石証書のうち、FIT非化石証書は間もなく需要家(企業)が購入できるよう、制度変更となる予定である(2021年度後半から。後出の図7参照)。しかし、非FIT非化石証書については、まだ検討中となっている。

「特にバーチャルPPA(環境価値だけを分けて取引する形態)の場合、非FIT非化石証書によって、環境価値を取引することになりますので、それを需要家(企業)が発電事業者と直接取引できるようになるのかどうかという点は、とても重要となるので、政府には早くこの点を見直していただきたい」と、石田氏は制度変更への要望を述べた。

非化石価値市場を2種類の市場に分割

〔1〕日本の2つの非化石価値市場

 非化石証書を扱う「非化石価値市場」注21は、表7と図7に示すように、2021年内に大きく変わり、次の2つの市場に分割される予定だ。

  1. 再エネ価値取引市場(新規):この市場で「FIT非化石証書」を扱い、大口需要家も購入できるようになる。
  2. 高度化法義務達成市場(継続):この市場では「非FIT非化石証書」を扱うが、まだ需要家が購入できるルールになっていない。

表7 非化石証書市場を2種類の市場に分割

表7 非化石証書市場を2種類の市場に分割

GIO:Green Investment Promotion Organization、一般社団法人 低炭素投資促進機構。「エネルギー環境適合製品の開発及び製造を行う事業の促進に関する法律」(低炭素投資促進法)に基づくリース保険事業を運営するため平成22(2010)年7月に設立
出所 資源エネルギー庁、「非化石価値取引市場について」、令和3年4月15日

図7 非化石価値取引市場に関する今後の検討スケジュール

図7 非化石価値取引市場に関する今後の検討スケジュール

※〔 〕内は現行制度の下での取引を実施予定
出所 資源エネルギー庁、「FIT非化石証書のトラッキング化について」、2021年6月3日

「表7、図7に示すように、2つの市場は大変複雑なため、企業(需要家)からは‘非化石価値市場は非常にわかりにくい’という声が聞かれます。欧州や米国、あるいはその他の地域でも、シンプルな証書の制度が作られていて、かつ需要家も購入できるようになっています」(石田氏)。

〔2〕海外のエネルギー証書の取引価格

 表8に示すように、海外の再生可能エネルギー証書の取引価格は、0.1円/kWh〜0.2円/kWhと、1kWh当たりの価格は日本の1/10程度なっており、かなり安価である。さらに、トラッキング情報(証書のもとになる電源の種類や発電所の所在地などの属性情報)にも対応している。トラッキング情報がないと、前述したように、環境負荷を確認する、あるいは追加性を判断することができない。

表8 国内外の非化石証書/環境価値取引制度の比較

表8 国内外の非化石証書/環境価値取引制度の比較

出所 資源エネルギー庁、「非化石価値取引市場について」、令和3年3月1日

 石田氏は、「海外に比べて日本の非化石証書には、トラッキング情報は一部にしか付いていないなど、証書に関する制度面もかなり遅れています。このため、国際的にビジネスを展開している日本の先進的な企業は、危機感を募らせています。そのため、昨年(2020年)末に、日本の代表的な企業が政府に規制改革を要望するまでに至っています注22」と述べた。

 続けて石田氏は、「実際、脱炭素を推進するうえで、多くの企業が、製品等の製造をはじめとする事業活動に必要とされている電力は、再エネ電力です。CO2を排出しない原子力やCCS注23付きの火力発電の電力ではありません。企業は、海外の取引先や顧客から、再エネ電力を使って欲しいという強い要請を受けており、再エネ電力を調達するために、多面的な取り組みを行っています」と締めくくった。

 表9に、本記事に登場するキーワードを掲載したので、参考にしていただきたい。

表9 環境価値や非化石価値等に関する用語の解説

表9 環境価値や非化石価値等に関する用語の解説

※賦課金によるFIT電源の環境価値は国が保有し、FIT非化石証書として売却される。その収入は賦課金の低減に使われる。
出所 各種資料をもとに編集部で作成


▼ 注20
電気事業法により、送配電ネットワークを経由して需要家に電力を販売できるのは、小売電気事業者に限定されている。

▼ 注21
経済産業省:「非化石価値取引市場について」、令和3(2021)年3月26日

▼ 注22
https://japanclimate.org/news-topics/re-expansion-topleader/

▼ 注23
CCS:Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留技術。火力発電所などから排出されるCO2を他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する技術。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...