2050年・CO2排出量ゼロへのロードマップ
〔1〕アサヒカーボンゼロの目標設定は?
―編集部 アサヒカーボンゼロの目標設定について、もう少し具体的にお聞かせください。
原田 アサヒカーボンゼロでは、2050年までにScope1・2・3注6においてCO2排出量ゼロを目指していますが、中間目標として2030年にScope1・2においてCO2排出量を50%削減、Scope3においてCO2排出量を30%削減する(いずれも2019年比)という数値を設定しています(図4、図5)。
図5 Scope1・2・3のイメージ
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2::他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
出所 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html
Scope1・2の目標数値は当初30%削減でしたが、この取り組みを加速させるため、2021年2月に50%削減へと野心的な上方修正をしました。
それに向けて、アサヒグループではいずれも2019年比で、日本ではCO2排出量を前年比1%以上削減、欧州では工場におけるScope1・2のCO2排出量をゼロに、オセアニアではScope1・2のCO2排出量の50%削減、東南アジアではScope1・2のCO2排出量を毎年前年比2%削減といったKPI(Key Performance Indicator、重要な業績評価指標)を設定しています。
さらに、2025年までの目標も事業エリアごとに設定するなどして、ゴールである2050年のカーボンニュートラルの実現を目指しています。
―編集部 現在のCO2削減状況はどのようになっていますか。
原田 2020年におけるCO2排出量状況〔図6(1)〕は、グループ全体で633万トンCO2〔=83万トンCO2+549.7万トンCO2。図6(2)の表の2020年参照〕です。
図6 CO2排出量・原単位の推移と実績
出所 https://www.asahigroup-holdings.com/csr/environment/climatechange-performance.html
―編集部 再エネの使用状況はいかがでしょうか。
原田 2020年における、電力使用に占める再エネの割合は、グループ全体で12%、日本国内では6%となっています。グループ全体の電力使用量は約940GWhですので、約113GWh(=940GWh×0.12)が再エネ由来となります。国内に33拠点ある工場に限れば、購入電力の約4割が再エネ由来の電力となっています(2021年10月時点)。
〔2〕アサヒグループが抱える課題とその解決策は?
―編集部 CO2排出量ゼロを達成するうえで、工場で使用する燃料やエネルギーも大きな課題かと思いますが、その現状と対策をお聞かせください。
原田 そうですね。工場では電気の使用のみならず、当社の製品は製造にあたって熱も必要とするため、熱を生成するためのエネルギーの脱炭素化も、「アサヒカーボンゼロ」を達成するうえで重要となります。
日本国内の工場では、使用電力の約4割を自家発電で賄っています。現在、発電のために化石燃料を使用していますが、これを現時点で、すべて再エネで代替するのは困難ですので、RE100という目標を達成するうえで大きく影響してきます。
そこで、さまざまな対応策の1つとして、「非化石の新しい燃料」に注目しています。具体的には、グリーン水素やCO2を原料として合成されたメタンなどです(後述)。
これらは、まだ実用化に向けて様々な実証を進めている段階ですが、広く普及し、コストも妥当な範囲に収まるようになれば転換したいと考えています。
―編集部 コジェネレーションシステム(熱電併給システム)注7にも課題があると思いますが。
原田 はい。先ほども申し上げましたが、熱は、当社の製品製造に欠かせないもので、国内に33カ所あるグループの工場で多く使用しています。現在導入しているコジェネは、化石燃料を燃料としたシステムですので、こちらも脱炭素に向けた対応が必要です。
そこで、化石燃料を燃料としたコジェネシステム自体の使用をやめるべきか、あるいはCO2を発生しない燃料の1つである水素を利用するのか、今後検討を進めていく予定です。
また重複する問題ですが、工場ではボイラーからも熱を発生させて使用していますので、それらの脱炭素化の課題もあります。当社の国内のCO2排出の約7割がScope1由来、つまり燃料を燃やすことによって、電力や蒸気、熱などを生成しており、大きな課題となっています。
電化というソリューションもありますが、コストや効率との兼ね合いもあるため、エネルギーの脱炭素化に向けてどのように最適化していくべきか、現在検討を進めているところです。
〔3〕「グリーン水素」の積極的な活用も
―編集部 解決策の1つとして、水素の活用をお考えなのですね。
原田 はい。先ほどもお話ししたとおり、CO2フリー燃料の1つとして水素に注目しています。再エネ電力で水を電気分解し、水素と酸素に還元することで生産される水素は「グリーン水素」と呼ばれ、再エネ由来の燃料として利用が可能となります。
アサヒグループでは、この水素の積極的な活用を目指して、グローバルな連携や水素サプライチェーンの形成を推進する新たな団体「水素バリューチェーン推進協議会」注8に参加しています。
これによって、次世代燃料としての水素の可能性を探っていきます。2022年には、トヨタ自動車などと共同で、燃料電池大型トラックの走行実証を開始予定です(後述)。また、アサヒグループの茨城工場では、太陽光発電の電力を活用したCO2フリーの自給自足発電システム「自立型水素エネルギー供給システム」の実証実験も行っています。
▼ 注6
Scope1・2・3:Scope(スコープ)とは、GHGプロトコル(イニシアティブ)で、企業などの温室効果ガス〔GHG(主にCO2)〕の排出量を把握するために規定された、CO2を算出するための範囲。具体的には3つの範囲(スコープ)が規定されている。
Scope1は自社の燃焼などによる直接的なCO2排出量、Scope2は他社から供給される電気や熱の使用などに伴う間接的なCO2排出量、Scope3はScope1、2以外の事業活動に関連する他社の間接的なCO2排出量などである。事業者の原料調達から販売・廃棄などのサプライチェーン全体の活動に伴って発生する温室効果ガスの総排出量は、「Scope1+Scope2+Scope3」となる。図5参照。
▼ 注7
コジェネレーションシステム:都市ガスを燃料として電気を発電し、その熱を使って蒸気を供給するシステム。コジェネともいう。
▼ 注8
水素バリューチェーン推進協議会(JH2A:Japan Hydrogen Association):2020年12月7日、88社で設立。2021年8月25日現在、会員数合計:253社・団体。