[RE100加盟企業に聞く!]

アサヒグループのカーボンゼロへの挑戦!

─ 原料生産から販売までのバリューチェーン全体で展開へ ─
2021/11/05
(金)
篠田 哲/インプレスSmartGridニューズレター編集部

次世代を目指した「プロセスイノベーション」の例

〔1〕ビール工場排水由来のバイオガスを利用した燃料電池システムによる発電

―編集部 「アサヒグループ環境ビジョン2050」でもご説明のあった、御社の先進的な取り組みの具体例を教えてください。

原田 例えば、ビール工場の排水処理設備から発生したバイオメタンガスを燃料とした、燃料電池発電システムの開発を進めています。燃料電池とは、水素と酸素の化学反応から電気エネルギーに変換する仕組みで、発電時の効率が高いという特徴があります。

 アサヒグループでは、国内のビール工場8拠点、飲料工場5拠点で、微生物の働きを利用して排水処理を行う「嫌気性排水処理設備」を導入しています。

 この設備では、製造工程から排出される排水からバイオメタンガスが得られますが、これはメタンを主成分とするカーボンニュートラルな燃料資源です。これまでは、熱エネルギーの燃料として利用してきましたが、さらに精製することで高純度なバイオメタンガスの生産が可能となりました。

〔2〕九州大学と共同で連続発電に成功

原田 また、バイオメタンガスを利用した試験用の発電装置を、アサヒグループと九州大学が共同開発し、2019年には実験室で1万時間の連続発電に成功しました。

 その結果、環境省の補助事業に採択され、アサヒビールの茨城工場にバイオメタンガス精製設備および燃料電池を建設して2020年にテスト運転を開始し、バイオメタンガス燃料電池による発電に成功しました(図12)。

図12 ビール工場の排水を利用した燃料電池発電

図12 ビール工場の排水を利用した燃料電池発電

出所 アサヒグループ提供資料

 現在のシステムで、年間1,000トン程度のCO2削減効果が見込めるほか、コジェネシステムヘの応用などの広がりも期待できます。 アサヒグループでは、この技術を他の企業や業界でも活用していただくために、今回の開発で得た技術や知見は特許を取得することなく、可能な限り情報を公開していきます。

CO2の再利用で注目される「メタネーション」

原田 さらに、最近ではCO2の再利用技術である「メタネーション」(Methanation)が注目されています。メタネ−ションとは、水素とCO2から天然ガスの主成分であるメタンを合成する技術で、メタン合成時にCO2を原料にするため「カーボンリサイクル」(CO2再利用)の技術の1つとして位置づけられています(図13)。

図13 メタネーションの基本的な仕組み

図13 メタネーションの基本的な仕組み

出所 https://www.asahigroup-holdings.com/pressroom/2021/0831.html

 アサヒグループでは、将来的には、ボイラーや燃料電池などの燃料への使用をはじめ、工場内での「カーボンリサイクル」への展開の可能性を検討していきます。

 グループ内の研究子会社であるアサヒクオリティーアンドイノベーションズが、アサヒグループ研究開発センターに「メタネーション装置」(IHI社製品)を導入し、2021年9月から国内食品企業では初となる実証試験を開始しています注15

 アサヒグル−プでは以前から、「CO2分離回収試験装置」によって、ボイラー排出ガスの中からCO2を分離させて高効率に回収する実証試験を行っています。この装置によって回収したCO2を、メタネーション装置内で水素と反応させて、合成メタンの製造を行います。

 CO2分離回収試験装置は、連続稼働時間が9,000時間を超え、1万時間連続稼働を目指してその性能を確認中です。また、2021年9月からのメタネーション装置を導入した実証試験では、連続1万時間稼働の長期試験を開始し、CO2分離回収試験装置との連結運転状況やシステムのパフォーマンス、合成メタンの品質や採算性などを確認していきます。


▼ 注15
アサヒグループホールディングス「国内食品企業初のメタネーション実証試験を開始」、2021年8月31日

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