[RE100加盟企業に聞く!]

アサヒグループのカーボンゼロへの挑戦!

─ 原料生産から販売までのバリューチェーン全体で展開へ ─
2021/11/05
(金)
篠田 哲/インプレスSmartGridニューズレター編集部

グリーン電力でアサヒスーパードライを生産

〔1〕いち早く風力発電やバイオマス発電由来のグリーン電力を活用

―編集部 最近、グリーン電力証書注10やコーポレートPPA注11の利用が活発化していますが、それらについての御社の取り組みはいかがですか。

原田 すでにアサヒビールの全工場で製造する「アサヒスーパードライ」缶350ml/500ml、ノンアルコールビールテイスト飲料「アサヒドライゼロ」缶350ml、ギフトセットのビール類の製造に、グリーン電力を活用する取り組みを行っています(自家発電を除く)。その証としてパッケージや外箱には、グリーン電力により製造された製品であることを示す「グリーン・エネルギー・マーク」を表記しています(図9)。

図9 アサヒ スーパードライの製造にはグリーン電力を活用

図9 アサヒ スーパードライの製造にはグリーン電力を活用

出所 アサヒグループ提供資料

 この取り組みは2009年、日本自然エネルギー株式会社との風力発電とバイオマス発電の契約に始まったもので、当時の契約電力量の年間4,000万kWhは、食品業界としては最大でした。これとアサヒグループ本社ビルでのグリーン電力の活用によって、累計で約11万6,000t-CO2注12のCO2排出量削減を実現しています。

〔2〕ポーランドでは風力発電100%によるビール製造

原田 また、ポーランドの事業会社では、風力発電による再エネ電力を使用してビール「LECH」(レフ)の製造を行っています(図10)。2021年からは、100%再エネ電力を利用して製造しています。

図10 ポーランドのビール会社(KOMPANIA PIWOWARSKA)では風力発電による再エネ電力を活用

図10 ポーランドのビール会社(KOMPANIA PIWOWARSKA)では風力発電による再エネ電力を活用

出所 アサヒグループ提供資料

〔3〕コーポレートPPAの太陽光発電を利用

原田 オーストラリアでは、オフサイトのコーポレートPPA注13による太陽光発電によって、ビール「Victoria Bitter」(ヴィクトリアビター)を製造しています。こちらも再エネ利用率100%となっています(図11)。

図11 オーストラリアのビール会社では太陽光発電による再エネ電力を活用

図11 オーストラリアのビール会社では太陽光発電による再エネ電力を活用

出所 アサヒグループ提供資料

―編集部 アサヒグループにおいて、PPAをどのように位置づけていますか。

原田 海外では、PPAを積極的に進めています。欧州では、2025年までには工場においてRE100を達成するという計画を進めており、バーチャルPPA注14が有力な手段となっています。オーストラリアについても、PPAがRE100に向けた有力な手段になりうると考えられます。

〔4〕再エネの導入には「追加性」が重要

―編集部 日本のグリーン電力証書(クレジット)の活用状況についてはどのようにお考えですか。

原田 グリーン電力証書は、先にご説明したようにスーパードライ製造などで利用していますが、日本の証書は海外に比べて値段が高い傾向があります。

 また、近年では再エネの導入にあたって、「追加性」(Additionality)が求められています。追加性とは、新たな再エネ設備への投資を促進する効果のことです。このような状況の変化によって、海外ではPPAが選択されることが多くなってきました。いずれ日本でも、同様の動きになってくるのではないでしょうか。

〔5〕TCFD分析による「気候変動のリスク」への対応

―編集部 先ほどお話のあった、気候関連の情報開示に関するTCFD提言の評価や対応についてお聞かせください。

原田 TCFDのシナリオ分析の過程で、気候変動がアサヒグループに及ぼす影響を試算しています。

 主要農産物原料では、「このまま地球温暖化が進むことで、21世紀末までに、産業革命以前と比較して4℃気温が上昇する」というシナリオになった場合、トウモロコシで約20億円弱、コーヒー豆で27億円弱の影響があると予測しています。

 また、当社が事業展開をしている国々で炭素税が将来的に導入された場合、2030年時点で65億円弱、2050年時点で64億円程度の追加コストの発生が見込まれます。さらに、容器に使われるペットボトルに関しては、これも現在はまだ化石燃料由来のものを多く使用しているため、炭素税が導入されることで、約62億円程度のコスト増という試算結果となりました。

 これらのリスク評価は「アサヒカーボンゼロ」の目標達成に向けて、施策立案や機会の創出などを行う際の参考として活用しています。


▼ 注10
グリーン電力証書:再エネにより発電された電気の環境付加価値を、第三者認証機関〔一般財団法人日本品質保証機構:Japan Quality Assurance Organization(JQA)〕の認証のもとに取引する仕組み。

▼ 注11
PPA:Power Purchase Agreement(電力販売契約)モデル。需要家と発電事業者の間で長期間の電力買取契約を結ぶことで、新規の再エネ発電所の開発を進めることをコーポレートPPAと呼ぶ。

▼ 注12
CO2排出係数は電気事業連合会よって、毎年公表される最新の係数を使用(2016年以降は電気事業低炭素社会協議会の係数を使用)。

▼ 注13
オフサイトのコーポレートPPA:発電事業者が、遠隔地(オフサイト)に設置した発電設備(例:太陽光発電)の電力や環境価値を、企業などの需要家に供給する電力販売契約モデル。

▼ 注14
バーチャルPPA:PPAで発電された電気を、電気そのものと環境価値とに切り離し、別々に取引する仕組み。欧米では主流の手法となっている。

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