[特集:特別対談]

加速する洋上風力発電の導入と次世代送配電ネットワーク≪前編≫

― 2050年カーボンニュートラルと再エネ主力電源化時代へのロードマップ ―
2021/12/05
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本政府が2050年カーボンニュートラルを宣言し、「2030年、国内の温室効果ガス排出量46%削減」という明確な目標が出され、各界では目標達成に向けての対応が急務となっている。そのため、特に発電分野では、太陽光や風力、水力、バイオマス、地熱発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)ヘの転換が急がれる今、今後大きな可能性をもつ「洋上風力発電」に注目と期待が集まっている。
ここでは、日本風力発電協会(JWPA)(注1)代表理事 加藤 仁(かとう じん) 氏と、横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授 辻 隆男(つじ たかお)氏のお二人に、日本における洋上風力発電について、その可能性を大いに語っていただいた(全2回)。前編の今回ではまず、その現状と普及に向けた環境整備を中心に語っていただいた(文中、敬称略)。

洋上風力発電に“強い追い風”が吹きはじめた

Jin Kato

〔1〕「2050年カーボンニュートラル宣言」のインパクト

 菅前総理が2020年10月の臨時国会の所信表明演説で、『我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする』という、いわゆる「2050年カーボンニュートラル宣言」をしました。そこに向けて、まずは2030年度におけるエネルギー需給の見直しなどが発表されましたが、それを契機に社会や産業全体にさまざまな変化が起きています。この状況を、加藤さんはどのように感じていらっしゃいますか。

加藤 「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、洋上風力発電への流れが一気に加速しました。宣言では、2030年に向けた政策対応のポイントの1つとして「風力発電の導入円滑化」が具体的に盛り込まれました(表1)。

表1 2030年に向けた 再エネに関する政策対応のポイント

表1 2030年に向けた 再エネに関する政策対応のポイント

S+3Eを大前提に再エネの主力電源化を徹底し、再エネに最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す。
出所 資源エネルギー庁、「エネルギー基本計画の概要」(2021年10月22日)をもとに編集部で作成

 また、宣言に先立って経済産業省および国土交通省による「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」(以降、官民協議会)の第1回会合が2020年7月に開催され、第2回の会合では我々もビジョン「洋上風力の主力電源化を目指して」注2を出しています(図1)。

 さらに同年12月には、官民協議会によって「洋上風力産業ビジョン(第1次)」注3が策定され、洋上風力発電の政府導入目標として、

  1. 2030年までに10GW(ギガワット)
  2. 2040年までに30〜45GW

の導入目標も明示されました。これに向けて再エネ海域利用法(後述)に基づく一般海域で初めての、洋上風力発電の事業者選定のための公募が開始されました。

 洋上風力発電の本格導入に向けて、発電した電力を円滑に送電するために、電力系統の受け入れ側の議論も進んでいますね。

加藤 はい。電力広域的運営推進機関(OCCTO)注4には、「広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会」が設置され、そこで長期的な方針であるマスタープラン(次世代に向けた全国の送配電網の整備に関する基本計画)を策定しています。そこでも、洋上風力発電をどのように組み込んでいくかについて、具体的に検討が進められています。

Takao Tsuji

〔2〕洋上風力は、欧州から20年も遅れていた

 加藤さんは、洋上風力発電(【コラム1】を参照)の盛んなデンマークでビジネスをされていましたね。

加藤 私が勤務していた三菱重工が2014年に、デンマークの風車大手「ヴェスタス(Vestas)」との合弁会社、「MHIヴェスタス・オフショア・ウィンド(MHIヴェスタス)」を設立しました。私は、そこのCo-CEO(共同最高経営責任者)として当地に赴任し、洋上風力発電のビジネスを推進してきました。

 その後2017年に帰国し、現在はJWPAの代表理事に就任しています。今後は、これまでに得た知見やノウハウを日本でも活かしたいと考えています。

 日本の洋上風力発電は、欧州と比べて20年以上も遅れているということですが。

加藤 日本には、以前から海域を占用するためのルールがあり、また漁業関係者や船舶運航事業者といった利害関係者も多く、それらが洋上風力発電などの事業実施の課題となっていました。

 そこで、当時の菅官房長官に陳情するなど国に働きかけ、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」(図2)を整備していただきました。

図2 再エネ海域利用法の概要

図2 再エネ海域利用法の概要

正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」。海外でコスト低下が進み、再エネの最大限の導入と国民負担抑制を両立する観点から重要な洋上風力発電が、①海域の占用に関する統一的なルールがない、②先行利用者との調整の枠組みが存在しない、という課題によって導入が進んでいなかったことを受け、これらの課題の解決に向け成立した法律。平成30(2018)年11月30日に成立し、同年12月7日に公布。
出所 資源エネルギー庁

 この法制度は、2019年4月から施行されています。この制度によって、これからの日本で、長期的に安定した、かつコスト競争力のある電源として、洋上風力発電の導入を促進する仕組みができたわけです。これに基づいて、洋上風力発電の促進区域の指定からそこでの事業者の公募や選定、事業化のためのFIT認定や占用許可までを一貫して行えるようになりました。

 こうした基盤整備が進み、加えて「2050年カーボンニュートラル宣言」によって、本格的なスタートが切れたという印象です。

【コラム1】今なぜ、洋上風力発電が求められているのか

出所 デンマークHorns Rev 3の洋上風力発電、日本風力発電協会撮影

出所 デンマークHorns Rev 3の洋上風力発電、日本風力発電協会撮影

 風力発電は、洋上では陸上に比べてより大きな風力を持続的に得られるため、安定的に大きな電力供給が可能になる。しかも施設は洋上のため、設置場所の確保がしやすく、稼働後は騒音や万が一の際の人的被害リスクが低いという特徴もあわせもつ。こうしたことから特に欧州では風力発電の洋上化が主流になっている。

 日本は四方を海に囲まれているため、そもそも洋上風力発電のポテンシャルが高い。一方で、国土は山が多いため、陸上で発電所を立てられる場所が限られているという事情もある。

 洋上風力発電は、支持構造物を直接海底に埋め込んで固定して建設する「着床式」と、船舶のような浮体構造物を作りアンカーで固定する「浮体式」の2つの建設方法がある。着床式は水深が50m程度までの浅瀬に適用される。また、50m以上の海域に適している浮体式は日本の造船技術が活用でき、今後の技術開発に期待が寄せられている。


▼ 注1
JWPA:Japan Wind Power Association、一般社団法人日本風力発電協会。日本を代表する風力発電業界団体として2001年12月発足。正会員290社、賛助会員181社、自治体会員21社、計492社(2021年9月15日現在)。

▼ 注2
日本風力発電協会「洋上風力の主力電源化を目指して」2020年12月15日

▼ 注3
洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)」、令和2(2020)年12月15日

▼ 注4
電力広域的運営推進機関:略称OCCTO(Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN)

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