系統の変革にも大きな課題が
〔1〕「日本版コネクト&マネージ」「ノンファーム接続」は?
辻 洋上風力発電が完成して、前編で紹介した高圧直流送電(HVDC)が開始されるようになると、地域内の系統に流れる電力の混雑状況もまた変わってきます。また、新たに建設された再エネを系統につなげない、という問題も発生してきます。
系統の混雑をどのように解消するか。最近では仕組みとして「日本版コネクト&マネージ」「ノンファーム接続」などの新しい技術が実用化されています(【コラム1、2】参照)。
【コラム1】日本版コネクト&マネージとは?
コネクト&マネージ(Connect&Manage)とは、大量な再エネの登場に伴う新しい系統運用のルールで、既存の電力系統を最大限に活用するために検討されている。再エネの発電を抑制するのではなく、まず系統に接続(コネクト)できるようにすることを優先し、同時に管理(マネージ)するという方法である。
日本の現行制度では、系統への接続は、公平性・透明性の観点から、接続契約を申し込んだ順に容量が確保される「先着優先ルール」となっている。しかし、系統の設備容量は、常に100%使い切っているわけではなく、設備容量には空きがある。
その理由は、接続契約によって系統の容量が埋まっていても、「発電所が運転開始前であったり、運転開始後でも時期によって稼働していなかったりする場合」や、「稼働している発電所であっても、電力需要や日照・風況などの気象状況(夏・冬)によって発電量が変わる」からだ。
「日本版コネクト&マネージ」(図1、表1)は、このような系統の設備容量の空きを活用して、より多くの電気を流すようにする取り組みで、欧米でも類似の取り組みが行われている。
図1 日本版コネクト&マネージの仕組み
出所 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/02_03.pdf
表1 日本版コネクト&マネージの進捗状況図(図1の①、②、③の意味)
N-1電制:ある送電ルートを構成するN個の設備の内1つが故障した場合(N-1状態)、当該送電ルートの送電容量は大きく低下する。典型的には2回線からなる送電ルートで1回線が故障すれば送電容量は半分となる。N-1電制とは、N-1故障が発生した場合に過負荷とならないよう瞬時に発電を制限(電源制限=電制)するシステムを備えることで、平常時にN回線の合計容量まで送電を許容する方式のこと。
※1 最上位電圧の変電所単位で評価したものであり、すべての系統の効果を詳細に評価したものではない。
※2 速報値であり、数値が変わる場合がある。
出所 右記をもとに編集部で作成、https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/02_03.pdf
【コラム2】ノンファーム接続とは?
ノンファーム接続とは、コネクト&マネージの取り組みの1つ。これまで日本では、発電した電気を流すために必要となる系統の容量を、接続契約を申し込んだ順に確保しておく方式で系統を運用していた。これを「ファーム型接続」※という。
これに対して「ノンファーム型接続」は、系統の容量をあらかじめ確保しないで(ノンファーム:Non-firm)、系統の容量に空きがあるときにそれを活用し、再エネなどの新しい電源をつなぐ方法である(図1)。ノンファーム型接続は、系統の容量に空きがあったときにそれを活用するため、系統の容量に空きがなくなったときには、発電量の「出力制御」を行うことを前提に接続契約が結ばれる。
※ファーム(Firm)とは「しっかりした」「強固な」「堅固な」という意味で、あらかじめ系統の容量が確保されていることを指す。
図2 ノンファーム型接続による送電線利用のイメージ
[出典]資源エネルギー庁、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第20回)資料より抜粋(一部修正)
出所 経済産業省 資源エネルギー庁Webサイトより抜粋
それらを活用して、洋上風力発電をはじめ新たに建設される電源を受け入れ、電力ネットワークを高度利用しようという方向に変わってきていますが、この点についてはどのようにお考えですか。
加藤 それは、電源の規模によると思います。再エネも、地産地消が適している規模のものがあります。一方で、洋上風力発電の場合は一般的に大規模発電所となり、しかもその消費地が広域になります。そういう場合は、長距離送電を可能とする系統整備が必要になります。当面、再エネの導入促進という観点では、コネクト&マネージやノンファーム接続には原則賛成です。
辻 「原則」という意味はどのようなことからですか?
加藤 千葉県で過去にあった事例ですが、発電事業者が東京電力パワーグリッドに接続申込した際に、接続可能となるまで12年、工事費負担金は1,200億円程度という回答があったことがあり、各種委員会などでも話題となりました。あのとき、送配電事業者の東京電力パワーグリッドが課題解決に奔走し、数百万kW前後の系統容量の空きを見つけ、2019年9月には千葉方面で、試行的にノンファーム接続を適用することになりました。
このように、「ない」といわれている系統の空きも、よく見れば「ある」のです。同じような事例は、千葉県に限らず全国にかなりあると思います。
〔2〕大規模だからこその、洋上風力発電の課題
辻 洋上風力発電は規模が大きいですが、その点についての課題はありますか。
加藤 2050年カーボンニュートラルに向けて、電源の構成比で再エネ比率が発電電力量全体の5〜6割を占めるといった状況が現実化してくると、系統に再エネ電力がどんどん流入してきます。このため、再エネ電力を効率的に消費する制度・システムが不可欠となってきます。
それでも、系統容量がオーバーしそうになったとき、再エネ側で発電を抑制する必要が出てきます。その際の発電の抑制率をどの程度にするか、ベースライン(基本線)や、抑制分の補償の方法などを決めておく必要があります。そのベースラインなどの取り決め次第で、洋上風力発電が成立しないという事態になる恐れもあるからです。
辻 そのときのベースラインは、どの程度なのでしょうか。
加藤 いろいろなケースの試算が行われていますが、再エネ発電の抑制率が将来的に30%台になるというのは、問題外です。発電事業が成り立ちません。当面は、プロジェクトファイナンスが成立するには、「FIT(固定買取制度)で確実な収入が見込め、抑制率は数%以下が確実なこと」という見解もあります。
そのようなことから、以前から私どもは洋上風力発電のような大規模発電所では、ノンファーム接続に限界があると主張しています。洋上風力発電は、数千億円規模の投資額になりますので、将来的に再エネが増加してきたときに、無制限の出力抑制を受ける「ノンファーム接続」ではファイナンスが付かず(プロジェクトの収益の見通しが立たず)、プロジェクトが実現できません。「ノンファーム接続ができたから、洋上風力発電もそれを活用すればいいだろう」といった単純な話ではないと考えています。
辻 この課題はどのように解決すべきとお考えですか。
加藤 送配電事業者、発電事業者それぞれが独立して事業展開できるように、早くそのビジネスモデルを確立すべきだと思います。欧州では、送配電事業者が利益を上げられるようなビジネスモデルが確立していますので、それは日本でも参考になると思います。
同様に発電事業者も、ビジネスモデルを確立する。そのうえで、送配電事業者は重要なインフラである系統をどのように整備していくか、発電事業者はどこに発電所を造るか。それぞれのスケジュールをマッチングさせて導入促進を計る、事業展開を図るといった、トータルプランの作成が重要になってくると思います。
〔3〕既存の制度で再エネの導入は進むのか
辻 ノンファーム接続などを活用して、既存の系統設備の利用率を可能な限り高めようという取り組み自体はいいと思うのですが。
加藤 送配電事業者が自前のアセット(電力設備)をフル活用して利益を上げるのは、当然のことだと思います。ただし、現状の日本では、まだ、発送電が完全に分離となっていない。ですから、全国大で利益追求ができるような制度設計になっていないともいえます。
2050年カーボンニュートラルに向けて各地で再エネ発電所が作られ、それをネットワーク化するために必要な送電線を敷いていくとことになりますが、それに当たって全国レベルで「利益を上げる」ためのビジネスモデルがまだ確立されていない。送電線は社会インフラですから、送配電事業者は、国のため、社会のために事業展開するという要素が強いのだと思いますが、それを支えるためのビジネスモデルがないと事業活動を行えません。
〔4〕全国的な系統運用者(TSO)が必要に
辻 大容量・大量送電となると、地域ごとの系統接続にも課題が出てきますね。
加藤 洋上風力発電が本格化すると、例えば北海道の洋上風力発電の電気を、新潟県の柏崎を経由して首都圏に送ることになります。その場合、FITの契約はどの送配電事業者と行うのか。北海道電力ネットワークなのか、東北電力ネットワークか、それとも消費地の東京電力パワーグリッドなのか、といった問題が生じます。
また送電に際して、各送配電事業者から提示される条件が異なるため、それも問題です。例えば、北海道電力からは、風力発電所に蓄電池を併設して供給電力を平準化するように条件を付けられています。そういった設備増強は、全体から見ると必要のない設備とも考えられ、発電所建設のコスト増につながり、簡単に受け容れられるものではありません。
また需要が減ったとき、一方的に発電出力の抑制を要求されても対応が困難な場合があります。いずれにしてもこうした状況は、決して再エネ電源の導入促進にはつながらないのです。
辻 そのような問題の解決には、加藤さんが以前おっしゃっていた「ナショナルTSO(Transmission System Operator、送電系統運用者)」のような組織が必要になるということでしょうか。
加藤 そうですね。欧州には最上位レイヤーにTSOがあって、その傘下に各地の系統が位置付けられており、日本でもそういった体制の整備が必要なのではないかと考えています。
北海道から首都圏に送電する場合も、現状では各地域を管轄する独立した3送電会社がありますが、1つの送電会社が担当すれば、前述したような問題は起こらないと思っています。
日本全体の視点から、発電した電力を必要とする地域にマネージ(提供)する制度が必要です。地域単位(日本では旧10電力会社の地域単位)で分割・独立されている現状のままで、日本版コネクト&マネージやノンファーム接続といった技術だけでは、今後ますます大容量になっていく再エネを、系統に組み込んでいくのは難しいと考えています。
辻 系統の制度設計も含め、今後どんどん変わっていかないといけないわけですね。