[特集:特別対談]

加速する洋上風力発電の導入と次世代送配電ネットワーク≪後編≫

― 2050年カーボンニュートラルと再エネ主力電源化時代へのロードマップ ―
2022/01/09
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

洋上風力発電を迅速・円滑に導入するために

〔1〕セントラル方式導入による事業の迅速化

 洋上風力の発電建設には、環境アセスメント(環境影響評価)が必要となりますが、日本ではそのために時間がかかり、なかなか事業化に着手できないといった状況がありました。これに関しては、大きな改善があったと聞きましたが。

加藤 はい。経済産業省にお願いして、欧州でも実績のある「セントラル方式」(公募に際して、国が系統整備、風況・地盤・環境調査などを実施する方式)の日本版の導入をしていただきました(図5)。これは、周辺の風況、海底地盤調査や環境調査など、洋上風力発電所の建設計画・見積りに必要となる事項を、国が事前に調査し、その情報をベースに公募を行う方式です。環境アセスメントの初期段階だけでも2年程度かかりますから、それを国が事前に行ってくれると、事業化にあたって大幅な期間短縮につながります。

図5 政府主導のプッシュ型案件形成スキーム(日本版セントラル方式)の導入

図5 政府主導のプッシュ型案件形成スキーム(日本版セントラル方式)の導入

出所 洋上風力産業ビジョン(第1次)概要、洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会、令和2年12月15日

 現在、北海道石狩新港沖では、9団体がそれぞれ独自に環境アセスメントを実施しています。同じ場所、同じ目的で、9回同じ調査が行われる訳です。この方法は期間も手間も無駄で、地元にとっても負担が大きいので、そういう部分を国が事前にやってくれるようになったわけです。

 セントラル方式によって、かなりの期間短縮が見込めるわけですね。

加藤 現状は、環境アセスメントをはじめ風車のレイアウト、設計までに、5年程度はかかる。その後建設に3年、大規模になると8年くらいかかるといわれています。その期間短縮について期待されています。この日本版セントラル方式は、洋上風力官民協議会で設定した目標をクリアしていくうえで大きな前進だと考えています。

〔2〕漁業への影響、その実際は

 実際に洋上風力発電を建設する際に、地域社会や住民に対する影響はどうでしょうか。

加藤 欧州の洋上風力発電の画像を日本の方にお見せすると、海面にたくさん風車が並んでいて「漁業に差し支える」「底引き網ができない」といった声をいただきます。確かにプロジェクトの図面には風車がたくさん並んでいるのですが、実際は1km以上の間隔があります。大きな風車になると2kmにもなります。

 以前、日本の漁業関係者を欧州の洋上風力発電ファーム(写真1)にお連れしてご覧いただいたことがあるのですが、「風車の間隔は思ったより空いている」「これなら漁ができそうだ」という声をいただきました。

写真1 洋上風力発電ファームの例

写真1 洋上風力発電ファームの例

出所 GWEC(世界風力エネルギー協会):「Global Wind Energy Manifesto For COP26」、2021年10月発行

 このように、地域の関係者の方々には、根気よくきちんと説明することが大切だと思いました。漁業に関しては、稼働後に悪い影響が出ることはないと認識しています。

 欧州では、漁業に対する具体的な影響は出ているのでしょうか。

加藤 欧州での漁業への悪影響は聞いていないですね。むしろ、風車の基礎のまわりの岩に魚が集まるといった魚礁効果が確認されています。ただ、特にオランダは漁業に対するプライオリティが日本ほど高くないという事情があります。そのうえ、国が先頭に立って事業地域のゾーニング(海域の区分け)を進めているため、発電所を建設しやすい面があるようです。

 しかし、日本では漁業は文化ですから、同じようにはできません。事業展開にあたって、海域選定の時点から地域の特色や漁業との共生など、各地の状況や事情を考慮する必要があります。そのため、事業展開と地域や漁業との共生のバランスをどうするか、論議されてています。

〔3〕地域によって異なる事情

 洋上風力事業候補地の方からは、「我々は漁業で生活しているのに、そんなもの(風車)をもってこられたらいい迷惑だ」という意見も出ていると聞きました。

加藤 そのような場合は、先ほども申し上げたように、事業者が根気よく説明するしかないのです。風車の建設では海に杭を打ちますから、その際に振動が発生するといった問題が生じます。でも、それは完成までの一過性のものですし、完成してしまえば先ほどの説明のように、実際の漁業に大きな影響が出たとは聞いていません。

 地域ごとの独自の事情もありますよね。

加藤 はい。漁業で生計を立てている地域と、そうでない地域があります。後者の場合には、漁業は地域産業として下降線を辿り、人口流出などの問題を抱えている地域もあります。その地域に洋上風力発電ができれば、それが新しい産業になり得ます。

 今後20年、30年といったスパンで発電設備のメンテナンスなどの仕事が地域に生まれますので、そうなると若者がその地域を離れなくても暮らせるようになります。

 漁業の代わりの新しい産業が、その地域に発生するわけですね。

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