[特集:特別対談]

加速する洋上風力発電の導入と次世代送配電ネットワーク≪後編≫

― 2050年カーボンニュートラルと再エネ主力電源化時代へのロードマップ ―
2022/01/09
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

カーボンニュートラルを契機とした「新産業の勃興」

〔1〕洋上風力発電は「モノづくりの復活」

 今後の洋上風力発電のあり方について、加藤さんはどのようにお考えですか。2030年、そして2050年を迎えるにあたって、その方針や将来像をお聞かせいただけますか。

加藤 大前提は、2050年カーボンニュートラルですね。洋上風力発電に限らず再エネで日本のエネルギー自給率を上げ、化石燃料を使わずにCO2排出量削減に貢献していく。これを推し進めていきたいという気持です。

 洋上風力発電普及のために、今後は日本でその産業化が欠かせませんし、それに関して取り組むべきことはたくさんあると思いますが、いかがでしょうか。

加藤 はい。英国をはじめ米国や他の国々も、洋上風力発電を「モノづくりの復活・雇用の創出」として捉えています。ですから、カーボンニュートラルを契機とした、新しい産業の勃興を狙っています。それは日本も同じです。先ほど挙げた部品メーカーはもちろん、将来的に風車が浮体式(浮体式洋上風力発電)になったときには、これまで培ってきた日本の造船技術が活かせますし、造船所の広い場所も有効活用できるでしょう。

 さらに、製鉄技術も日本には世界に冠たるものがあります。洋上風力発電は、モノづくりの新しいチャンスとして、日本でも根付かせていくことを考えています。

 「技術のないところに市場は育たないし、市場のないところに技術は育たない」と、私は三菱重工にいた頃からそう申し上げていました。今の状況が、まさにそうだと思っています。産業がないと技術革新が進みませんし、技術や製品を海外から輸入していたら、いつまでたっても日本の市場は安定しません。私としては次の時代、日本の産業を中心にした洋上風力発電を押し上げていきたい、という気持です。

 私も同感です。そのくらいの決意がないと、2050年カーボンニュートラルは達成できないと思います。

 私は、洋上風力発電に限らず、電力ネットワーク全体の研究に取り組んでいますが、電力システムを取り巻く状況がダイナミックに変化していることを日々強く感じています。例えば、前編でも話題になった、直流送電(HVDC)のような、大きな送電ネットワークのパラダイムシフトがまさにそれで、そういう変革の真っ只中に今立ち会っていると感じています。技術の進展や社会の情勢に合わせて、制度設計も大きく移り変わり、2050年カーボンニュートラルに向けて産業や市場が一層拡大していくことを期待しています。

〔2〕発送電がシンクロする体制づくり

加藤 そうですね。洋上風力発電に限らず、再エネを取りまく環境や制度は、次々と急速に、しかも激しく変わっています。

 今後、広域連系系統のマスタープランが描くように、電力ネットワークが変革していくためには、ファイナンスを含めた仕組みづくりが欠かせないと考えています。

 一方で、再エネの増加とともに電力ネットワークには混雑が発生します。その際、再給電方式注3やゾーン制注4、そして最終的にはゾーンをさらに細分化したノーダル制注5への移行が検討されています。そうなると地域ごとに電力価格のシグナル注6が出るようになります。すなわち、その場所で発電することで電力ネットワークに混雑が生じにくくなること、あるいは混雑の緩和につながる地点に電源を設置すれば、電源がより高い価値をもつようになるわけです。

 このようになると、再エネ全般にわたって、より適地に電源を誘導しやすくなり、それをベースにすれば、新たな送電線プロジェクトを立案して具体化しやすくなるでしょう。

 今後は、先ほども加藤さんがおっしゃっていたように、電力ネットワーク側から発進する価格シグナルと、電源側の開発状況が整合的に噛み合うように事業プランを立てていくことが大切になってくるでしょうし、そのための仕組みを作ることが大切だと強く感じています。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

加藤 ありがとうございました。

◎プロフィール(敬称略)

加藤 仁(かとう じん)

日本風力発電協会 代表理事

1977年三菱重工業(株)入社、2006年原動機事業本部原動機業務部長、2008年エネルギー・環境事業統括戦略室長、2011年原動機事業本部副本部長などを歴任。2013年執行役員原動機事業本部副本部長兼風車事業部長となる。2014年MHIヴェスタス(MHI Vestas Offshore Wind A/S)共同CEO 、2017年MHI 保険サービス(株)、日本風力開発(株)副会長を経て現職。

辻 隆男(つじ たかお)

横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授

2006年、横浜国立大学にて博士(工学)の学位取得。同年4月から九州大学システム情報科学研究院寄附講座教員、2007年4月から横浜国立大学大学院工学研究院助教を経て、2011年4月から現職。主として電力システムの運用・制御・解析技術の研究に従事。


▼ 注3
再給電方式:系統の混雑を解消するため、混雑系統(混雑が発生した送電線よりも電気を送る上流側の電力系統を指す)において、一般送配電事業者(TSO)が電源の抑制を指示し、その電源抑制に伴って不足した電力を、他の電源の上げ調整(出力増加)によって電力の同時同量を確保する方法。

▼ 注4
ゾーン制:あらかじめ混雑系統を特定し、混雑処理を行う準備を整えたうえで、混雑発生時には市場において混雑処理を行う方法。

▼ 注5
ノーダル制:すべての系統に対して混雑処理を行う準備を整えたうえで、混雑発生時には市場の入札情報などをもとに、混雑処理を行う方法。

▼ 注6
電源の立地を誘導したい場所が、電力価格によって明示されるようになること。

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