[特集]

地域マイクログリッドの最新動向

― レジリエンスを強化した「分散エネルギープラットフォーム」へ ―
2022/04/11
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

CHIBAむつざわエナジーの自営線によるマイクログリッド

〔1〕第6次エネルギー基本計画と室温効果ガス46%削減に向けて

 次に、日本におけるマイクログリッドの事例を見てみよう。

 日本では、再エネの主力電源化などを盛り込んだ「第5次エネルギー基本計画」(2018年7月閣議決定)が発表された後、FIT制度(固定買取制度)による支援もあって、太陽光発電をはじめとする再エネの導入が急速に普及している。

 さらに、政府は2021年4月、2030年度の新たな温室効果ガス排出量の削減目標として、46%削減(2013年度比)を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの新たな方針を発表した。

 これに続いて2021年10月22日に閣議決定された、第6次エネルギー基本計画では、再エネについては「主力電源化への取組」(第5次)から「主力電源への取組」(第6次)と明確に位置づけられ、その取り組みの一環として、2022年4月1日からFIP制度注8や配電ライセンス制度がスタートする。

〔2〕きっかけをつくった睦沢町の自営線マイクログリッド

 日本の電力システムにおいて、政府が「地域マイクログリッド」に本格的に取り組むきっかけを与えたのは、千葉県睦沢村の新電力(小売電気事業者)であるCHIBAむつざわエナジー注9が構築した「むつざわスマートウェルネスタウン」のマイクログリッドであった。

 2019年9月9日早朝、「令和元年房総半島台風」と命名された、記録的な最大瞬間風速(57.5m/s:千葉県千葉市)を伴った台風15号が、東京湾から千葉県内を縦断した。この台風は、関東全域で最大停電件数が約93万戸、電柱の破損や倒壊が約2,000本など、電力系統に甚大な被害を与えた(さらに、その後2019年10月12日に伊豆半島に上陸した台風19号でも、約52万戸が停電するなど、甚大な被害であった)。

 このような相次ぐ大規模停電の教訓から、災害(停電)時の電力インフラのレジリエンス(回復力・耐障害性)を強化する重要性が再認識され、政府の「電力レジリエンスワーキンググループ」において、電力ネットワークの強靱化によるレジリエンス強化が検討され始めた注10

〔3〕自営線マイクログリッドで電気も熱(温水)も提供

 台風15号の影響で広域的に停電が発生し、睦沢町内および周辺市町村も停電した。このとき、CHIBAむつざわエナジーは、台風15号上陸直前の1週間前の2019年9月1日に、千葉県外房の一の宮駅近郊に位置する「むつざわスマートウェルネスタウン」(以降、ウェルネスタウン。敷地面積:2.86ha)のオープンに合わせて、800mの自営線によるマイクログリッド(図2)の構築を完了していた。

図2 CHIBAむつざわエナジー(小売電気事業者)が構築した、自営線によるマイクログリッド

図2 CHIBAむつざわエナジー(小売電気事業者)が構築した、自営線によるマイクログリッド

出所 「むつざわスマートウェルネスタウンにおける地元産ガス100%地産地消システム構築事業」(2019年11月25日) のをもとに一部加筆修正して編集部で作成

 ウェルネスタウンは、睦沢町が道の駅のリニューアルに合わせて、環境共生型の戸建て住宅を整備した施設である(新しい「道の駅」と33世帯分の町営住宅で構成された)。

 台風15号の上陸時には、自営線によるマイクログリッドは、太陽光発電(発電出力:20kW)やガスエンジン発電機〔85kW×2台。ガスコジェネ(熱電併給システム)〕を活用して、自立した電力供給で停電を解消し、同時に温水(熱)も供給し続けて、周辺住民にも温水シャワーとトイレを無料開放したのだ注11

 このような自営線によるマイクログリッドによって、電力以外に熱(温水)のサービスも提供するのは、地域新電力(小売電気事業者)としては、全国初のモデルであった。

 このモデルは、政府が進める「地域マイクログリッド」とは異なる(政府は系統線を使用するモデル。後述)ものの、系統全体が停電している時でも、当該エリア(ウェルネスタウン)だけ系統と切り離し、再エネとガスコジェネで自立運転し、電気も温水も供給する「地産地消型のシステム」として、注目された。


▼ 注8
FIP制度:FIPはFeed-in Premiumの略語。再エネを電力市場へ統合する段階的な措置として、電力市場(JEPX:日本卸電力取引所)の価格と連動した発電をうながす制度。

▼ 注9
CHIBAむつざわエナジー:小売電気事業者(電話:0800-800-5084)、平成28(2016)年6月13日設立、〔所在地〕千葉県長生郡睦沢町下之郷1650番地1、代表取締役社長:田中 憲一。〔株主〕千葉県長生郡睦沢町、パシフィックパワー、睦沢町商工会、合同資源、関東天然瓦斯開発、千葉銀行、房総信用組合の7者。
https://mutsuzawa.de-power.co.jp/wordpress/company
https://mutsuzawa.de-power.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/09/pressrelease_20190912.pdf

▼ 注10
経済産業省、「台風15号に伴う停電復旧プロセス等に係る検証について」、令和元(2019)年10月3日
経済産業省、「台風15号・19号に伴う停電復旧プロセス等に係る個別論点について」、令和元(2019)年10月17日

▼ 注11
CHIBA むつざわエナジー・プレスリリース、「台風15号の影響で町内および周辺地域が停電する中、むつざわスマートウェルネスタウンに電力と温水を供給しました」、2019年9月12日

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