[特集]

地域マイクログリッドの最新動向

― レジリエンスを強化した「分散エネルギープラットフォーム」へ ―
2022/04/11
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

政府が進める「地域マイクログリッド」とは

〔1〕「地域マイクログリッド」の定義

 それでは、政府が進めている「地域マイクログリッド」とは、どのようなシステムなのだろうか。

 前述した、CHIBAむつざわエナジーのマイクログリッドの場合、ガスエンジン発電機や太陽光発電などの分散型電源を導入する際に、一般送配電線(電力系統線、あるいは単に系統線)の利用が難しい(系統連系する場合に接続制約がある)地域であっため、やむを得ず、自営線を敷設してマイクログリッドを構築して運用した。

 電力系統線とは、一般送配電事業者が所有する送配電線のことであり、自営線とは、CHIBAむつざわエナジーが自社で敷設した送配電線のことである。自営線を新しく敷設するには、新たな敷設工事やその導入コストがかかるため、マイクログリッドの構築は、ハードルが高くなってしまう。これを解決するため、既設の一般送配電事業者の系統線を活用できれば、自営線の敷設にかかるコストを低減でき、マイクログリッド導入のハードルを低くできる。

 そこで政府は、「地域社会における持続的な再エネ導入に関する情報連絡会」注12などの審議を基にまとめた、「地域マイクログリッド構築のてびき」注13を作成し発表した。このてびきでは、既設の系統線を活用して構築するマイクログリッドを「地域マイクログリッド」と命名し、次のように定義した。

<地域マイクログリッドの定義>

【平常時は下位系統の潮流を把握し、災害等による大規模停電時には自立して電力を供給できるエネルギーシステム】

解説:地域マイクログリッドとは、平常時は、①地域の太陽光発電などの下位系統の再エネ電源をメインに有効活用しながら、②同時に電力会社等とつながっている一般送配電線(「系統線」)を通じて電力供給を受ける〔電気の流れ(潮流)を監視し、把握する〕。

 一方、非常時(大規模停電等の災害時)には、①一般送配電線(系統線)から切り離され(解列され)、②その地域内の「系統線」に接続されている再エネ電源をメインに、コジェネなどの他の分散電源(非常電源等)と組み合わせて、自立的に電力供給を可能とする分散型エネルギーシステムのこと。

出所 資源エネルギー庁、『地域マイクログリッド構築のてびき』をもとに編集部で作成

 上記で定義されたマイクログリッドは、冒頭で紹介した、米国カリフォルニア州サンディエゴで実証したマイクログリッドと同じような「系統線によるマイクログリッド」モデルである。

〔2〕地域マイクログリッドのシステムモデルの例

 図3に、地域マイクログリッドのシステムモデルの例を示す。

図3 地域の系統線を活用したエネルギー面的利用システム(地域マイクログリッド)

図3 地域の系統線を活用したエネルギー面的利用システム(地域マイクログリッド)

出所 資源エネルギー庁・第4回 地域社会における持続的な再エネ導入に関する情報連絡会、「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用システム(地域マイクログリッド)について」、2019年12月6日

 図3から、地域マイクログリッドは、次のように動作する。

  1. 通常時は、系統線から供給される電力と、系統線に接続されたマイクログリッド内の再エネ電源(太陽光、風力、バイオマス等)をメインにして調整し、一般住宅や避難施設などに電力が供給されている(図3の青い矢印線)
  2. 災害時(停電等)には、①図3に示す赤色の×印の3カ所が遮断(解列)され、閉じた系統線による地域マイクログリッドが形成される。②同時に電力需給の調整力として、系統線に接続されている非常用電源「コジェネ」(図3の右上)が動作し、再エネ電源とともにコジェネから、一般住宅や避難施設などに電力を供給する(黄色の矢印)。③このとき、地域マイクログリッド内の電力需給調整については、図3の中央に示す需給調整システムが行う。

〔3〕地域マイクログリッドの分類

 前述した「地域マイクログリッド構築のてびき」では、地域マイクログリッドについて、地域によって災害の規模(停電の規模)や電力需要の形態などが異なるところから、図4に示すように、大きく非都市部と都市部に分類している。

図4 地域マイクログリッドの地域特性による分類

図4 地域マイクログリッドの地域特性による分類

出所 資源エネルギー庁「地域マイクログリッド構築のてびき」、2021年4月16日

  1. 非都市部
     郊外・半島部・山間部などでは、災害発生時の鉄塔や電柱の倒壊、送配電線の切断などの送配電線事故によって回復作業に時間がかかり、停電などの被害が長期化する場合がある。しかし、オフィスビルやマンションなど需要家が多く、複雑な構成になっている都市部の電力システムに比べると、切り離し箇所(解列点)が少ないため、地域マイクログリッドを発動(動かすこと)しやすい。このため、非常時でも、比較的容易に、地域マイクログリッドを自立的に運用できる。
     一方、小規模な離島の場合は、エリアを細かく区切るよりも、「島全体を地域マイクログリッド化してしまう」ほうがシステムをシンプルに構築できるため、地域マイクログリッドを運用しやすくなる。
     例えば、図5に、非都市部(郊外・山間部等)における地域マイクログリッドの典型モデルを示すが、図5(1)は解列点(切り離し点)が1カ所の例であり、図5(2)は解列点が3カ所の例である。解列点が5〜6カ所以上になる都市部の地域マイクログリッドに比べると、システムがシンプルな構成で、運用しやすい面がある。
  2. 都市部
     都市部は、オフィスビルやマンションなどが多く隣接し、人口も密集しているため、停電が発生すると、大規模な混乱が発生することが予測される。
     これに対処する、地域マイクログリッドを自立運用する場合には、系統線からの切り離し箇所(解列点)が多数存在するため、地域マイクログリッドの発動時や、通常電力への復帰時に作業工程が煩雑になる傾向があるため、構想はあるものの実際に構築した例はほとんどない。

図5 非都市部(郊外・山間部等)における地域マイクログリッドの典型モデル

図5 非都市部(郊外・山間部等)における地域マイクログリッドの典型モデル

系統線:電気を送るための電力網のこと。
解列と並列:発電所(電源)が系統(電力網)につながって送電できる状態を「並列」(へいれつ)、系統から切り離された状態を「解列」(かいれつ)という
出所 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/energy_resource/pdf/015_s01_00.pdf


▼ 注12
例えば、「地域社会における持続的な再エネ導入に関する情報連絡会」第4回 の資料6「資源エネルギー庁:地域の系統線を活用したエネルギー面的利用システム」(地域マイクログリッド)について」、2019年12月6日

▼ 注13
地域マイクログリッド構築のてびき」:地域マイクログリッドの導入を検討している事業者〔地方公共団体、電力会社(一般送配電事業者)、エネルギーマネジメント事業者等〕、地域マイクログリッド構築への参加を検討している事業者(発電設備の所有者、地域の需要家等)を対象として想定。全171ページ構成、2021年4月16日発行。

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