インテリジェント オートメーション プラットフォーム:5Gサービスを進化させる“新プラットフォーム”
オープンRANのコンポーネント(要素技術)として、RANインテリジェント・コントローラ(RIC)注9があるが、「エリクソン インテリジェント オートメーション プラットフォーム」は、それをAIなどによって高機能化したものだ(図3)。
図3 エリクソン インテリジェント オートメーション プラットフォーム
出所 エリクソン提供資料より
このプラットフォームでは、非リアルタイムRANインテリジェント・コントローラ(Non-RT RIC)上にエリクソン、通信事業者、サードバーティそれぞれが開発したRAN自動化アプリケーション(rApps)を共存させることができる。アプリケーションは、エリクソンからリリースされるほか、SDK(ソフトウェア開発キット)が用意されているため、通信事業者やサードパーティは目的に応じて開発できる。
このプラットフォームによって、オープンRANやクラウドRAN、専用RANのほか、マルチベンダRANのサポートを実現でき、加えて、外部からのRAN機能なども管理・制御できるようになる。
「インテリジェント オートメーション プラットフォーム」のメリットとしては、電力消費削減や性能向上、プロビジョニング(設備・サービスを提供可能にするための事前準備)などが自動化できるほか、障害の予知・復旧などを挙げることができる。また、斬新なサービス開発による収益力向上やRAN運用経費の削減、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)向上のための基盤としても、さまざまな活用が期待できる。
ダイナミック ネットワーク スライス セレクション:スマホアプリケーションを使ったデモ
5Gコアネットワーク注10関連の新技術としては、5Gの注目技術の1つである「ダイナミック ネットワーク スライス セレクション」を展示した。
サービスごとにネットワークを仮想的に分割して伝送する、ネットワークスライシングのエリクソン・バージョンといえるもので、5Gネットワーク・ユーザーのニーズに応じて、最適なネットワーク品質の提供を可能とする。
エリクソンでは2021年11月に、台湾FarEasTone(ファーイーストン)社と商用アンドロイドOS12(Android OSの最新バージョン12)デバイスによる、エンド・ツー・エンドの5Gマルチネットワークスライシングのデモを、世界で初めて行っている。
同技術は、通信のSLA注11を満たすための単一/複数のネットワークスライスへの割り当ての最適化によって、遅延やスループット(実効速度)といったアプリケーション特有のネットワーク要件を確保しているほか、銀行や企業アプリケーションでは、セキュア通信のために特定のスライスを割り当ててネットワークを分離する。これによって、通信事業者は、5Gによってますます多様化・高度化する通信ニーズに対して、最適にカスタマイズしたサービスの提供が可能になる。
そのスライシング機能は実際にどのように使えるか、MWC会場では具体的に展示された(図4)。この展示では1台のスマートフォン上でSNS、ビデオ閲覧、金融、それぞれのアプリケーション利用を設定。SNSはデフォルトのインターネットスライスで、ビデオ閲覧はビデオ専用スライスで、金融機関へはセキュアネットワークといった、それぞれの通信に最適なサービス品質とパフォーマンスを提供している。
図4 ダイナミック ネットワーク スライス セレクションのデモ内容
出所 エリクソン提供資料より
エリクソン エッジ エクスポージャー サーバ:5Gエッジコンピューティングを加速させる新機能を実現
エリクソンは、以前からコアネットワークの機能を外部から設定可能とする「クラウド コア エクスポージャー サーバ」(CCES)を提供していたが、今回、エッジコンピューティング注12にも対応する「エリクソン エッジ エクスポージャー サーバ」(EES)を発表した(図5)。
図5 エリクソン エッジ エクスポージャー サーバ
出所 エリクソン提供資料より
CCESでは、5G/4Gネットワーク機能を、APIを介して開放し、通信事業者や端末ベンダ、アプリケーション開発者などとのエコシステムを確立。これによって消費者/ビジネス向けのアプリケーション開発を促進していた。
これに対しEESは、CCESに追加される形で提供される。これによって、エッジアプリケーションにネットワークエクスポージャー注13機能を加えるAPIが提供される。APIはシンプルで柔軟かつセキュアなもので、エッジアプリケーションのために、ユーザーエクスペリエンス情報や位置情報などの豊富なAPIを提供するほか、低遅延を要求するアプリケーション用に高速API応答も実現している。
APIに関しては、初期リリース時にあった課題が改善されている。例えば、アプリケーションからはデバイスのIPアドレスはわかっても、デバイスIDを確認することは困難だったが、そのID情報が取得できるようになった。さらに、デバイスの位置と遅延要件からアプリケーションの場所を決定できる機能が追加されたほか、デバイスのアプリケーションがシグナリングとデータ、制御信号を発していたが、それらをサーバ対応としてより簡素化している。
また、APIの作りをシンプルにし、アプリケーション開発業者がテレコム関連の知見をもたなくても開発できるようにしている。
EESに関してエリクソンでは、AR/VR(拡張現実/仮想現実)やドローン操作といったアプリケーションのほか、製造や物流、ミッションクリティカルなサービスなどの分野での応用が期待されている。
▼ 注9
RANインテリジェント・コントローラ(RIC):オープンRANソフトウェアのコンポーネントの1つで、RAN機能の制御と最適化を担う。マルチベンダによる相互運用性などで重要となる。
▼ 注10
コアネットワーク:端末と接続されたRAN(無線アクセス網:基地局)から受信した、各種データを処理するモバイル通信網の中核(コア)にあたる部分で、基幹通信網やバックボーンと呼ばれることもある。5Gのコアネットワークを指して「5GC」と呼ぶこともある。
▼ 注11
SLA:Service Level Agreement、サービス提供事業者が契約者に対して、どのレベルまで品質を保証できるかを明示したもの。
▼ 注12
エッジコンピューティング:データ処理装置を分散配置して、ネットワークの端点でデータ処理を行う技術の総称。多くのデバイスが接続されるIoT時代となり提唱されるようになった。
▼ 注13
ネットワークエクスポージャー:モバイルネットワークの機能を開放し、外部のソフトウエアプログラムから操作できるようにする仕組み。ネットワーク機能を活用したアプリケーション開発が期待できる。