連続8回にも及ぶ「需給ひっ迫注意報」の発令の背景
〔1〕3月末の厳寒時に東京・東北エリアで需給ひっ迫が発生
地球温暖化に伴って異常気象が続いているが、これに加えて、ロシア軍によるウクライナ侵攻(2022年2月24日開始)とそれに伴う世界的なエネルギー価格の高騰は、エネルギーセキュリティを含めて世界的に深刻なダメージを与えている。
一方、日本では、例えば、2022年3月の「3.16 福島県沖地震」による東京エリアと東北エリアにおける火力発電の停止と、その後の天候の悪化(東京において降雪で気温が急低下)によって、想定される最大需給電力が急増した。
そのため、2022年3月21日から23日の4日間にわたって、電力需給の予備率が3%未満の場合に発令する「需給ひっ迫警報」(16ページのキーワード解説参照)が4回も発令され、政府から企業や家庭などへの緊急な節電要請によって、東京エリアの大規模停電を回避することができた注1。
〔2〕6月末に35℃を超える記録的な猛暑が続き需給ひっ迫へ
しかし、その後、東京都心において、2022年6月25日〜30日の6日間で、連日、最高気温が35℃を超える記録的な猛暑日(異常気象)が続いた注2ため、再びエアコンなどによる電力需要が急増した。東京エリアでは再度、電力の需給ひっ迫が発生し、8回もの「需給ひっ迫注意報」が発令された(表1および16ページのキーワード解説参照)。
表1 2022年6月26日~30日に発令された8回に及ぶ「需給ひっ迫注意報」(東電PG:東京電力パワーグリッド)
参考:気象庁ホームページ、「東京、2022年6月の最高気温」より
出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日
このため、6月26日時点で、「翌27日」における東電管内で想定される最大需要は5,276万kWにも達した注3。
これは、2011年の3.11東日本大震災以降の6月における最大需要が4,727万kWであったのに比べて、500万kW以上〔実際は549万kW(約12%)〕も多い想定需要であった。
東京電力パワーグリッドのデータをもとに分析
〔1〕電力の予想使用率とは
次に、東京電力パワーグリッド(以下、東京電力PG)が公表しているデータをもとに、需給ひっ迫への対応の詳細を見てみよう。
表2は、東京電力PGが公表した6月27日〜7月1日の5日間のデータをまとめたもので、表2(1)が予想(使用率ピーク)、表2(2)が実績値である。表2(1)の予想は、それぞれ当日の深夜〔24時前後、表2(1)の脚注参照〕に出されたが、27日〜30日の使用率ピーク予想の時間帯は、16時〜17時であった。
表2 2022年6月27日~7月1日の電力の供給力と需要の予想と実績(東京電力PG)
[出典]東京電力パワーグリッドと気象庁の公開データをもとに自然エネルギー財団が作成
出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日
表2(1)の右赤枠に示す予想「使用率」は、供給力に対する需要がどのくらいになるかという予想の数字である。使用率が97%を超える、すなわち予備率が3%を切ると、何かの事象によって停電が起こる可能性があるため、この使用率が97%を上回らないようにすることが電力の安定供給の目安になっている。
〔2〕「予想」と「実績」で大幅に異なった電力使用率のピーク
表2(1)では、使用率のピークの時間帯は夕方の16時〜17時で、6月27日〜7月1日の5日間のうちの4日間が97%、もしくはそれ以上になるという予想が出ていた。6月29日にいたっては使用率が100%と、需要が供給を上回る可能性があるという、ひっ迫した予想になっていた。
一方、表2(2)に示す実績値は、表2(1)の予想と違い、電力使用率がピークに達したのは予想された夕方ではなく、朝の9時〜10時、ないしは8時〜9時であり、5日間の東京の天候は、連日35℃を超える猛暑日になっていた。
▼ 注1
詳細は、本誌2022年5月号「3.16福島県沖地震&天気予報悪化の下、なぜ東京エリアで大規模停電を防げたのか」を参照。
▼ 注3
資源エネルギー庁、「電力需給対策について」、2022年7月20日の3ページ