エネルギーフリー社会へ、限界費用ゼロで再エネ供給を目指す
西 最初に、御社(Looop)について教えていただけますか。
小嶋 Looop注1は、2011年3月に発生した東日本大震災の被災地に太陽光発電を設置するボランティア活動から誕生し、同年4月に設立されました。再生可能エネルギー(以下、再エネ)の最大普及により、エネルギーが無料で使える社会「エネルギーフリー社会」の実現を目標として掲げています。
そして、限界費用注2ゼロかつ再エネで電力供給をできるようにしていきたい、そういうビジョンのもとに活動しています(表1)。
表1 株式会社Looopのプロフィール
出所 https://looop.co.jp/company/about を参考にして編集部で作成
分散型エネルギーシステム「エネプラザ」の特徴
〔1〕再エネ自給率は60%を目指す
西 御社が開発された、分散型エネルギーシステム「エネプラザ」の特徴について教えてください。
小嶋 一般的に、各家庭の屋根に太陽光パネルを設置して自家消費した場合、総電力使用量に占める太陽光発電の電力は約30%程度といわれています。当社が掲げる「エネルギーフリー社会」の具現化には、その数字をさらに高めていく必要があり、そのために開発したのが、分散型エネルギーシステム「エネプラザ」(図1)です。現在、設計上の再エネ自給率は60%となっています(図2)。
図1 分散型エネルギーシステム「エネプラザ」のコンセプト
出所 株式会社Looop、「Looop エネプラザご説明資料」より、2022年9月13日
図2 エネプラザの再エネ利用率イメージ:Looopのサービス導入により再エネ自給率は60%超えを目指す
太陽光発電の電力を各戸で単独消費する場合、一般的に再エネ自給率は30%、蓄電池を入れても50%であるが、エネプラザでは60%以上の再エネ自給率を目指している。
出所 株式会社Looop、「Looop エネプラザご説明資料」より、2022年9月13日
西 エネプラザは、現在、実運用の段階に入っているわけですね。
小嶋 はい。脱炭素スマートコミュニティ街区「浦和美園E-フォレスト 第3期」(図3)で稼働しています。環境省の補助事業者として、さいたま市と共同申請し採択注3されました。
図3 エネプラザの「浦和美園E-フォレスト第3期」の全体図
2019年9月に、環境省の平成31年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金へさいたま市と共同申請して採択され、 2019年度に計画策定が完了、2020~2021年度に設備導入・構築を実施した。
「浦和美園E-フォレスト第3期」では、52区画を整備(うち1区画はチャージエリア)し、2021年12月中旬より入居が開始された。チャージエリアには、受変電設備や蓄電システム、EV(電気自動車)を設置。
出所 株式会社Looop、「Looop エネプラザご説明資料」より、2022年9月13日
この街区は住宅メーカーの中央住宅、高砂建設、アキュラホーム埼玉中央、および、さいたま市と共同で建設し、2021年12月中旬には入居を開始し、2022年6月には全戸(51戸)の入居が完了しています。
当社が特定送配電事業者注4および小売電気事業者注5として街区内で電力を供給しています(表2)。また、各戸が使用する「電力の自律制御」や「給湯器制御」、「ダイナミックプライシング注6課金」(図4)といった業務も行っています。
表2 「浦和美園E-フォレスト 第3期」における各ステークホルダーの役割
出所 株式会社Looop、「Looop エネプラザご説明資料」(2022年9月13日)をもとに編集部で作成
図4 Looopのエネプラザの料金(ダイナミックプライシング)メニュー
出所 株式会社Looop、「Looop エネプラザご説明資料」より、2022年9月13日
街区内では太陽光パネルや蓄電池、EVからの電力を独自制御することで、系統電力との連携を実現しています。さらに、災害時や電力ひっ迫時には系統から切り離し、自立運転も可能となっています。
▼ 注1
Looopの3つのアルファベット「o」は、「太陽光発電」「風力発電」「水力発電」の3つを示している。同社が目指す「循環型社会」から(英語のloopの「輪」の意味)を目指して名づけられている。
▼ 注2
限界費用:経済学において、生産量を増加させたときに追加でかかる費用を指す。
▼ 注3
環境省 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業)「地域の自立・分散型エネルギーシステムの構築支援事業」および「地域の脱炭素交通モデルの構築支援事業(自動車CASE活用による脱炭素型地域交通モデル構築支援事業)」。
▼ 注4
特定送配電事業者:特定配送伝事業とは、送電線、変電所、配電線などの送電設備・配電設備を維持、運用し、小売電気事業者または一般送配電事業者などのために特定の供給地点まで電気を送り届ける事業。この事業を営むことを経済産業大臣に届出をした事業者。
▼ 注5
小売電気事業者:一般家庭やビル、工場などに電気を販売する事業者。
▼ 注6
ダイナミックプライシング:需要と供給の状況に合わせて価格を柔軟に変動させる仕組み。供給状況に応じた電力消費を利用者に促すとともに、固定価格に比べ収益全体の向上も期待できる。