フィルム塗工技術と原材料(ヨウ素):日本には大きなアドバンテージ
現在、海外ではすでに小規模メーカーも含め数百社が、ペロブスカイト事業が始っています。我々はこれからそれらに立ち向かって産業競争に勝たねばなりません。そのために必要なのは、1にも2にも「技術」です。
特にフィルム型の場合、いかに大面積の塗工印刷プロセスを構築するかが1つの大きな課題となります。その点、塗工(印刷)関連の技術者や生産用の塗布機に関して、日本には大きなアドバンテージがあります。
加えて、ペロブスカイトの原材料であるヨウ素(図4に示す「X」)に関して、日本はチリ(60%)に次いで世界第2位の約30%を生産しており、かつ埋蔵量は世界一といわれています。
実証実験で耐久性の向上や大量生産への展望を拓く
〔1〕将来的に100MW程度の大量生産を見込む
今回の実証実験プロジェクトでは、より広いスペースへのPSCパネルの設置を目標としています。そうなると設置性を高めるために「いかに軽いパネルをつくるか」が重要となってきます。すでにペクセル・テクノロジーズでは桐蔭横浜大学と協力して、7cm角のシート上に、10セルを直列に接続した構造のペロブスカイトフィルム太陽電池を完成(写真4)させていますが、その厚さは150μm、重さは2g、出力電圧は10Vとなっています。
写真4 完成したフィルム状のPSC太陽電池パネル
Voc:Open Circuit Voltage、開放電圧。PSC太陽電池パネルの+極と-極を開放した時の両端間の電圧
PCE:Power Conversion Efficiency、エネルギー変換効率
出所 桐蔭横浜大学 宮坂 力、「超軽量ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた開発」、2024年11月12日〔令和6年度 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(港湾などの苛烈環境下における PSC の活用に関する技術開発)大さん橋 PSC 実証事業開始式より〕
この製造は、麗光様のロール・ツー・ロールの設備(図8)で行います。麗光様から今回の製造用に設備のご提供があり、大変ありがたく思っています。
将来的に、100MW程度の大量生産を見込んでいますが、それにはこのロール・ツー・ロールの生産設備が欠かせません。現在、桐蔭横浜大学の実験室では、理論限界に近い発電効率が得られる試作モデルができており、それを生産技術に落とし込むことを進めています。
フィルム型では幅が50〜100mmにも広くなる中、ごく薄いフィルムにいかに均質に塗工し、大量に生産するかが課題となっています。今回の実証実験では、そうした生産プロセスや技術の検証や改善も行います。
図8 ロール・ツー・ロール工程による生産技術の開発
ETL:Electron Transport Layer、電子輸送層。電子輸送層:ペロブスカイト太陽電池の発電層で生成した電子(エレクトロン:負電荷)と正孔(正電荷)のうち、電子だけを捕まえて電極に渡す層
HTL:Hole Transport Layer、ホール〔正孔(正電荷)〕輸送層。同じく正孔(正電荷)だけを捕らえて、電極に渡す層
封止:耐久性などを確保するための保護技術
出所 桐蔭横浜大学 宮坂 力、「超軽量ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた開発」、2024年11月12日〔令和6年度 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(港湾などの苛烈環境下における PSC の活用に関する技術開発)大さん橋 PSC 実証事業開始式より〕
〔2〕強みとなるフィルム型PSC製造の基本特許
ペクセル・テクノロジーズではPSCについて多くの特許権利を所有しています。中でもフィルム型の製造に関する基本的な技術に関する特許が多いため、大きな強みとなるはずです。また、社会実装には耐久性のさらなる向上も必須です。当社では劣化を抑えるための封止材やガスバリアフィルム(ガスの透過が少ないフィルム)の研究開発も進めており、今回の実証実験で確認します。
さらにマクニカ様では、社会実装を推進するシステムの設計・開発なども着々と進めていらっしゃいます。
このように、我々3社で互いの知見や技術を持ち寄り、冒頭に申し上げた通り「折れない矢」となってペロブスカイト太陽電池(PSC)パネルの開発を推進していく方針です。
結晶シリコン太陽電池よりも安い電気料金「6〜7円/kWh」が可能
ペロブスカイト太陽電池の社会実装が進めば、我々の試算では結晶シリコン太陽電池に比べ製造コストや市場のパネル価格ともに安価となります。また、年間発電量は、曇天や雨天における駆動も見込めるため、発電量が1割程度増加します。これが全国に普及すれば、電気料金は現在の石炭火力発電よりも安価な6〜7円程度になると見込んでいます(図9)。
今後、本格的に普及させるには、政府や自治体の交付金などによる支援も不可欠でしょう。それと今後の研究開発が進めば、日本の電力自給率の向上や地産地消など社会構造の変化が起こるはずです。そうなることを目指して、我々はこれからもこのプロジェクトを強力に進めていきたいと考えています。
(後編に続く)
図9 ペロブスカイト太陽電池による発電のコスト試算
出所 桐蔭横浜大学 宮坂 力、「超軽量ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた開発」、2024年11月12日〔令和6年度 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(港湾などの苛烈環境下における PSC の活用に関する技術開発)大さん橋 PSC 実証事業開始式より〕
◎宮坂 力(みやさか つとむ)氏のプロフィール
現在:横浜桐蔭大学 医用工学部 特任教授/ペクセル・テクノロジーズ代表取締役社長
1981年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。1981年富士フイルム株式会社、2001年桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授、2004年ペクセル・テクノロジーズ株式会社設立。2005年東京大学大学院総合文化研究科客員教授。2009年日本発(世界初)のペロブスカイト太陽電池に関する論文を発表。2017年東京大学先端科学技術研究センターフェロー。
参考サイト
株式会社マクニカ プレスリリース、2024年11月13日、
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向け、苛烈環境下での大規模実証開始~「横浜港大さん橋」デッキ上にて1月末まで実証~
株式会社マクニカ プレスリリース、2023年10月10日、
世界中で開発競争が激化する、日本発の未来技術「ペロブスカイト太陽電池」、 発明者の宮坂教授とマクニカが、環境省実証事業で社会実装に向け始動。