アルバカーキ市における商用ビルでの実証結果
〔1〕電力会社と同程度の電力品質を実現
(1)商用ビルでの独立運転の実証
図10に、アルバカーキ市における商用ビルの中での独立運転(Islanding Operation)の実証例をグラフで示す。
図10 アルバカーキ市における商用ビルでの実証結果備
〔出所 清水建設〕
縦軸は、①左側が電力(kW)・周波数(Hz)の目盛、②右側が電圧(V)の目盛で、横軸は時間(朝の9時00分から昼の12時30分)である。グラフは上から、電圧〔黒色、グラフの右目盛(v)〕、ガスエンジンの出力(濃紺色)、独立運転期間(黒の矢印、Islanding Operation)、周波数(赤色)、太陽光発電(Photovoltaic)の出力(青色)、蓄電池の充放電(緑色)、黄色はビルの受電電力(独立運動時はゼロ)、一番下の矩形波(薄い青色)はダミー負荷の投入状況を示している。
(2)ガスエンジンと蓄電池で電圧変動を補償
図10中のIslanding Operation(独立運転)と書かれている範囲が、系統電力を遮断し、商用ビルが完全に独立して運転した場合のグラフである。図10の最上部に示す電圧と中間に示す赤色の周波数が一定になるように、ガスエンジンが出力を変えている。ダミー負荷は、わざと負荷変動を加えるため操作している。
最上部のグラフに示す電圧が多少ギザギザになっているのは、エレベーターが動いたときに電圧が落ちたりする現象である。その際には、ガスエンジンと畜電池によって電圧の変動を補償しているが、多少、電圧の変動が生じている。ただし、赤色の周波数はほぼ一定に保たれており、少なくともこの商用ビルにおける独立運転時の電力品質としては、電力会社から送られてくる電力品質と同程度の品質基準を満たして運転できることが実証された。
〔2〕実証試験のまとめ「総括研究」:サイバーセキュリティ試験も
今回のマイクログリッドシステムの実証内容を広く理解してもらうため、研究全体のまとめとなる「総括研究」が行われている。具体的には、米国の標準化活動関係者の理解を得るために、EPRI(米国電力研究所)におけるユースケース例として登録する作業が行われた。このほか、サイバーセキュリティ試験をはじめ、PVの性能評価や単独運転技術の標準化の研究なども行われている。
さらに、系統に停電が発生した場合に、系統と連携して動作している多数のPVがきちんと停止するかどうか、日米でPVのインバータを相互で取りかえて、実証するような総括研究の実験も行われた。
実証内容を「IEEE 1547.8」規格として標準化へ
今回の実証試験の内容を取り込んで、IEEE規格として標準化する作業も行われている。具体的には、IEEE 1547注7という、電力系統と分散電源の相互接続(系統連係)に関するIEEE規格の拡張規格「IEEE 1547.8」の中に反映させることを目指してのことである。
このIEEE 1547.8はいわゆる推奨規格であるが、その中には、日本から提案した単独運転に関する規格が盛り込まれ、多数台あるPVをどのような方式で安全に停止できるかという、日本で開発された技術が書き込まれた。
実証実験の成果をベースに内外でビジネスを展開
このような米国ニューメキシコ州での実証試験の実績をもとにして、現在、内外で新しいビジネスの展開が開始されている。公表ベースであるが、今回の実証試験に参加した東芝や日立製作所、清水建設などからは、表2のような具体的なビジネスが発表されている。
表2 米国ニューメキシコ州での実証試験後の各社のビジネス展開
このように、ニューメキシコ州の実証の実績をもとに、すでに国内外で新たなビジネスが始まっており、今後の展開が期待されている。
▼ 注7
IEEE 1547.8:IEEE 1547標準「Standard for Interconne-cting Distributed Resour-ces with Electric Power Systems(電力系統と分散電源の相互接続)」の拡張機能(推奨事項)の1つ。
タイトル:Recommended Practice for Establishing Methods and Procedures that Provide Supplemen-tal Support for Imple-mentation Strategies for Expanded Use ofIEEE Standard 1547