中央大学 羽鳥光俊教授 VS NHK放送技術研究所 谷岡健吉所長
自動起動機能を備えたワンセグの開発へ
—携帯向けの「ワンセグ・サービス」が始まっていますが、ワンセグの特長、あるいはNHK放送技術研究所の最近の研究成果はいかがでしょうか?
谷岡 ワンセグ・サービスは、固定受信向けが中心の地上テレビ放送を、携帯電話などの携帯端末や車載受信機などの移動体においても見ることができるようにと生まれたサービスです。
ワンセグ・サービスは、地上デジタル放送の周波数帯域1チャネル分(6MHz幅)を構成する13セグメントのうち、1セグメント(ワンセグ)のみを使用してサービスを行います。したがって、この新しいサービスのために、新たな周波数の資源を使っていないということが大きな特長となっています。
NHKは、いつでも・どこでも持ち歩くワンセグの携帯端末で緊急警報放送を受信できるようにすることにより、視聴者の皆様が「安心・安全」をいつでも・どこでも持ち歩けるようにできるのではと考えています。
緊急警報放送は、ご存じのように、放送波に特殊な信号を乗せて、特定の機能を持つテレビやラジオなどの受信機を自動的に作動させ、災害に関する情報をいち早く知らせることを目的としているものです。
この緊急警報放送が適用されるのは、(1)大規模地震の警戒宣言が発せられた場合、(2)津波警報が発せられた場合、(3)地方自治体の長から避難命令などの放送の要請があった場合の3つに限られています。しかし、これまで緊急警報放送の受信は、待機時の消費電力の問題から、コンセントから電源を確保できる固定受信タイプに限られてきました。
携帯性に優れているワンセグで、緊急警報放送を受信できるようになれば、大災害時に非常に有効な情報入手の手段となります。この特徴を生かすために、ワンセグ端末の待機時における消費電力の大幅な低減化に取り組んでいます。
緊急警報放送を常時受信できるようにテレビ受信用の電源を入れっぱなしにしておくと、電池を消費してしまい、すぐに受信機の電池がなくなってしまいます。そこで、必要な時だけ電源をONにし、必要のない時はOFFにする仕組みを考えました。
すなわち、受信機(例:携帯電話)は放送用電波の状態を常にサーチしていて、緊急警報信号を受信した場合にだけ携帯電話のワンセグ・サービス受信用の電源を立ち上げ、どこで地震が発生したのか、どこへ避難するとよいのかというような情報を、ワンセグ・サービスから受け取るという仕組みです。これによって、国民の皆さんが安全に避難することができるようになるわけです。
—どれくらい消費電力を低くできるのですか?
谷岡 技研で開発した方式の実験回路を試作し、その性能を検証した結果、消費電力を従来のワンセグ受信回路と比べて、1/10以下にまで下げられるようになりました。メーカーと協力してIC化を進めており、早い時期に実用化できるようにしたいと考えています。
羽鳥 1/10とおっしゃったのは、待ち受けているための電池の消費電力が1/10ということですか?
谷岡 そうです。ところで、緊急災害情報については、携帯電話あるいはインターネットで情報を伝えるのでも良いのではないかと考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、携帯電話のような「通信」の場合には、災害時には多くの人々が一斉に使い出すために、輻輳(混雑)が起こり、地震が起きたときなどには電話がつながらなくなってしまうことがあります。このため、緊急警報放送時に自動起動するワンセグ端末の実用化が強く望まれているわけです。