[特集]

日米欧のクリーンエネルギー政策と次世代自動車を支える最新技術

― 拡大するHV/EV/PHV/FCV市場とH2V、自動運転 ―
2015/11/30
(月)
SmartGridニューズレター編集部

活発化する「自動運転車」の開発とそのロードマップ

 ここでは、冒頭に述べた第2の革命である「自動運転」について、どのように進展しているか、そのロードマップや自動車産業の動向を見ていく。

〔1〕自動車における2つの革命

 19世紀末に、「カール・ベンツ」と「ゴットリープ・ダイムラー」の2 人は、“馬のない馬車”、すなわち新しい乗り物をつくろうと研究・開発に取り組み、ベンツは、1886年に世界初のガソリン自動車をつくることに成功した注12

 このガソリン自動車の誕生から130年を経過した現在、自動車産業では、どのようなことが起こっているのだろうか。

(1)第1の革命:駆動装置の革命

 第1の革命は、駆動装置の革命である。先に解説したように、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の登場によって、自動車は「エンジン駆動車」から「モーター駆動」へと大転換し始めた。例えば、米国テスラモーターズは、2010年、100%電気自動車「Model S」を発売注13し、トヨタは2014年12月、燃料電池自動車「MIRAI」を発売した注14。いずれも「モーター駆動」である。

写真3 米国テキサス州オースティンの公道を走るGoogleの新型プロトタイプ自動運転車(Google Self-Driving Car)

写真3 米国テキサス州オースティンの公道を走るGoogleの新型プロトタイプ自動運転車(Google Self-Driving Car)

出所 https://www.google.com/selfdrivingcar/

(2)第2の革命:自動運転という革命

 第2の革命は、自動運転という革命である。これは従来から「自動車」といわれながら、その実態は「手動車」であったことから「自動運転車」への大転換であり、それを牽引してきたのは、2012年に自動運転車用ライセンス注15を取得したIT企業のGoogle(グーグル)とあって、自動車業界に激震が走った。

 さらに、2015年6月、Googleは自社で開発した自動運転車がシリコンバレーにおいて試験走行を開始し、続いて米国テキサス州オースティンの公道でトヨタの「Lexus RX450h」にセンサーなどを搭載した車両や、独自の新型プロトタイプの自動運転車を開発し、試験走行を開始したと発表した(写真3)。ハンドルもアクセルペダル、ブレーキペダルもない、完全な自動運転を可能にする試作機である。これらの発表を契機に、自動車業界の「自動運転車」への関心は、国際的に急速に高まってきた。

〔2〕「自動運転技術の枠組み」を発表

 このような背景のもと、日本自動車工業会は、東京ビッグサイトにて開催された第44回東京モーターショー2015の会期中の2015年11月6日に、「~自動運転は、クルマを、くらしを、社会をどう変えていくのか~」と題して、「SMART MOBILITY CITY 2015 国際シンポジウム」を開催し、「自動運転ビジョン」を発表した注16

 この発表の中で、図6に示す自動運転技術の枠組みとして、(1)自動運転方式の進化を時間軸(横軸)に、(2)走行環境の適用場所のレベルを縦軸にしてマッピングしている。(1)については、走行環境(適用場所)に応じて、自動化レベルとして、①運転支援 ⇒ ②部分的自動 ⇒ ③条件付き自動 ⇒ ④高度な自動 ⇒ ⑤完全自動の段階を経て進化・発展していくことを示した。

図6 自動運転技術の枠組み(日本自動車工業会)

図6 自動運転技術の枠組み(日本自動車工業会)

出所 日本自動車工業会の東京モーターショー2015の資料、2015年11月6日発表より、 http://www.jama.or.jp/safe/automated_driving/pdf/vision.pdf

(1)自動運転方式の進化・発展

 また、図6の下段に示すように、自動運転の枠組みとしての自動運転方式は、当初は「自律型」といわれ、車載センサーによって周辺の認識を行うが、これに、車車間通信や路車間通信を利用して、周辺やその地域情報と連携させ、環境認識を高度化させる「協調型」へと進化・発展させていく。

(2)適用場所のレベル

 また、自動運転車の走行環境が「駐車支援のようにシンプルな走行環境であるか」、「過密な市街地のような複雑な走行環境であるか」のレベルによって分類している(縦軸)。

 図6の枠組みには、自動運転技術で実現する代表的な走行機能〔例:駐車支援、渋滞追従、自動レーンチェンジ、分岐、合流、障害物回避、交差点通過(あるいは右折・左折)などの機能〕を記述している。図6の右上の機能に近づくほど難易度が増し、技術開発の時間が要求される。

〔3〕自動運転の展開シナリオ(ロードマップ)

 図7は、日本自動車工業会が考える、現在から2050年まで自動運転の展開シナリオ(ロードマップ)を示したものである。

図7 自動運転の展開シナリオ(ロードマップ)

図7 自動運転の展開シナリオ(ロードマップ)

出所 日本自動車工業会の東京モーターショー2015の資料、2015年11月6日発表より、 http://www.jama.or.jp/safe/automated_driving/pdf/vision.pdf

(1)各年代と自動運転の社会的位置づけ

 自動運転は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを1つの契機として、大きく次の3つの年代に分けて進展していくと予測されている。

  1. 2020年頃:自動運転の実用化、導入時期
  2. 2030年頃:普及拡大、展開期
  3. 2050年頃:社会的に定着、成熟期

(2)展開シナリオに伴う諸課題

 図7の展開シナリオを実現していくには、自動車業界における技術の研究開発をはじめ、法的な整備や通信/データ提供インフラ、次世代交通環境の整備などを、産官学の連携を強化して取り組むことが求められる。さらに、社会的なコンセンサスを深めることと同時に、予防安全や運転支援システムを普及させることも重要である。

 ここまで、日本自動車工業会が考える自動運転の2050年までの展開シナリオを見てきたが、今後は、自動運転車であるだけに、(運転の主体がドライバーでなく自動運転車そのものになるため)事故時の責任の所在が大きな課題となってくる。また、国際的な視点から、国際条約との関係も十分吟味してくことが求められる。

〔4〕活発化する世界の自動運転への取り組み

 最後に、日本の内閣府や世界の自動運転への取り組みのいくつかを列挙してみる。

写真4 トヨタのMobility Teammate ConceptとHighway Teammateの概要

写真4 トヨタのMobility Teammate ConceptとHighway Teammateの概要

  1. 内閣府:国家戦略特区「完全自動走行(レベル4)の実現に向けた具体的プロジェクト」を発表(2015年10月1日)。完全自動走行を見据えた環境整備の推進 の例として、近未来技術の自動走システムについては、「官民ITS構想・ロードマップ2015」(2015年年6月30日、IT総合戦略本部決定)における自動走行システム、いわゆる「レベル4(完全自動走行)」までの技術開発を目指し、適切に実証実験を実施し、その効果を検証していくことが必要であるとしている。⇒ https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/kinmirai/h271001shiryou.pdf
  2. トヨタ:自動運転のコンセプト「Mobility Teammate Concept」のもとに、2015年10月、高速道路における自動運転の公開実験実施(レクサスに人工知能搭載)。トヨタは、2015年10月29日(木)~11月8日(日)、東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催された第44回東京モーターショー2015」において、2020年頃の実用化を目指して開発している自動運転実験車(Highway Teammate)の実証内容を展示した(写真4)。高速道路でのランプからの合流、レーンチェンジと追い越しなどを自動走行することに成功している。
  3. 日産:自動運転コンセプト「ニッサン インテリジェント ドライブ」のもとに、自動運転技術搭載車を段階的に投入する。2015年10月23日、新型の自動運転実験車両を公開し、2016年に日本市場に導入予定。「リーフ」(EV:電気自動車)ベースの自動運転実験車となっている。
  4. ホンダ:首都高速道路で自動運転実験車によるデモンストレーションが行われた(2015年11月3日、東京モーターショー2015)。実験車はハイブリッド車『レジェンド』(セダン)を改造したもの。2020年頃に高速道路での実用化を目指している。
  5. メルセデス・ベンツ:自動運転車のコンセプトモデル「F015 Luxury in Motion」を2015 International CES (2015年1月)で発表。
  6. BMW(ビー・エム・ダブリュ): BMWはセダン「7シリーズ」の新型モデルを発表(2015年10月)。前方の車に合わせて停止や発進をする部分的な自動運転技術などを搭載している。
  7. Audi(アウディ):2015 International CES (2015年1月)で、自動運転車をサンフランシスコからラスベガスまで走らせた。半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)と自動運転車を共同開発している。
  8. GM(ジェネラルモータース):2017年に高速道路において自動運転を行うキャデラック「CT6」を発売すると発表(2015年10月)。

*    *    *

 2015年11月30日~12月11日、フランス・パリにおいて、COP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)が開催される。同会議では、2020年以降の世界主要各国の温室効果ガス排出削減の枠組みが決定されるため、注目を集めている。

 次世代自動車の、環境(問題)やスマートシティ/スマートコミュニティにおける新しい役割は、ますます重要な位置づけとなってくる。


▼ 注12
メルセデス・ベンツとは、ドイツの自動車のブランド名であり、製造・販売しているのはダイムラー社(Daimler AG)である。ブランド名と会社名が異なっているが、どちらもガソリン自動車の誕生に関わった人物に由来している。出所 https://gazoo.com/car/history/Pages/car_history_011.aspx

▼ 注13
「Model S」を発売 ⇒ https://www.teslamotors.com/jp/about

▼ 注14
「MIRAI」を発売 ⇒ http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/4197769

▼ 注15
自動運転車用ライセンス:公道で自動運転車の試運転することに、初めてネバダ州のDMV(Department of Motor Vehicle、自動車登録免許管理局)から承認を受けたこと。

▼ 注16
http://www.jama.or.jp/safe/automated_driving/pdf/vision.pdf

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