FITはサステナブルなビジネスをつくるためのツール
江崎:前編では、日本の電力・エネルギーの自給率から、FIT(固定価格買取制度)の基本的な考え方についてお伺いしました。
ここでの重要なメッセージは、「短期的なファイナンシャルモデルをつくったら失敗となる。だから、基本的にサステナブル(持続可能)なビジネスをつくるためのツールとして、FITをきちんと見てください」ということですね。
村上:「42円で20年」があるからこそ、電力需給も含めてエネルギー供給の基盤を電力会社から新規参入事業者にシフトさせる構造改革の戦略的ツールになる。サステナブルなビジネスは、投資を長期に考えることができれば、十分攻めの投資として成立する。そんな風に考えてもらえるように、この制度を定着させたいと思っています。
江崎:そうすると前提として、20年間は、新たな電気を買い取る既存の電力会社は潰れないはずだということでしょうか。
村上:別に既存の電力会社がつぶれてはならない、ということは必要ありません。ただ、電力利用者との関係で、制度上、電力供給サービスそのものは、きちんと誰かに引き継がせ、全体としての安定供給は守らなければなりません。つまり、「どのような事態になっても、一般電気事業者に代わってその分の電力供給をきちっと賄えるサービス提供事業者がいるという仕組みにする必要がある」という前提で考えています。ただし、それが今の一般電気事業者なのか、発送電分離後の電気事業者なのか、あるいは、それらが統合されてさらに強くなった新たな電気事業者なのかは、僕にもよくわかりません。
江崎:それはおもしろいですね。前編でも話題となった、第二電電のことを考えたときに、NTTはその時点で、多分20年は潰れないだろうなという算段はあったと思うのです。しかもNTTは体力がある企業なので、少々市場を失っても残るはずだ。つまり、NTTは体力があり過ぎたので、シェイプアップしながらも生き残れるという前提があったため、当時のNTT民営化、通信の自由化のプランはすごくつくりやすかったはずなのです。
これに対して、今回の電力自由化の場合のリスクとしては、NTTの民営化とほぼ似たようなモデルを、FITをツールにして行うことになるのです。このとき、既存の電力会社の体力がもつかどうかということと、また一方で、もし既存の電力会社が破綻した場合に、どのような仕組みで継続的な(いわゆる)バックボーンの電力・エネルギー供給会社をつくるか、ということが問われることになりますね。
村上:そうです。それを今までは、「電力の安定供給の義務が課せられてきた代わりに、政府の規制によって守られてきた従来の電力会社」と、「自由化しても、結果としてなお大丈夫であろう」というところをミックスしながら見てきたわけです。しかし今回は、そのようなニュアンスとは異なり、完全自由化のベースをつくりながら、なお結果として安定供給が保障されるような仕組みをどうつくるか、という勝負になってくるのです。
江崎:まさにNTT民営化の場合と同じです。
村上:同じですよ。自分は、前回の電気通信の自由化のときに、その政策論議の最前線にいましたから、ものすごくデジャビュ感注1があるのです。
江崎:ですから、NTTの方と話をすると、どうして自分たちだけが、なぜこんな不合理なことをやらなきゃいけないのだと、今でも言われますね。でもそれは、プライマリーキャリア(第1の通信事業者)としての責任であり、仕方がないことですね。
▼ 注1
デジャビュ感:既視感。デジャビュは、フランス語で「すでに見た」と言う意味の「déjà-vu」。既視感とは、現実には一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことがあるように感じること。