電力システムの改革にとって大きなチャンス
江崎:しかし、電力エネルギー問題については、経済産業省は歴史的にもかなり研究を重ねてきましたね。
村上:はい。電力担当なども一生懸命で、もう10年も20年もの時間をかけて、自由化など様々な課題に取り組んできています。
江崎:ある意味ではチャンスなのですね。
村上:そうですね。被災された方々との関係を考えると、軽々にチャンスだなんて言葉を使ってはいけないと思いますが、でも、電力システム改革についてだけ言えば、日本は大きな転機を迎えています。
江崎:具体的に、例えばFITについては、世間的には太陽光発電に向き過ぎていますが、村上さんがおっしゃったように、実はもう太陽光発電をはじめ風力、地熱、中小水力発電など、複数の再生可能エネルギーの集合全体(ポートフォリオ)で考えなくてはいけなくなってきている時期と思いますが。
村上:そうです。
江崎:そういうことがきちんとわかってくると、持ち株会社としては、太陽光発電や地熱発電事業部もあるし、シェールガス事業部もあるというなかで、例えば、現在は太陽光発電が稼ぎ頭なのでここにキャッシュを流す。しかし、経営的には次はどこに投資するかという計画が必要となりますね。
村上:そうなのですが、もっと手前から言えば、日本のエネルギー全体の供給構成自体が、2012年夏がそうだったように、9割火力・1割水力という、かなり危険な状態となっています。
なぜならば、2012年の夏においても、春の時点で燃料調達の見通しが立ってなくて、カタールからものすごく高い天然ガスのスポットを買って、急場を凌ぎました。しかし、そのカタールの元首が2012年秋にどこに行ったかというと、あの内戦で大変なことになっているシリアの元首のところに行っているのです。イラン情勢もありますし、ご存じのとおり、中東は非常に不安定な情勢。また、シェールガスが出てきて中東の石油が不要になり始めた米国も、以前ほど熱心に中東の安全保障にコミットするかどうかはわかりません。このような不安定な状況を見ていると、我々はオイルショック注7のときに、いったい何を学んだのだろうかと疑ってしまいます。
そのような背景のなかで、省エネ、再生可能エネルギー、火力、それに脱原発・再稼働の課題や国民感情もありますが、当面は原子力も含めた4本柱で、何が起きても大丈夫という電力・エネルギー体系を10年後に実現するために、今何をスタートしておくべきかを考えなくてはならないのです。その中で、再生可能エネルギーはどこまで実現可能なのか、ということです。
再生可能エネルギーのなかでも、現状は、リードタイムの比較的短い太陽光に焦点が当てられています。太陽光は分散型電源として広く普及させる電源として高いポテンシャルのある電源ですが、正直に言うと、マクロに大量の発電量(大容量)を期待できる電源ではありません。
江崎:最近では、費用対効果の面から、太陽光発電に比べて太陽熱発電のほうが効率がよいという結果も出て、話題になってきていますね。
村上:再生可能エネルギーの量の面からの本丸としては、大容量の風力発電や地熱発電が期待されています。しかしそれを普及させるには、電力系統(電力システム)が整備されたり、規制がきちんと緩和されたりしている必要があります(図3)。
図3 再生エネルギー導入拡大に向けた電力システムの課題
〔出所 経済産業省「再生可能エネルギー導入拡大に向けた電力システムにおける課題」、2012年4月、http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/003_s01_05.pdf〕
例えば、しっかりとした系統整備や規制緩和を進めないまま、買取価格だけで無理に風力の普及を進めると、結果として、立地条件の悪い小規模な風力発電の開発を無理に後押ししてしまうことになります。こうした条件の悪い風力発電所を量産すれば、結局、構造赤字を生み出すこととなり、日本に負の資産を残してしまうでしょう。
ですから、立地条件や事業環境の改善をしっかりと進めながら、風力や地熱などを本格的に進められる準備が整うまでの当面の間は、太陽光発電を中心にしたFIT(固定価格買取制度)の活用を図っていく。前編で紹介した注8コンビニA発電のケースのような、本当に意味のある動きを展開していく。
シンプルな太陽光発電が、条件の良い土地が少なくなってネタ枯れし始めたころには、大容量の風力発電や地熱発電など次の本丸が普及できるようにしておく。
一方、太陽光自身もパネルを軽量化させて用途を広げたり、効率よりもウェアラブルな実装技術の多様化で、電気のポータビリティなどともあわせて新しい利用分野を開拓し普及させていったりなど、取り組みの多様化も重要になってきます。
▼ 注7
オイルショック:例えば1980年9月に開始された中東でのイラン・イラク戦争よる第二次オイルショックによって、原油価格は18ドルから39ドルまで高騰した。
▼ 注8
本誌2013年1月号、8ページ参照。