重要な42円・20年ファイナンス(FIT)の体験と人材連鎖
江崎:いろいろ言われますが、再生可能エネルギーというのは、企業再生のツールなんですね。電話システムと似ています。民営化・自由化のおかげで、逆にNTTの価値は社会的に再認識されたところがあります。
村上:そうあってほしいという気持ちはあります。もう1つの切り口として、地域経済の活性化との関係があります。通信の世界で言えば、旧2種事業者プロバイダチックな地域の事業者の一部が、最後に行き場を失い生き倒れたような世界と同じようなことが、再生可能エネルギーの世界にもあり得るということを心配しなければいけません。
FITを地域活性化にもう少し上手に使えないか。大企業の国際ビジネス並みのリターンレートを求めるのは厳しいですが、リターンが低くてもよければ、損はしない自立できるプロジェクトの絵はだいたい描くことができます。そこは、FITが保証するキャッシュフローの世界の力が大きな貢献を果たせます。しかし残念ながら、FITがあってもなお、そこに出せるファイナンスが地域ではなかなか組めないのが実情です。大手企業の資本とかメガバンクに出資してもらおうとすると、リターンレートが他分野にコミットする場合と比べ低過ぎるため、相手にされない。自分でファイナンスを組もうにも、億円単位のお金では保証や担保が出せず、結局ファイナンスを組んでもらえない。このため、まだ地域主導の再エネプロジェクトがなかなか立ち上がってきていないのです。
江崎:現在、ISP(プロバイダ)はどんどん集約されている状況です。これまで、小さなファイナンシャルスケールでうまくいっていましたが、急速な技術革新についていけずに大変になってくると、合従連衡を始めるというプロセスに入りますから、あまり心配しなくてよいのではないかとも思いますが。
村上:再生可能エネルギー事業本体とは別に、例えば空いている公有地や建物の上にメガソーラーを張って、42円・20年ファイナンスで薄く広くもうけた利益を、例えば学校などで、再生可能エネルギー教育をしてあげるための太陽光パネルキットを配布したりして使い、収支相償注10するような活動をすることも考えられます。
あまり集約を進めなくても、そのようなレベルの活動が組めるのがFITのもとでの再エネビジネスの特徴です。
アメリカでも、本来の意味での中間支援組織に支えられて、小規模でも健全な事業を行っているNPOのようなレベルの事業層がありますが、この層が、自治体の補助金か大企業の支援に偏りすぎていて、日本ではごっそり抜けているのです。こういう事業もしっかりサポートして、地域の社会的共通資本になるような、自立的な人材のネットワークをつくれるとよいなと思っています。
江崎:はい、わかります。
村上:せっかく、地域自律的なプロジェクトを作るポテンシャルがあるのに、大企業でも投資できるような2桁ぐらいのリターンがあるプロジェクトか、いきなり補助金の需給対象となるような赤字プロジェクトか、どちらかに振れてしまう。これが現状なわけです。
これは、両極端過ぎます。地域の自立と言いながら、補助金をもらうために構造的赤字プロジェクトを続けるような矛盾したことは、まさに、地域経済の活性化のために絶対やめたほうがよい。
本当は、地方銀行や信用金庫などが中心になって、多少低いリターンレートでもなお、「地域に入るお金だから地域でちゃんと還元しましょう」というお金のサイクルがあってもいいはずだと思います。
今はそこが抜けてしまって、地方の金融機関で何が起きているかというと、みんな国債を買ってくれているわけですよね。
江崎:どちらかというと人材育成のほうが取り組みやすいのかもしれないですね。
村上:もちろんです。要するに、これを使ったプロジェクトを経験してもらうこと事態が重要な人材育成なんですよ。実践しようとした瞬間に補助金プロジェクトしかないっていうことを繰り返してきているので、補助金エージェントは育っていても、まともな経済人が地域に育っていない。
こうしたビジネスセンスのある、キャッシュフローを正確に書ける人材を育てるチャンスとしても、FITによる基礎的な支援は魅力だと思うのです。
江崎:ですから、おもしろいのはやはり、技術もオペレーションもファイナンスもわかるというワンセットでないと、事業が継続しませんね。
村上:そうなんです。そのために一番簡単なことは、第一歩は、規模は小さくてもいいから全部自分でやってみることではないでしょうか。
そういうプチ(小型)事業経験をしている人をたくさん輩出して、なお、その失敗が次の事業に生きるような環境をきちっとつくってあげることが大切だと思うのです。
42円・20年ファイナンスで、一度プロジェクトを体験した人がいるからこそ、次にもうちょっと大きいことに挑戦できる。それがまた、もう少し大きい事業に挑戦する人材を育てる。そういう人材連鎖があるようなマーケットができることが大事なことなのです。
2013年は、日本のエネルギー戦略の屋台骨を決める年
江崎:最後に、2013年はFITも含めて、再生可能エネルギーにとってどういう年なのか、村上さんから一言お願いします。
村上:「ぶれないかどうかが問われる年」だと思っています。要するに、皆さん短期のポートフォリオに振り回されて、行き場を失ってしまっている。誰かが、みんなでここの長期的なビジョンで日本はこっちに行こうじゃないかって束ねていかなくてはけない。多くの人は、市民レベルでも、既に直感的にわかっていらっしゃるように思います。
しかし他方で、それを単純に今の政府にも期待できない。かといって、それがマーケットだ、競争だという中から単純には出てこないということも、ここ数年で、もはやはっきりしてきてしまったわけですよ。特にリーマンショック以降はほぼ絶望的な状況なわけです。
その中で、この人と、この人の周りにいる動きだけはぶれないで、長期的に、この筋の話の流れはこれで行けそうだというものを、日本の中にどれくらいつくれるか。それによって、どれくらい長期のポートフォリオというものを日本の中に取り戻せるかが、国家戦略として勝負だと思っています。FITという制度を担当してつくり担当課長をしていますので、まず、「おまえがぶれないのが仕事だろう」ということで、ぶれないかどうかが問われる年だと思っています。
江崎:2012年12月に政権がかわりましたので、またいろいろ難しい問題があるかと思いますが、私は、真理が問われるときなのかなという気がします。今回の対談でポイントだったのは、「ぶれない」と同じで、専門分野をもっている人がきちんとリーダーシップをとれるかどうかという、勝負の年だということです。それが問われる年であり、そのなかで、エネルギー戦略の屋台骨を決める年になるのではないかと思います。(終わり)
福島県にみる「浮体式洋上風力発電プロジェクト」の例
福島県は、浮体式洋上風力発電の実証実験を2011年度から開始した。すでに「再生可能エネルギー推進ビジョン」(2012年3月改訂版)を策定し、2040年までに県内のエネルギー需要の100%以上の相当量となるエネルギーを再生可能エネルギーで生み出す計画。政府は2011年度第3次補正予算で福島復興のために125億円を計上しており、丸紅、東京大学、三菱商事、三菱重工業、アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド、三井造船、新日本製鐵、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研の11社からなるコンソーシアムが、経済産業省から委託事業として「浮体式洋上ウインドファーム実証研究事業」を進めている。
同事業は、福島県沖の海域に、浮体式風力発電機3基と洋上サブステーション1基を建設して行う。2011年度中に開始した第1期実証研究事業では、2MWのダウンウィンド型浮体式洋上風力発電機1基と、世界初の66kV浮体式洋上サブステーション、および海底ケーブルを設置する。2013〜2015年度の第2期実証研究事業では、7MW級浮体式洋上風力発電設備2基が追加設置される予定(http://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2012/html/0000014294.html)。
図1 2040年までに一次エネルギーを超える再生可能エネルギーの計画
〔出所 福島県再生可能エネルギー推進ビジョン(改訂版)2012年3月、http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/re_zenpen.pdf〕
図2 福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業の完成イメージ図
▼ 注10
収支相償(しゅうしそうしょう):公益目的の事業で、その事業による収益がそれを実施するために要する適正な費用を超えてはならないという規定。