[「日本卸電力取引所」の役割と課題]

新電力ベンチャー登場時代の「日本卸電力取引所」の役割と課題≪第2回≫

─「新電力」のバランスをとったビジネス展開─
2014/08/01
(金)
SmartGridニューズレター編集部

3. 卸電力取引所の特徴

図3は、卸電力取引所の特徴を示したものである。図3からわかるように、取引は、相対取引とは異なる特質をもつ。相対取引は、事業者間で1対1で売買する。注3これに対し、取引所は売買当事者がN対Nで取引するので、透明性をもっている。
 
例えば、「ある事業者が、ある事業者に1kWhの電力を15円で売ったが、別の事業者には、同じ供給条件で16円を要求する」というような事象は万が一にも起こり得ない。取引所取引においては、価格は公表され、透明性ならびに参加者間の公平性が確保されるシステムとなっている。 
 
卸市場から電気を調達する小売事業者にとって、卸電力取引所の卸市場の価格は公表され、送電網の利用料金も公表されているので、小売の顧客に対する小売価格の説明にも役立つのである。
 
また、取引所取引は、電気の受渡時間帯や量の単位や債務不履行時の扱いなど、あらかじめ取引規格が決まっているわけであるから、入札するときは価格と量だけ決めればよいことになる。その意味では石油などと同じようなコモディティ、いわゆる「商品」であるとも言える。
 
図4は、JEPXに求められることを6つほど挙げている。JEPXは取引費用の削減に寄与するとともに、清算機能(クリアリング機能:金融機関を介した決済手続きの機能)をもっているので、市場参加者にとってクレジットリスク(信用リスク:債務不履行の危険性)が遮断されている。一般に、取引相手が倒産した際に入金されなくなくなってしまうリスクがあるが、JEPXではそのような場合に債権者を保護する仕組みを用意している。
 
具体的な例として、例えば、米国のエンロン事件注4が有名である。あのとき、エンロンの取引相手は余波を受けて、かなりの債権の焦げつきが出て連鎖反応が起こり倒産が相次いだ。このような事態に備え、JEPXにおける取引では、預託金(保証金)を預かるため、クレジットリスクは非常に低くなる。
 
電力自由化以前からの相対取引の場合は、信用力の高い一般電気事業者が主たる買い手であったため、電力ビジネスにおけるクレジットリスクは、あまり意識されなかったのが実情であろう。しかし、電力ビジネスへの新規参入企業が急速に増大している状況では、クレジットリスクが課題になる。仮に、信用力が未知数の新規参入者でも電力取引所に加入し、預託金(預託金の金額はその取引量の大小と比例する)さえ預け入れれば、大手事業者と同様の与信条件で卸電力市場に参加できる。

▼注3
例えば日本最大の卸電気事業者であるJ-POWER(電源開発)が電力会社に相対で販売するなど。
 
◆図3 出所
〔「卸電力取引所について」、日本卸電力取引所〕
 
 
◆図4 出所
〔「卸電力取引所について」、日本卸電力取引所〕
 
▼注4
エンロン事件:米国エンロン社(1985年設立)の不正発覚事件のこと。総合エネルギー企業であるエンロン社は、多角的な事業を展開する大企業に急成長した。2001年10月、会計に関する不正( 粉飾決算)が明るみに出て、エンロンの株価が暴落。結局、2001年12 月に同社は破産宣告を出し倒産に至った。この時期に、いろいろな企業の不正が明らかとなり、エンロン一企業の倒産だけにとどまらない大事件に発展した。
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