日本では2020年に35億個のデバイスがIoT接続へ
写真1 黒瀬 善仁氏(京セラコミュニケーションシステム株式会社 代表取締役社長)
出所 SmartGridニューズレター編集部撮影
IoT時代を迎えて、ネットワークに接続されるモノ(接続機器)は、従来のパソコンやスマートフォン、ウェアラブル端末だけではなく、自動車や家電機器をはじめ、製造業・農業・医療などで使用される、大量のセンサーや通信モジュールなどのIoTデバイスが接続されるようになる。
具体的には、図1のグラフに示されるように、2020年には全世界で500億個を超えるIoTデバイスが普及すると予測されている注2。また、別の調査レポート(Machine Research社)によると、日本は第3位のIoT立国ともいわれており、日本で世界の約7%に相当する35億個程度のデバイスが普及すると見られている。
図1 日本のLPWAの市場予測
出所 情報通信審議会作業班資料:「SIGFOXネットワークのご紹介」(京セラコミュニケーションシステム株式会社)、2016年11月24日、http://www.soumu.go.jp/main_content/000450876.pdf
LPWAサービスを提供するKCCSとSIGFOXのプロフィール
〔1〕KCCSのプロフィール
2017年2月からLPWAサービスを開始するKCCSは、表1に示すように、1995年に京セラから分離独立して設立され、京セラが76.3%、KDDIが23.7%を出資し連結の従業員数が3,000名を超える企業である。
表1 京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のプロフィール(敬称略)
出所 http://www.kccs.co.jp/company/overview.htmlをもとに編集部作成
写真2 ルードビック・ル・モアン(Ludovic Le Moan)氏(SIGFOX CEO)
前述したように、2020年には全世界で500億個ものIoT関連デバイスが接続されていくと予測されているが、KCCSは、この膨大な市場に着目し、同社のMVNO注3などの経験を活かして現状を分析し、IoTに特化したネットワーク「SIGFOX」を採用したサービスの提供を開始する。
図2に示すように、現在、高速・長距離通信を実現する3G/LTEや、距離は短いが気軽に高速通信に使えるWi-FiやBluetoothなどのネットワークは存在する。しかし、これまでIoT時代に求められる「低コストで、低消費電力、シンプルに(簡便に)かつ長距離通信ができる」LPWAのようなネットワークは存在しなかった。このようなLPWAネットワークの位置づけを示したのが図2の赤枠部分である。
図2 無線ネットワーク全体におけるLPWAの位置づけ
出所 日比 学、「KCCS IoT Conference」資料(京セラコミュニケーションシステム株式会社)、2016年12月13日
このLPWAには、SIGFOXのほかLoRa
WANやNB-IoT、eMTC注4などの規格が登場しているが、これらはそれぞれの特徴をもちターゲットも異なることから、今後、用途によって棲み分けられていくと見られている。
〔2〕SIGFOXのプロフィール
SIGFOX注5、注6とは、LPWAという通信方式に特化したIoT通信サービスを提供するグローバル通信事業者(表2)であり、同時にLPWAのネットワーク名でもある。このSIGFOXネットワークは、2016年のリオデジャネイロ オリンピック・パラリンピックでも活躍し話題となった。同社は、フランスの飛行機メーカーとして有名なエアバス社(Airbus S.A.S)などがあるトゥールーズ近郊のラベージュに本社がある。
表2 SIGFOX社のプロフィール(敬称略)
SIGFOXのビジネスモデルは、1国1事業者と契約して「基地局とクラウド」を各事業者に提供し、その事業者がネットワークの構築・運用を行うというモデルで、今回、日本ではKCCSが唯一SIGFOX社と契約を結び、SIGFOXのサービスを提供するオペレータになった。
SIGFOXネットワークは、IoTを普及・促進する際に障壁となっていた4つの制約を打破することができた。次に、この点について見ていこう。
▼ 注1
LPWA:Low Power Wide Area、省電力型広域無線ネットワーク。IoTデバイスを大量に相互接続するために開発された、「低価格」「低消費電力」「長距離通信」が可能なネットワーク。免許が必要なLTEベースのセルラー型LPWA(例:NB-IoT、eMTC)と、免許が不要な920MHz帯(日本の場合)を使用する非セルラー型LPWA(例:SIGFOX、LoRaWAN)の2つの流れがある。
▼ 注2
総務省:平成27年版 情報通信白書、http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h27.html
▼ 注3
MVNO:Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者
▼ 注4
詳しくは本誌2016年11月号、12月号および2017年1月号を参照。
▼ 注5
SIGFOXの意味:SIGFOXのコミュニケーション担当副社長トーマス・ニコルズ(Thomas Nicholls)氏は、フランスのDirectIndustry e-Magazineの質問(2016年4月)に、「SIGFOXとは“賢い信号”(Clever Signal)を意味し、ラジオの世界では、FOXは非常にクリアな信号(Very Clear Signal)を指す」と答えている。また、「接続の民主化(Democratization of Connectivity)のためのソリューション(多くのデバイスが誰でも安く接続できるソリューション、という意味)である」とも答えている。
http://emag.directindustry.com/qa-sigfox-the-twitter-of-the-iot/
▼ 注6
SIGFOXは、第一次世界大戦中に、海底通信のために開発され使用された「超狭帯域(UNB:Ultra Narrow Band)技術」をベースに開発された、リモートデバイスの接続を容易に可能にする「セルラースタイルシステム(携帯電話スタイル)」によるLPWAである(※)。
(※)Mawad, Marie., “Sigfox Revives War Tech in U.S. for Alternative Network”、2014年10月9日、
https://www.bloomberg.com/news/articles/2014-10-09/sigfox-revives-war-tech-in-u-s-for-alternative-network、参考 https://en.wikipedia.org/wiki/Sigfox