[「環境とビジネス」を一体にした新パラダイムへパリ協定はどう達成すべきか]

「環境とビジネス」を一体にした新パラダイムへパリ協定はどう達成すべきか《後編》

― 地球温暖化対策への取り組みは企業競争力を高める ―
2018/04/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

海外に学ぶ「どこに向かうのか、その大局的な方向を示すこと」

末吉 私もそう思います。とくに海外に学ぶところが多いのは、それが「できる、できないということは別にして」とにかく「どこに行くのか、その大局的な方向を示すこと」を重視していることです。それが企業や人々を導いていくのです。

 COPの中のさまざまな議論を背景に、世界はパリ協定でゼロ・エミッションに行くことを決めたわけです。

 ですから日本は、ゼロ・エミッションの実現に向けて、具体的に何をするのか明言すべきだと思います。国際的には、先に宣言し普及させたほうがルールになってしまうのです。

メルケル首相はどのように原発廃止を決定したか

〔1〕エネルギー検討委員会ではなく、倫理委員会で審議

石田 欧州ではそのような重要なことを決定するときは、利害関係者(ステークホルダー)を入れると必ず反対され、まとまらないので、入れないし相談もしないそうですね。

末吉 その通りです。その例として、ドイツのメルケル首相が、福島第1原発の爆発事故(2011年3月11日の東日本大震災を契機に事故)が想像を絶するものであったため、事故の直後に、ドイツは2022年までに17基の原子炉注11をすべて停止すると発表しました(2011年5月30日)。

 あのときメルケル首相は、エネルギー検討委員会ではなく倫理委員会を設置し、そこでドイツの原発をどうするか議論させたのです。その倫理委員会には、エネルギー関係者は誰も入っていませんでした。日本だとすぐ当事者(電力会社等)やエネルギー関連の業界団体、経営関連の団体を集めて聞く傾向があります。

 しかし、日本のこのような関係者や業界団体をベースにものを考える時代はもう終わったのです。

石田 日本とドイツではエネルギー事情などが異なるので、一概に何とも言えないところもありますが、メルケル首相も、日本では考えにくい思い切った方法で議論されましたね。

〔2〕発電とクルマではなく実質的には建物の問題

末吉 エネルギーと環境問題でCO2というと、すぐに発電とクルマの話になりますが、私は、実質的には建物だと思うのです。これには大きなビルディングだけでなく、住宅も入ります。今、日本には住宅が5,000万戸くらいあります。これを国の政策で、20年間で全部ZEHに建て替えてしまう政策を打ち出してはどうでしょうか。すると、1年で200万戸がZEH住宅となるということになります。

石田 そのときの問題として、建て替え費用の問題があります。また、カーボンプライシング注12は、日本では現在、審議中でやや導入が難しいという議論がされていますが、海外ではカーボンプライシングの導入を成功させる検討が進められています。

末吉 そこが知恵の出しどころで、税制をどう活用するか。それと今、日本は金融がお金の貸しどころがない。

 現在、全国銀行協会ベースによる銀行の預金残高は約800兆円、銀行が貸し付けている貸出残高は約500兆円で、約300兆円が預金過多なのです。その300兆円のうち200兆円が国債などに使われています。銀行があと100兆円貸せば、約600兆円のお金を貸し出すという状況が生まれるのです。

 このように、お金の使い方で世の中を変えることができます。

石田 多分、日本の将来に不安があるのかもしれません。不安がなければ企業も投資しようということになります。しかし不安があると企業の内部留保は多くなっていきます。


▼ 注11
参考サイト

▼ 注12
カーボンプライシング:CO2(二酸化炭素)に価格を付け、企業や家庭から排出されるCO2の量に応じて負担することで、CO2の排出削減を促す施策の総称。現在、環境省の「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」(第1回は2017年6月2日)で審議中。最近では、第9回が2018年年3月9日に開催された。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cp/arikata/index.html

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