積水ハウスの2050年ビジョンと「RE100」への加盟
〔1〕Japan-CLPの創立当時からの流れ
─編集部:ところで、日本では2009年7月に、持続可能な脱炭素社会の実現を目指す企業グループ「Japan-CLP」注7が設立され活動していますが、こうした活動と積水ハウスのビジョンとの関係について教えていただけますか。
石田 積水ハウスは、周りを見ながら、他の企業の動向に左右されて決めたわけではなく、世の中にとって何が必要なのかという視点から、長期ビジョンを作ってきました。前編でも申し上げたことですが、図2に示すように、当社は日本で最初に、
- 2008年注8に2050年ビジョン「脱炭素宣言」
- 2015年のCOP21開催中のパリで「GABC」(Global Alliance for Buildings and Construction、建物および建設部門における共同宣言)に調印注9
- 同じく2015年(COP21)の「パリ協定遵守宣言」
- 2017年の「RE100宣言」
などに取り組んできました。このような活動をする中で、お誘いを受けてJapan-CLPにも参加しました。
図2 積水ハウスの2008年の「脱炭素宣言」から2050年に向けた動き
出所 積水ハウス、「自然エネルギーが企業の競争力を高める」(自然エネルギー財団:企業セミナー)、2018年3月9日
末吉 Japan-CLPの創立当初に、私も関わっていました。Japan-CLPは、英国を拠点に活動するTCG(The Cimate Group、注5を参照)に似た役割をもつ、日本の組織です。
英国のチャールズ皇太子が、地球温暖化問題に熱心に取り組んでいて、20くらいのNGOをもっていますが、そのうちの1つが2004年に設立されたTCG(前出の注 5)です。
その後、TCGは、2010年8月に設立されたIIRC(国際統合報告評議会注10の支持を受け、さらに国際的な影響力を強めています。
〔2〕重要なのは政府の確固たる政策や方針
石田 このような動きの中で、政府が確固たる政策や方針を出すことが、どれほど重要なことか、考えさせられます。例えば、これまでガソリン車からディーゼル車へ移行を推進してきた欧州では、低炭素化時代に向けて、大きくEVへシフトする動きが目立ちます。2017年7月には、フランスに続いて英国も、2040年までにディーゼル車とガソリン車の新車販売を禁止することが公表されました。
この流れは、米国や中国、インドなどにも波及し、世界の潮流ともなっています。
こうした国の明快な政策や方針があってこそ、企業は安心してEVに舵を切れるのです。しかし日本政府は、2050年にCO2を80%削減すると言ってはいますが、明確な目標を出していません。例えば、日本でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は義務化するという方針が出されれば、業界として取り組まざるを得なくなります。実現できるかどうか不確定要素はありますが、米国カリフォルニア州は2020年にZEHを標準化すると宣言し、英国も新築住宅をすべてZEHにするという方針を立てて、現在準備しているようです。
海外では方針を決めることを重視しますが、日本は方針を決めたらやらなくてはならないということが先立ち、躊躇してしまうところがあります。日本人の真面目な性格が裏目になっていると思います。
▼ 注7
Japan-CLP:Japan Climate Leader’s Partnership、日本気候リーダーズ・パートナーシップ。2009年7月設立。メンバー企業14社、賛助会員35社。主な活動内容は、①気候変動、脱炭素に関連する国内海外の重要動向の把握、②企業活動の脱炭素化への挑戦(RE100、EP100、EV100への加盟など)、③脱炭素ビジネスへの協働、④企業からの意欲的な政策提言。
・https://japan-clp.jp/index.php
・https://japan-clp.jp/index.php/japanclp
▼ 注8
2008年7月7〜9日の3日間、福田康夫首相の時代に北海道洞爺湖サミットが開催された(G8サミット:日、米、英、伊、加、独、仏、露8カ国の首脳およびEUの委員長が参加して毎年開催される首脳会議。2014年以降は、露を除く7カ国およびEUの首脳によるG7サミットとなっている)。同サミットの関連会合として、気候変動・クリーンエネルギーおよび持続可能な開発に関する閣僚級対話などが活発に行われ、日本は、2050年までにCO2を80%削減するというビジョンを発表した。
▼ 注9
これには世界70機関が署名に参加したが、日本からは企業としては積水ハウスが、自治体としては東京都の2者が調印に参加した。
▼ 注10
IIRC:International Integrated Reporting Framework、国際統合報告評議会。英国に拠点をもつ民間の非営利法人。2010年8月設立。規制者、投資家、企業、基準設定主体、会計専門家および NGOなどによって構成される国際的な連合組織。さまざまな環境変化に対応し、国際的に一貫した枠組みのもとで、中長期視点での企業報告を実現することを目的とする。会員は1,750以上(2018年3月現在)。
https://integratedreporting.org/