[「環境とビジネス」を一体にした新パラダイムへパリ協定はどう達成すべきか]

「環境とビジネス」を一体にした新パラダイムへパリ協定はどう達成すべきか《後編》

― 地球温暖化対策への取り組みは企業競争力を高める ―
2018/04/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

FIT制度の終了と積水ハウスの再エネ買い取り

〔1〕太陽光発電を買い取る決断の背景は?

─編集部:ところで、FIT買取制度が終了する2019年以降、積水ハウスは顧客の太陽光発電の電気を買い取る方針を出されましたね注13。民間のハウスベンダーが、そのような施策を実施すというのは、どのような判断からでしょうか。

石田 積水ハウスとしては、お客さまが困ることは解決しなくてはなりません。そこで、太陽光発電の電気を買い取ることを決めたのです。

 一方、当社は2008年に脱炭素宣言をしているわけですから、自社で使用する電力の再エネ化も進めなくてはなりません。そこで、お客さまの再エネと当社の再エネの電力を合わせれば解決できるのではないか、ということです。

 もちろん、FIT買取価格のような価格での買い取りはできませんので、今後市況を見て検討したいと考えています。住宅の場合、各家庭に蓄電池を設置しても、電気を全部使いきれません。また、郊外の50kW以下中型のソーラー発電所もたくさんありますが、これらは自家消費がなく全量売電です。これらを買い取るということです。

─編集部:積水ハウスはどれくらいの電力を消費しているのですか?

石田 現在(2018年3月現在)積水ハウスでは、事業活動において、2016年度に12万MWh/年の電力を消費しています。一方当社は、これまで2009年から環境配慮住宅「グリーンファースト」(後出の図5参照)を発売してきた結果、2018年現在、出力670MW(67万kW:大型火力1基分。発電電力量:最大88万MWh/年)注14の太陽光発電(再エネ)設備が、お客さまの住宅などに設置されるまでに至りました。

 このため、お客さまが使用し、さらに当社で使用しても、なお再エネは余る状況となっています。このような仕組みによって、RE100企業として、再エネを他社にも供給(売電)でき、低炭素化の実現に貢献できることになります。

〔2〕日本の再エネの発電コストは高すぎる

末吉 御社のような仕組みを社会全体でつくっていくことが重要だと思います。前編で話題となった、アップルに言われてから各社が急にRE100にしようとしても、突然できるわけではないのです。

 参考までに、図3に米国の国際的なエネルギー関係の調査研究機関「ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス」(BNEF)注15による、世界の主要国における風力発電、太陽光発電、石炭火力発電、ガス火力発電の発電コストの比較を示します。この図から、日本は、再エネの発電コストの面で世界から大幅に遅れていること(高いこと)がわかります。

図3 再エネは世界の多くの地域で火力発電より安価に(日本は突出して高い!)

図3 再エネは世界の多くの地域で火力発電より安価に(日本は突出して高い!)

BNEF:米国の調査会社Bloomberg New Energy Finance
LCOE:Levelized Cost Of Electricity、均等化発電原価。標準的な発電コストの評価方法として普及。LCOEは発電設備の建設費や運転維持費、燃料費など発電に必要なコストと利潤などを合計して、運転期間中の想定発電量をもとに算出する標準的な指標。
出所 末吉竹二郎「カーボン・ディスラプション(創造的破壊)に備えよ」(自然エネルギー財団:企業セミナー)、2018年3月9日

 ですから、政府の主導で、再エネを導入しやすい仕組みをつくっていき、コストダウンを図り、配電網/送電網の整備も含めた仕組みづくりに真剣に取り組み、世界に追いついていくことが重要ではないかと思います。

 大型火力などの集中型発電から太陽光などの再エネによる分散型発電への移行は、低炭素社会の実現も含めて大きな国際的な潮流となっているのです。

〔3〕日本の特殊事情と国境を越えたグリッドの構築

石田 おっしゃる通りです。全体的に発電コストが低く、再エネ化が進んでいると言われるドイツでも、安定電源が必要なため、2018年から燃料電池に関する補助金を出し、増やそうとしています。一方、日本については、気候的な特殊性を考慮した仕組みが求められています。

 日本では四季があるため、冬は発電量が少ないが、暖房(エアコン)などによる負荷が大きく、夏は冷房による負荷が大きくなる。逆に、春と秋は負荷が小さくなるので電力は余る。だからといって、春と秋を基準に設計をしてしまうと、冬・夏に電力不足となってしまう。そこで、年間を通して再エネでうまく電気をまかなおうとすると、例えば、春と秋に余った電力を蓄積しておき、冬・夏に使えるようにすることが必要になるでしょう。蓄電池ではコストが高く、自然放電もあるので、おそらく難しいでしょう。

 このため、水素のようなエネルギー密度が高く長期間保存できる仕組みが必要です。

 砂漠をもっている国には四季はなく、いつも太陽が照っています。ですから、砂漠をもつ国の人から、日本はなぜ水素に熱心なのかと、よく質問されるのです。そこで私は、日本は、四季はあるし、台風はくるし、平地も少ないし、日射量も少ないなど厳しい条件の中で、日本なりに解決しなければならない課題があると答えています。

末吉 それを解決する方法の1つとして、国境をまたいだ電力網(グリッド)の構築が注目されていますね。いま、国境をまたいでグリッドが相互接続されていない先進国は、韓国と日本だけなのです注16

 すでに欧州では欧州大陸から離れている英国を含めて、グリッドが縦横無尽に張り巡らされ、電力の相互融通があたりまえに行われています注17。このようにしていかないと、1つの国の単独マーケットで、すべてを実現するのは難しいのです。


▼ 注13
積水ハウス:ニュースレター、2017年10月20日

▼ 注14
出力670MWの太陽光発電の発電電力量(MWh)=670MW×365日×24時間(h)×設備利用率(15%)=880,380MWh≒88万MWh/年。
設備利用率とは、「発電設備の実際の発電量」が「フルに稼働していた場合の発電量」の何%に相当するかを示す数値。この数値が高いほど、その設備が有効に利用できていることになる。太陽光発電の場合の設備利用率は10〜15%程度と言われている(これは、太陽光発電が、夜間や雨の日、曇りの日などは、ほとんど発電されていないことなどを含めた総合的な設備利用率)。

▼ 注15
BNEF:https://about.bnef.com/japan/

▼ 注16
自然エネルギー財団:アジア国際送電網〔アジアスーパーグリッド(ASG)〕
GEIDCO :The Global Energy Interconnection Development and Cooperation Organization 、再エネを活用して世界的な送電網を目指す国際的非営利団体、2016年3月設立。

▼ 注17
例えば、本誌2017年5月号の記事「世界のDR活用の現状と展望、VPPへの展開」の「図3 フランスのDR導入の動機〜ドイツからの風力流れ込み」参照。

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