[特集]

【IPHE横浜フォーラム】動き出した「水素社会の実現」に向けた国際展開

― 米国・ドイツ・欧州委員会・中国のロードマップとその取り組み ―
2018/07/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

去る2018年5月8日、国内外の有識者を招いて水素・燃料電池の普及を目指す「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE/注1)横浜フォーラム ―水素社会の実現に向けて―」(参加者数:300名)が開催された(注2)。
ここでは、米国、ドイツ、欧州委員会、中国など各国・地域の水素社会実現に向けた政策や取り組み状況をはじめ、横浜市および複数の国内企業による最新の動向が報告された。
同フォーラムでは、地球温暖化対策の新しい枠組みである「パリ協定」(COP21)の実現に向けて、各国から水素や燃料電池に関するロードマップや多くの導入事例が紹介された。これを通して、水素や燃料電池自動車(FCV)が温暖化対策に大きな役割を果すことが確認され、その実現に多大な期待が寄せられた。
本記事では、4名の講演者による発表を中心に紹介する(表1)。

米国:交通機関における水素の利用拡大と部門横断型の発展

表1 国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラムの講演者

表1 国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラムの講演者

出所 NEDOおよび横浜市の資料をもとに編集部が作成

写真1 米国:スニータ・サティアパル氏

写真1 米国:スニータ・サティアパル氏

出所 編集部撮影

 米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)のスニータ・サティアパル(Sunita Satyapal)氏は、世界の水素産業の現状を紹介しながら、米国における水素利用の進捗状況や利用拡大を目指す「H2@Scale」注3の取り組み、継続的な研究開発(R&D)によるイノベーションやコスト削減などについて述べた。

〔1〕米国における水素の利用の進捗状況

 世界における水素利用の進捗状況は目覚ましく、図1に示すように、燃料電池産業は急成長を遂げ、市場は活性化している。具体的には、500メガワット(MW)の電力、6万2,000台の燃料電池のユニット、そして16億ドル(約1,700億円)の市場となっている。

 図2左に示すように、米国ではフォークリフトのような新しい市場が生まれてきており、すでに 1万6,000台以上が普及している。ウォルマートやフェデックス、コカコーラなどの大手企業が、水素・燃料電池のフォークリフトを使用している。

図2 米国における水素・燃料電池の応用例

図2 米国における水素・燃料電池の応用例

出所 https://www.energy.gov/sites/prod/files/2018/03/f49/fcto_doe_h2_fc_overview_satyapal_fc_expo_2018_0.pdf

 また、バックアップ用電源の分野も成長しており、米国では、主に携帯電話の基地局向けに8万台(235MW以上)を超えるバックアップ電源として、燃料電池が使われている。さらに、燃料電池自動車(FCV)も増加しており、米国では4,500台が販売あるいはリースされ、世界で最も出荷台数が多い。航続距離は360マイル(580㎞)となっている。

 燃料電池自動車は、乗用車だけではなく、中型車や大型車にも広がりつつある(図3)。例えば、宅配・航空貨物大手であるUPSやフェデックスは、純粋な蓄電池を活用した電気自動車よりも、燃料電池自動車で航続距離を増やしている。カリフォルニア州などではバスや大型トラック(ヘビーデューティアプリケーション)にも、燃料電池自動車の導入が進められている。

図3 燃料自動車のトラックやバスなどへの新しい車両アプリケーション(ヘビーデューティアプリケーション)の例

図3 燃料自動車のトラックやバスなどへの新しい車両アプリケーション(ヘビーデューティアプリケーション)の例

出所 「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラム」、2018年5月8日

 一方、水素充填ステーションについては、米国では、すでにカリフォルニア州だけでも30基以上のパブリックな(公共の)ステーションが設置されており、同州政府は2025年までに200基のステーションを目標とするなど、燃料電池自動車の環境はスピーディに拡大している。

〔2〕水素の利用拡大を目指す「H2@Scale」の取り組み

 米国エネルギー省(DOE)では、水素の利用拡大を目指して「H2@Scale」という交通機関および部門横断型の取り組みを展開している。これにより、2050年までに水素の需要は現在の10倍程度になると見られている。

 今後の普及とビジネスの拡大のためには、水素・燃料電池関連のコストを下げていくことが必要なため、米国では同省が率先して継続的に研究開発を推進しており、図4に示すように、コスト削減目標を設定している。例えば、水素の製造コストについては、燃料電池システムは1kW当たり40ドルを目標に、また水素ガスの製造・配送・分配のコストは、1gge(Gallon Gas Equivalent注4)当たり4ドル以下を目標にしている。

図4 米国エネルギー省(DOE)におけるコスト状況と研究開発(R&D)の目標

図4 米国エネルギー省(DOE)におけるコスト状況と研究開発(R&D)の目標

出所 https://www.energy.gov/sites/prod/files/2018/03/f49/fcto_doe_h2_fc_overview_satyapal_fc_expo_2018_0.pdf

 今後は、水素ガスに関する触媒、水素の圧縮や貯蔵技術、およびカーボンファイバーなどの各研究開発分野で、コスト削減が重要な課題となる。さらに、燃料電池の活用が進んでいく中で、安全性に関する研究や国際標準規格の策定なども重要な課題となってきている。


▼ 注1
IPHE:International Partnership for Hydrogen and Fuel Cells in the Economy、国際水素・燃料電池パートナーシップ。水素・燃料電池に関する技術開発、基準・標準化、政策情報交換等を促進するための国際協力の枠組みの構築を目的とし、2003年に米国を中心に提唱され結成された。2018年5月現在、下記の世界18カ国および1地域(EC)が加盟※。
※加盟国・地域(2018年5月現在):アイスランド、EC(欧州委員会)、イタリア、インド、英国、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、韓国、中国、ドイツ、フランス、ブラジル、米国、日本、ノルウェー、南アフリカ、ロシア

▼ 注2
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と横浜市との共催。開催場所はヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル。

▼ 注3
H2@Scale:Hydrogen at Scale、米国における水素の生産と利用の可能性を探るための取り組み。

https://www.energy.gov/eere/fuelcells/h2-scale
https://www.gas-for-energy.com/fileadmin/G4E/pdf_Datein/g4e_2_17/gfe2_17_fb_Satyapla.pdf

▼ 注4
gge:Gallons of Gasoline Equivalent、ガソリン等価ガロン(1ガロンは約3.8リットル)。1ggeは、ガソリン1ガロンあるいは水素1キログラムに等しい。

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