最新の洋上風力発電の2つのトピック
洋上風力発電がなぜ国際的に急速に普及しようとしているのか、その要因やトピックを見てみよう。
前述した洋上の風力発電は、陸上の風力発電と異なり、年間を通して風況が強く安定しているため、大規模な風力発電所を建設できる。しかもウィンドファーム(複数基による洋上風力発電群)も容易に建設できるため、発電コストを低減することが可能だ。
特に洋上風力の場合は、陸上に比べて、騒音や景観を損なうなどの環境問題が少なく、道路などによる制約を受けないため,巨大な風車〔100m以上のブレード(回転羽根)のものもある〕の運搬や設置が容易である。これらの長所に着目して、欧州などを中心に、早くから大規模な洋上風力発電所の建設が進められてきた。
〔1〕トピック①:世界最大の洋上風力「Haliade-X」(12MW)
例えば、最近のトピックとして、米国GE Renewable Energy社は、2018年3月に、世界最大の洋上風力向け風力タービン「Haliade-X(ハリアデ-X)」を発表注13し、話題を呼んだ。Haliade-Xは、着床式および浮体式ともに適応可能であるが、現在は着床式が主流で、浮体式は次世代の位置付けとなっている。
その風力タービンの基礎部からブレード(回転羽根)までの高さは、米国ワシントン記念碑より100mも高い260mとなっている。
①発電容量は1基で12MW、②ローター部(風車の直径)は220m(半径110m)、③受風面積(ブレードが回転する円の面積=πr2=3.14×110m×110m)は約38.000m2、④ブレード(回転羽根)は107m、⑤「Haliade-X」1基の年間発電容量は67GWh(北海の典型的な風況の場合)、と巨大だ(図16)。
図16 12MWの容量をもつ「Haliade-X」と他の建物との比較
出所 GE REPORTS JAPAN「大きいことはいいことだ ― GE、世界最大の洋上風力向け風力タービンを発表」、2018年3月6日
https://gereports.jp/haliade/
https://www.genewsroom.com/press-releases/ge-announces-haliade-x-worlds-most-powerful-offshore-wind-turbine-284260
67GWhの風力タービン「Haliade-X」1基で、16,000世帯もの電力をまかなえる。これを導入してウィンドファームを構築すれば、100万世帯の家庭に電力を安く供給することが容易に可能となる。これは、まさに再エネの主力電源化である。
Haliade-Xは、英国北東部のノーサンバーランド(Northumberland)で実証テスト注14が実施された後、2021年には完成して商用化される見込みとなっている。
〔2〕トピックス②:世界初の商用の浮体式洋上風力発電、大規模蓄電池も導入
(1)日本:実証レベルでは世界最大の1基7MWを実証中
2017年時点で商用化されている洋上風力発電は、前出の図4に示した方式のうち、着床式が中心であったが、浮体式については実証事業や商用化も活発化している。
日本では、経済産業省の委託事業として福島県沖約20㎞沖で「浮体式洋上風力発電システム実証研究事業」(総出力3基合計14MW)注15が、「福島洋上風力コンソーシアム」注16によって推進されている。同事業では、2018年8月現在、先進的な、1基では世界最大の7MWの風車搭載浮体式洋上風力発電設備「ふくしま新風」が、2015年12月に運転開始(ローター径:167m、ハブ高さ:105m)し、実証されている(関連記事:本誌今月号3ページ参照)。
写真1 世界初の商用「Hywind Scotland Floating Wind Farm」(出力6MW風車5台:合計30MW)の外観
※ピーターヘッド町には、大規模蓄電施設「Batwind」も併設された。
出所 Equinor has installed Batwind - the world’s first battery for offshore wind
(2)ノルウェー:世界初の商用浮体式洋上風力を稼働
一方、商用化の動きでは、例えば、ノルウェーのスタトイル〔Statoil。2018年3月15日に社名を「エクイノール(Equinor)」に変更〕社は、2017年10月、英国スコットランドのアバディーンシャー州の北海沿岸にあるピーターヘッド(Peterhead)という町から25km沖に、世界初の商用の浮体式洋上風力発電所「Hywind Scotland Floating Wind Farm」(写真1)を完成させ、運転を開始した注17。同発電所の面積はおよそ4km2で、海域の水深は95〜129mだ。また、同発電所には、Siemensの出力6MWの風車5台、合計30MWが導入され稼働している注18。
(3)大規模蓄電施設「Batwind」(1.2MW)も設置完了
さらに、ノルウェーのエクイノール(Equinor)とアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国の再エネ企業であるマスダール(Masdar)は、2018年6月27日、前述したピーターヘッドに浮体式洋上風力と連携させた蓄電施設「Batwind」を完成させた。
このBatwindは、ドイツのバッテリー企業「ユーナイコス(Younicos)」の大型蓄電池「Y.Cube」(リチウムイオン電池)を2基設置したもので、合計出力は1.2MW(1200kW)となる。このBatwindを試験用施設としても使用し、再エネによる電力をより多く電力系統に流し、価格的にもより競争力のあるものとする試験も展開している注19、注20。
このように、浮体式洋上風力発電所もいよいよ普及期を迎えようとしている。
▼ 注13
GE announces Haliade-X, the world’s most powerful offshore wind turbine、2018年3月1日
▼ 注15
http://www.fukushima-forward.jp/magazine/pdf/magazine009.pdf
▼ 注16
福島洋上風力コンソーシアム
▼ 注17
World’s first floating wind farm has started production、エクイノールのプレスリリース
▼ 注18
風力タービンの高さ:合計253m(=海面下78m+海面から翼端まで175m)
ロータ直径:154m、ブレード長:75m、風力タービンの重さ:1万2000トン