デジタル化の心臓部:MindSphereとデジタルツイン
—編集部 第1の推進分野であるデジタルインフラストラクチャー(DI)について、もう少し詳しくお話しいただけますか?
藤田 DIについては、弊社も強力に推進しているインダストリー4.0をはじめ、それらを具体化するデジタルツインなどによって、お客様のサポートを強化しています。その中核に位置するのが、シーメンスのクラウドベースの「MindSphere(マインドスフィア)」という産業用オープンIoTオペレーティングシステムです。
〔1〕MindSphere(マインドスフィア)
—編集部 MindSphere(マインドスフィア)とは、どのようなものでしょうか。
藤田 ご存じのとおり、IoT時代を迎えて、2020年には全世界で300億個〜500億個ものデバイスが接続されるようになると考えられます。現場の多様なデバイスからのデータがクラウドに送られ、アプリケーションによって処理され管理・制御されるようになると予測されているのです。
このようなIoTの動きに対応して、シーメンスでは、デジタルファクトリーをはじめエネルギー管理、スマートシティ、ヘルスケア、風力発電などに至るまで、実に多彩な分野の多様なIoTデバイスを接続できる環境を提供しています(図5)。
図5 シーメンスのMindSphere の特徴と構成
さらにIoTデバイスからの大量のデータを、価値ある情報に転換することによって、企業の競争力を強化し、ビジネスチャンスを最大化することができるようになります。
このような環境を実現するため、シーメンスは、クラウドと連携した産業用のオープンIoTオペレーティングシステムである「MindSphere」を開発し、日本では2017年4月から提供を開始しました注3(グローバルには2016年3月)。
MindSphereは、すでに設置されている製造現場の多様なモノ(デバイス機器など)をデジタルの世界と結び付け、付加価値の高い産業ベースのアプリケーションやデジタルサービスの開発を可能とし、新しいビジネスを展開できるように支援しています。また、アマゾンのAWS(Amazon Web Service)などのクラウドとも連携しているため、グローバルなスケーラビリティを備えています。
—編集部 MindSphereは、世界や日本で、どの程度普及しているのでしょうか?
藤田 現在、最新バージョンはMindSphere
3.0で、全世界の企業で採用されており、すでに、全世界で10億個のセンサーをはじめ、オートメーションシステム3,000万台を接続しています。さらに、7,500万個に及ぶ電力スマートメーターを接続し、契約スマートメーターからの大量のデータはシーメンスのEnergyIPプラットフォーム注4で効率的に管理されています。加えて接続型製品100万台を接続するなど、インダストリー4.0を強力に推進しています。
日本市場でも、すでにMindSphereの受注が40件を超えて、急速に普及し始めています。年内には50件以上は達成できると考えています。実際、引き合いはその倍以上あるのですが、人手が足りなくて追いついていないのです。
〔2〕デジタルツインとは
—編集部 MindSphereは、クラウドベースの産業用IoTオペレーティングシステムであることがわかりました。デジタルツインとMindSphereはどのような関係にあるのでしょうか。
藤田 デジタルツインとは、製造業のビジネス・プロセス(バリューチェーン全体)を変革させようという新しい概念です。もともとデジタルツインとは、製品(リアルな製品)をいきなり作らないで、CADなどのデジタル環境(バーチャルな環境)でリアルな製品と同じようなものを設計し(バーチャルモデルをつくり)、製品の設計開発を行う手法として、これまでも普及してきました。
リアルの製品とバーチャルなモデルが瓜二つであることから、デジタル上の双子(ツイン)と呼ばれています。最近このデジタルツインが注目されるようになったのは、これが、製品の設計開発(デザイン)だけでなく、工場、ライン、製品、出荷、サービスに至るバリューチェーン全体にわたるように拡張されるようになったからです。すなわち、点から線へと拡大したわけです。
デジタルツインによって、製造分野における生産性と効率が飛躍的に向上しました。
図6は、シーメンスのデジタルツインとMindSphereの関係を示したものです。この関係は、次の4層から成り立っています。
図6 デジタルツインとMindSphereの関係
(1)図6の最上位のデザイン&エンジニアリング(設計・製造)からメンテナンス&サービスに至るバリューチェーン全体は、デジタルツインによってシミュレーションされ、生産性の向上を実現します。
(2)2段目のシーメンスのソフトウェアとデジタルサービスは、製品設計や製造からサービスまでをシームレスに統合し、製品の全ライフサイクルのデジタル化を可能にします。
(3)3段目のMindSphereは、現実(リアル)の世界のデバイスと製造プロセスを接続し、そのパフォーマンスデータをデジタルツイン(バーチャル)にフィードバックし、意思決定やインテリジェンスを向上させます。
(4)4段目は、デジタル的に強化された電化(電気化)製品およびオートメーション機器です。
このようなデジタルツインの仕組みによって、お客様は製品の設計から生産、パフォーマンスに至るまで、バリューチェーン全体を最適化できるようになります。
さらに、サードパーティのアプリケーションやMindSphereを用いた環境によって、全体的な自動化のアプローチを実現すれば、インダストリー4.0のすべての要件をカバーできるようになります。
▼ 注3
シーメンス「クラウドベースの産業用オープンIoTオペレーティングシステム「MindSphere(マインドスフィア)」提供開始、2017年4月10日
▼ 注4
EnergyIPプラットフォーム:スマートグリッドやスマートマーケット、分析アプリケーションを推進するシーメンスのプラットフォーム