[スペシャルインタビュー]

シーメンス株式会社 代表取締役社長兼CEO 藤田 研一氏に聞く!シーメンスのVision2020+と日本における事業戦略

— デジタル化の中核はMindSphereとデジタルツイン —
2018/10/01
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

シーメンスの脱炭素化戦略:ESG、SDGs、パリ協定

Kenichi Fujita

—編集部 ところで、パリ協定の締結(2015年)以降、全世界で脱炭素化に向けた動きが活発化していますが、御社はどのように取り組まれていますか?

藤田 シーメンスは、パリ協定(2015年12月)が締結される直前の2015年9月に、CO2排出量を2020年には2014年比で50%削減すること、すなわち、2014年基準で、当時、CO2の排出量が全社で2,200万トンありましたが、それを2020年に半減させること、また今後3年間にエネルギー効率を改善するため1億ユーロ(133億円)を投資すること、さらに2030年には炭素排出量ゼロの実現を目指すことなどを盛り込んだ、「Carbon Neutral Operations by 2030」計画を発表しました。現在、それを粛々と進めているところで、ほぼ予定どおり進捗しています。これは、より幅広い取り組みである国連のSDGs(持続可能な開発目標)とも密接に関係をもちながら進めています。

 一方、現在、E(Environment、環境)、S(Social、社会)、G(Governance、企業統治)の3つの要素に着目して企業を分析し、優れた経営をしている企業に投資する「ESG投資」が注目を集めていますね。金融機関が企業へ投資する際に、例えば“E”の観点から、エネルギー使用量や二酸化炭素(CO2)排出量の削減など環境面へ配慮した経営をしているかどうか、というような評価が行われるようになりました。

 弊社でも、ESGは社会的に重要なものと位置付けおります。例えば、ドイツ・ミュンヘンのシーメンス本社は、2年ほど前(2016年6月)に建て替えをしまして、新しい本社ビルのエネルギー消費量を以前の本社ビルに比べて90%も削減するなど、驚異的な改善に成功しています。さらに、世界の各工場においても、再エネ由来のグリーンエネルギーの導入が急速に進んでいます。

〔1〕ESGを実現するためのデジタル化を

藤田 ESGを実現するため、デジタル技術を駆使して、例えば、タービンを遠隔で監視して燃焼効率を上げる、あるいはAIを使って微調整をかけながら発電効率を最大限に上げていく、などのサービスを実施しています。

 その結果、NOx(窒素酸化物)を大幅に低減し、さらに、燃焼効率自体も最大限にもっていくことが可能になります。すると、超大型のガスタービンであれば、効率をほんの0.1%上げるだけで、約1万〜1万5,000世帯分ぐらいの電気が余分に出てくるのです。そうした形で、デジタル技術を駆使しています。

〔2〕いつでも投入できるDEMSとVPPシステム

藤田 今後、話題になりそうなのは、太陽光や風力などの分散化電源(DEMS:Distributed Energy Management System)を、既存の発電所と連携させて、自動調整して最適化していくVPP(仮想発電所)的な新しい電力システムです。現在、すでに日本各地で実証実験が行われています。

 欧州の電力自由化は、すでに20年近くも前から実施されており、欧州や米国のメーカーは、苦労してそうした新電力システムをつくり上げてきています。海外メーカーは、そういうノウハウとシステムを基本的にもっていますので、いつでも日本の市場に合わせたシステムを投入できます。ですから、私どもも、できれば日本市場をよくわかっているパートナーと一緒にビジネスを展開したいと思っています。

 日本の市場でそのようなシステムを商用ベースで具体的に導入できる環境は、2020年(送配電部門の法的分離)以降だと思っています。

日本市場へどう取り組むか?

—編集部 最後に、今後、日本における事業展開についてお聞かせください。また、日本の市場の中で、デジタル化はどの程度進んでいると見ておられますか。

藤田 最初に申し上げた、新しくできるシーメンスの3つの社内カンパニーに応じた組織変更は、日本の場合、2019年3月までには完成させる予定です。

 日本の工場のデジタル化の状況は、デジタル化の定義によっても異なりますが、前述したシーメンスの①デジタル化(Digitalization)、②オートメーション化(Automation)、③電化(Electrification)の3つの柱と照らし合わせても、まだまだ改善の余地があると思っています。

 例えば、工場のデジタルデータを吸い上げて分析していく、しかも、製造工程の一部ではなくて、全体をきちんと見える化しているか、という視点からは、国内産業のデジタル化は、まだまだやる余地があるのではないかと見ています。

 これまでお話したように、デジタル化というのは、インダストリー4.0のコンセプトから見ると、異なる会社同士がサプライチェーン全体を含めてデータを共有していくわけです。そこに関しては、日本はクローズドな側面が強いので、まだまだこれからだと思います。

〔1〕電力分野:インターネット接続の課題

藤田 電力分野においても、日本では基本的な管理基準は、やはり発電所単位なのです。本社でもある程度のモニタリングはしてはいますが、データを1カ所に集約させてセンターから指示を出すところまではやっていない状況です。

 しかし日本では、データ保護の観点から、発電所をインターネットにつないでよいかという問題がありますので、ここは国の政策と関係してきます。IoTを実現しようとしても、インターネット接続が可能であるということが前提になります。ですから、セキュリティやリスクヘッジの問題から、発電所は制度的にネットにつなげてはダメ、あるいは外部と接続してはダメ、と言われてしまうと、どうしようもないのですね。

—編集部 工場のクローズドなセキュリティ問題と似ていますね。

藤田 そうなんです。ですから、そういうところの環境整備は今後間違いなく必要だと思います。弊社では、セキュリティを含めて、完全に対応できるようになっています。しかし一方で、日本の工場などでは、ダブルどころか、トリプルでセキュリティをかけるように重くなっているのです。私たちは大丈夫だと思っているのですが、そこは法律の壁もあり、国の政策問題とも関連してきます。

 そうすると、必ず出てくるのは、「いやいや、ウクライナで送電網が止まってしまいましたね」という2015年冬のサイバー攻撃の話です。工夫を凝らせばセキュリティを確保したシステムも可能なのですがね。

〔2〕デジタル化の推進

藤田 また、私たちが進めたいのは、デジタル化(デジタライゼーション)です。繰り返しますが、私たちの言うデジタル化とは、必ずしもソフトウェアを売ることだけではなくて、ハードウェアとのコネクティビティが重要で、ここを意識しながらハードウェアも売っていきます。結局、元をただせば、データはすべてハードウェアから発生しているからです。

 同じく、メンテナンスサービスに関しても、ハードウェアとのコンビネーションでしか考えられない世界だと思っています。

〔3〕ESGで効率を上げ、経済性を高める

藤田 もう1つ推進したいものは、先述した、排出量の削減など環境面も配慮した経営を重視するESGです。ESGを基本にして、効率を上げる、経済性をよくする、そういったご提案をしていきたい。これは一部デジタル化とも重なりますが、ぜひともアピールしていきたい課題です。

 また、バイオマスを中心にした再エネの分野に関しても同じく効率化が重要で、シーメンスの技術で効率を上げて、経済性を上げていくという戦略になると思います。

—編集部 ありがとうございました。

◎Profile(敬称略)

藤田 研一(ふじた けんいち)

藤田 研一(ふじた けんいち)

現職:シーメンス株式会社 代表取締役社長兼CEO
パワー&ガス事業本部長、パワージェネレーション・サービス事業本部長
エナジーマネジメント事業本部長、モビリティ事業本部長

1982 - 1987年 アルプス電気株式会社
1987 - 1997年 Alpine electronics GmbH(ドイツ) 取締役
1997 - 2006年 株式会社UFJ総合研究所
2006 - 2009年 シーメンスVDO オートモーティブ株式会社 代表取締役兼CEO
2009 - 2011年 シーメンスAG エナジーセクター 事業開発ディレクター
2011年5月 シーメンス・ジャパン株式会社(現シーメンス株式会社) 専務執行役員 エナジーセクターリード
2014年10月 シーメンス・ジャパン株式会社(現シーメンス株式会社) 専務執行役員 パワー&ガス事業本部長、パワージェネレーション・サービス事業本部長、風力発電&再生可能エナジー事業本部長
2016年10月 シーメンス株式会社 代表取締役兼CEO、パワー&ガス事業本部長、パワージェネレーション・サービス事業本部長
2018年3月 同社エネジーマネジメント事業本部長、モビリティ事業本部長兼任

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