[【創刊6周年記念】 発送電分離直前! 次世代の電力システムはどうあるべきか]

東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本浩氏に聞く!日本の電力システム改革と今後の展望

— 発送電分離からUtility 3.0のビジネスモデルまで —
2019/01/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

Utility 3.0(ユーティリティ3.0)とは

─編集部 デジタル化に関連して、Utility 3.0について、先ほどの電力システム改革との関係も含めて、整理していただけますでしょうか。

岡本 Utility(ユーティリティ)というのは、電気やガス、水道などの公益事業のことを指す言葉ですが、ここでは電力事業を中心に説明しましょう。

 電気事業は、図2に示すように、大きくUtility 1.0、2.0、3.0の3つの時期に分けて見ることができます。

図2 Utility 1.0〜Utility 3.0の概略的な年代の推移と主なイベント

図2 Utility 1.0〜Utility 3.0の概略的な年代の推移と主なイベント

出所 岡本 浩、「Utility3.0 脱炭素化に向けたエネルギー産業の将来像」(2018年5月30日)をもとに編集部で作成

〔1〕Utility 1.0:電気事業の出発から今日までのエネルギー事業

 Utility 1.0は、エジソンが1882年に電気事業を誕生させて(これが電気事業の出発点と言われる)以降、大型火力発電などの集中型発電や、送電網・配電網が整備された事業展開の時期のことです。

 日本では、政府の規制による地域独占体制のもとで、垂直一貫の旧10電力体制の事業から、2020年に送配電事業が法的分離されるまでの、135年余に及ぶエネルギー事業を指します。FIT制度を背景とした太陽光発電や風力発電などの分散電源(DER)である再エネの普及も、この中に含まれます。

〔2〕Utility 2.0:発送電分離後のエネルギー事業

 Utility 2.0は、小売全面自由化以降、電力ビジネスの中立性を確保するために、2020年に予定されている旧10電力会社の発送電分離(発電部門と送電配電部門の法的分離)注6が行われる予定ですが、それ以降のエネルギー事業を指しています。完全自由化の下で、スマートメーターが全家庭に設置され、新サービスが活発に提供されるエネルギー事業となります。この期間は、Utility 3.0への通過点でもあります。

〔3〕Utility 3.0:2050年以降のエネルギー事業

 Utility 3.0は、2020年の発送電分離以降のUtility 2.0のエネルギー事業の後に、電力事業がIoT技術などを駆使して、VPPなどを本格的に普及させる2050年からのエネルギー事業となります。Utility 3.0では、電力事業が、電気自動車などを大量に使用する他の運輸事業などと連携(例:V2X注7)あるいは融合して進化・発展し、社会インフラを統合的に担う新しい形態のエネルギー事業形態となります。

─編集部 なるほど。もう少し、具体的にお聞きしたいのですが。

岡本 現在、日本が迎えようとしているUtility 2.0の幕開けとも言われる発送電分離のイメージを図3に示します。

 次々に電力事業に新規参入する発電事業者や電力の小売サービス事業者などが、既存の送電線や配電線をオープンに利用できる環境(オープンアクセス)が整備されます。

 また、太陽光発電や風力発電など分散電源とも言われる再エネが普及し始めており、電力事業の市場競争がいっそう活発になることが期待されています。国際的にこのUtility 2.0が考えられ始めたのは1990年頃からで、英国のサッチャー首相が最初に提案したと言われています。

 このような発送電分離によって、公平な電力ビジネスの環境が2020年に整備されて、再エネの主力電源化などが実現され普及した後の、2050年頃に向けて実現されるエネルギー事業の形態が、Utility 3.0です。


▼ 注6
東京電力は、2016年4月の会社分割によって一般送配電事業者として東京電力パワーグリッド株式会社(東京電力PG)を設立した。旧10電力会社のうち1社だけ、先行して発送電分離が行われた。

▼ 注7
V2X:Vehicle to Every-thing、車とあらゆるものが直接通信する技術。Every-thing(X)には、Network(ネットワーク。V2N)、Vehicle(車。V2V)、Infrastructure(通路側の通信設備。V2I)、P(Pedestrian〔歩行者〕。V2P)、H(House〔住宅〕。V2H)などが含まれる。

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