[【創刊6周年記念】 発送電分離直前! 次世代の電力システムはどうあるべきか]

東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本浩氏に聞く!日本の電力システム改革と今後の展望

— 発送電分離からUtility 3.0のビジネスモデルまで —
2019/01/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

Utility 3.0への道:5つのDが重要

─編集部 Utility 3.0を実現するために鍵となる要素として、どのようなものが考えられますか。

岡本 Utility 2.0からUtility 3.0への道のりには、次に示すような、大きく分けて5つの社会的・技術的なトレンド(5つのD)への対応が重要となってきます。

  1. 自由化(Deregulation)
  2. 人口減少(Depopulation)
  3. 脱炭素化(Decarbonization)
  4. 分散化(Decentralization)
  5. デジタル化(Digitalization)

図4 1965年〜2065年の100年間の日本の人口構成の推移(人口ピラミッドの推移):後期老齢・前期老齢が急速に増加していることがわかる

図4 1965年〜2065年の100年間の日本の人口構成の推移(人口ピラミッドの推移):後期老齢・前期老齢が急速に増加していることがわかる

出所 国立社会保障・人口問題研究所のホームページ

〔1〕自由化と人口減少

 (1)の自由化は、すでに電力システム改革によって、一定程度実現されてきました。さらに今後、送配電網がどの事業者にとっても中立なインフラとして開放(2020年)され、発電および小売のビジネス分野への新規参入が促進されますが、引き続き検証しながら制度を見直していく必要があります。

 さらに、(2)の日本の人口減少問題については、図4に示すように加速度的に減少し、加えて少子・高齢化も加速していきます。

 この人口減少問題は、医療や教育、交通だけでなく、電気・ガスなどのエネルギー消費にも大きな影響を与えます。

 具体的には、日本において、2010年を頂点に1億2,800万人(2020年は1億2,650万人)を超えていた人口は、2065年には8,808万人へと約4,000万人も減少すると予測されています。図4に、人口ピラミッドの推移を示しますが、この図からも日本の深刻さがわかります。

〔2〕脱炭素化・分散化・デジタル化

─編集部 脱炭素化や分散化、デジタル化についてはいかがでしょうか?

岡本 Utility 3.0時代を迎えると、大規模な火力発電所などをつくるよりも、コストが下がってくる分散型電源を利用したほうが、メリットが大きくなってきます。例えば、住宅の屋根に設置する太陽光パネルをはじめ、家庭用蓄電池、あるいは電気自動車なども安い値段で購入できるようになってきます。

 また、IoTで各種電源をネットワーク化して連携させ、電力シェアリングやブロックチェーンなどによるP2P電力取引システムなどが登場し、デジタル化も絡んだUtility 3.0というような新しい仕掛けが求められるようになってきます。

 さらに、国際的なパリ協定やSDGsの実現の流れの中で、現在でもエネルギーの脱炭素化が注目されてきていますが、これがもっと厳しく求められるようになります。

─編集部 国際的に低炭素化の問題が注目されていますが。電力システムの脱炭素化に向けた課題について、具体的にお聞きしたいのですが。

岡本 最初に、私の脱炭素化についての考えをお話ししましょう。

 エネルギーというのは「つくる側」と「使う側」の両方があり、双方が取り組まないと脱炭素化になりません。現在、地球温暖化を食い止めるために、脱炭素化の目標〔温室効果ガス(CO2)削減目標〕が、前述したパリ協定で設定されています。

 日本の場合、短期的には2030年度までに温室効果ガスを26%削減、長期的には2050年までに80%削減(いずれも2013年度比)することを決め、国連の事務局に提出しています。さらにパリ協定では、ネットゼロエミッションを21世紀の後半のできるだけ早期に実現するという目標を掲げています。

 脱炭素化への道筋は単純ではありませんが、整理しますと図5、表1のようになります。

図5 脱炭素化への道筋:脱炭素化に向けたエネルギー需給の変革シナリオ

図5 脱炭素化への道筋:脱炭素化に向けたエネルギー需給の変革シナリオ

CCS:Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素の回収・貯留技術
出所 岡本 浩、「Utility3.0 脱炭素化に向けたエネルギー産業の将来像」、2018年5月30日

表1 図5に示す最終エネルギー消費

表1 図5に示す最終エネルギー消費

電化(Electrification):例えばガソリン車を電気自動車に置き換えること
出所 竹内純子ほか編著「エネルギー産業の2050年:Utility 3.0へのゲームチェンジ」、日本経済新聞出版社刊、2018年10月、をもとに編集部で作成

〔3〕エネルギーをつくる側

岡本 低炭素エネルギーによって、電気をつくる側(1次エネルギー、2次エネルギー)から見ますと、1次エネルギーには、再エネ、原子力、CCS注8付き火力発電所、CCS付きバイオマス発電の4種類があります注9(図5)。2次エネルギーには、電気(発電)と水素注10があります。

〔4〕エネルギーを使う側

岡本 エネルギーを使う側から見ますと、従来、石油やガスなどを使用していた非電力分野(運輸分野)の電化(Electrification)によって、省エネルギー化を図るなどが可能になります(例えばガソリン車を電気自動車に置き換えるなど)。

 今後、エネルギーをつくる側と使う側の両者が相互に補完関係をつくりながら、新しい脱炭素社会が実現されていくと思います。

1次エネルギーが脱炭素化され、最終エネルギー消費段階で化石燃料を使用しなくなれば、エネルギー分野はゼロエミッションになります。

〔5〕低炭素社会への貢献

岡本 このように、消費者にできるだけ安く電気を供給し、電化を促して脱炭素化を図ることが重要です。

 一方、電気をつくる側もうまく脱炭素化を行い、これらを社会的にミニマムなコストでどのように実現するか、という局面を迎えています。

 ですから、今後、例えば電気自動車と蓄電池の組み合わせによるシステムが安く提供できるようになれば、脱炭素社会に大きく貢献できると思います。今まさに、そこに、世界中の電力会社や新しいエネルギービジネスをされる方々が向かっているように感じています。

 前述したように、日本では人口の減少や省エネルギーによって、国民全体のエネルギー消費量(非電力+電力)は減少していきます。しかし、電化によって、電力エネルギーの消費量は、2050年時点では増加の傾向となると予測しています(図6)。

図6 脱炭素化に向けた超長期の電力需給の推移

図6 脱炭素化に向けた超長期の電力需給の推移

出所 https://www.env.go.jp/press/y0618-18/mat01.pdf

 図7の青色の棒グラフに示すように、2013年度の日本の全消費電力量は約1.0兆kWhでしたが、現状のままの電化率では、2050年には全消費電力量は0.75兆kWhまで減少してしまいます。しかし、電化率が30%から最大70%に引き上げられた2050年の電動化社会になると、脱炭素化されながらクリーンとなった全電力消費量は1.23兆kWhへと上昇します。

図7 最終エネルギー消費と電力消費の将来見通し

図7 最終エネルギー消費と電力消費の将来見通し

出所 岡本 浩、「Utility3.0 脱炭素化に向けたエネルギー産業の将来像」、2018年5月30日

 同時に、電化による省エネルギーも推進されるため、最終エネルギー消費〔単位:1018ジュール〕は、

12.0〔2013年度〕
 ⇒ 9.6〔2050年度。電化率現状の場合〕
 ⇒ 6.4〔2050年度。電化率最大の場合〕

と、ほぼ半減すると見られています。これと関連してCO2の排出量は72%も削減されると試算されています注11。 


▼ 注8
CCS:Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素の回収・貯留技術。工場や発電所などから排出される二酸化炭素(Carbon dioxide)を大気に放散する前に回収(Capture)し、地下へ貯留(Storage)する技術。

▼ 注9
この4種類についてはそれぞれ次のような課題がある。
①再エネ:安定性、自然保護とのバランスなどの課題、②原子力:操業リスク、廃棄物管理の問題などの課題、③CCS付き火力発電:コスト、社会的受容性などの課題、④CCS付きバイオマス発電:森林保全などとの相克などの課題
〔出所 竹内純子編著、伊藤・岡本・戸田著「エネルギー産業の2050年:Utility 3.0へのゲームチェンジ」、日本経済新聞出版社刊、2018年10月〕

▼ 注10
水を電気分解し水素ガスをつくる。ドイツではこれをPower to Xと呼ぶ(Xは水素ガスなどを示す)。

▼ 注11
岡本 浩、「Utility3.0 脱炭素化に向けたエネルギー産業の将来像」、2018年5月30日

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