Utility 3.0時代の電力システムの全体像
─編集部 日本の人口は減少しても、Utility 3.0時代には、非電力(石油・ガスなど)が電化されるので電力消費自体は上昇するのですね。ところで、Utility 3.0時代の電力システムは、どのようなイメージになるのでしょうか?
岡本 図8に、Utility 3.0時代の電力システムの全体像を示します。図8を見ていただくと、左側には「再エネ電源と大規模電源(火力発電など)」が、右側には、「消費者・プロシューマー・EVステーション」が配置され、電力システム(電力業界)とEV充電ステーション(運輸業界)の連携や融合が進んでいく様子が描かれています。
図8 Utility 3.0時代の電力システムの全体像
これらの間には、大電力の取引を行うパワーマーケターと、需要者側に散在している小規模な再エネ(太陽光発電)や蓄電池、電気自動車などの電力を束ねてパワーマーケターなどに提供するリソースアグリゲーターが存在しています(表2)。
表2 図8に示すUtility 3.0の全体像の用語解説
出所 岡本 浩、「Utility3.0 脱炭素化に向けたエネルギー産業の将来像」(2018年5月30日)他、各種資料を参考に編集部で作成
さらに、UX(ユーザーエクスペリエンス)コーディネーターという、新しい電力市場でお客様が体験を通して利用しやすいようにする調整役が活躍します。このUXコーディネーターは、まさにUtility 3.0時代における新ビジネスモデルの推進役です。
また、電力取引所として、大規模エネルギー取引所(BPX)に加え、再エネ時代に対応した分散エネルギー取引所(DPX)が活躍します。
さらに図8の下段に示すTSO(送電会社)は、大規模電源やリソースアグリゲーターなどから、電力の品質(周波数など)を安定させるための調整力(⊿kW)の調達を行います。同じくDSO(配電会社)は、リソースアグリゲーターと連携しながら、他の社会インフラ(水道や通信)と連携を取ります。
このようなUtility 3.0時代には、すでに全家庭に導入されているスマートメーターの情報なども活用して、新しいビジネスが誕生していくことが期待されています。
2019年以降で注目される技術は何か?
─編集部 Utility 3.0の全体的なイメージが理解できました。ところで、本年(2019年)以降、例えば岡本さんご自身、あるいは御社が注目している技術、あるいは成功しそうなビジネスモデルについて具体的にお聞きしたいのですが。
岡本 一番注目しているのはやっぱり電気自動車です。ようやく、普及の領域に入ってきましたね。
電気自動車については、過去何度も普及しそうな情報が流布していましたが、今回は、国際的な脱炭素化の流れとともに、自動車の市場を押さえている欧州各国の政府・自動車メーカー各社や、世界の電気自動車普及のトップを走っている中国などが本格的に取り組んでいることもあり、大いに注目しています。その理由は、今後、電気自動車と電力システムは連携しながら、融合していく可能性があるからです。
また、現在の電気自動車、例えば日産のLEAF注12の場合は、航続距離(一充電走行距離)が400kmと伸びてきており、駆動用のバッテリー容量は40kWh(リチウムイオン)に増え、急速充電時間も40分(充電量80%までの時間)と短縮され、従来のガソリン車に近づきつつあります。
今後、蓄電池の充電時間の短縮、蓄電池の容量アップや価格の低下が実現されますと、急速に普及する可能性が大きいと見ています。
▼ 注12
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/leaf/charge.html