新・電力システム環境でシミュレーションを実施
図1 北本連系設備のルート(左側が新北本連系設備)
出所 http://www.hepco.co.jp/energy/distribution_eq/reinforcement_summary.html
〔1〕石狩湾新港発電所/新北本連系そして泊発電所も
OCCTO検証委員会の最終回である第4回は、2018年12月12日に開催された。同委員会は、今回の大規模停電に関して、ブラックアウトの再発防止策について「中長期対策の検討を行うためのシミュレーション」などを行い、そのシミュレーション結果も追加された最終報告案を検討し、翌週の12月19日に公表した。
本誌2018年12月号でもレポートしたように、現在、北海道電力では、
(1)石狩湾新港発電所(1号機:56.94万kW、2019年2月営業開始、表4)
表4 石狩湾新港発電所のプロフィール
出所 http://www.hepco.co.jp/info/2018/1230971_1753.htmlをもとに編集部で作成
(2)北海道電力と本州(東北電力)を直流で結び電力の相互融通を行う新北本連系設備(新ルート:北斗今別直流幹線、30万kW、自励式。2019年3月運転開始。図1)
が予定されていることに加えて、
(3)泊(とまり)原子力発電の再稼働〔加圧水型軽水炉(PWR)型。1号機(57.9万kW)、2号機(57.9万kW)、3号機(91.2万kW)、合計207万kW〕
の可能性もあるため、今後の北海道電力の電力システムは、中長期的には地震発生当時と比較して大きく変化する。
〔2〕電力中央研究所や東電パワーグリッドの協力を得る
以上を勘案して今後想定される、より厳しい「最過酷断面」(最も厳しい条件)で電力システムが脱落(緊急停止)した場合、ブラックアウトしないかどうかという、シミュレーションが行われた。
このシミュレーションは、電力中央研究所注2や東京電力パワーグリッドなどの協力を得て、両社のシミュレーションモデルを使用して行われた注3。
〔3〕ブラックアウト発生に関する周波数の判定基準:下限値は「47.0Hz」
今回のブラックアウトの発生時における電力系統の周波数(平常時:50Hz)は、最終的に45Hz以下に低下してブラックアウトに至っていた注4。
そこで、北海道電力で現在運用されている、系統連系技術要件を見てみると、運転限界周波数の下限値として「47.0Hz」が、許容し得る周波数の下限値と規定されている(すなわち、ブラックアウトが発生する限界周波数である)。
これをもとに、OCCTO検証委員会では、図2に示されるように、
図2 ブラックアウト発生の有無判定の基準
電源脱落による周波数最下点が47.0Hz以上であるかどうか
を判定基準として、シミュレーションモデルで確認することとなった。
〔4〕周波数を回復させるための重要な技術:UFR装置
(1)UFR装置の役割に注目
緊急時における系統周波数の低下を回復させる重要な装置として、UFR装置の活躍に注目しておく必要がある(本誌12月号参照)。
UFR装置(Under Frequency Relay、系統周波数低下保護装置)は、周波数の低下を検出して負荷(一般家庭を含む需要家への電力供給)を自動的に遮断(負荷を切り離す。すなわち停電させる)することによって、周波数低下による波及的な事故を防止する装置である。
北海道電力では、このUFR装置を順次アップグレード(更新)しているが、これまで主として採用されてきた方式は、時限に合わせて順次負荷遮断する方式であった。これは、周波数低下が一定時間、一定周波数(整定値)以下となってしまった場合に、1つずつ順番に負荷遮断を動作させ、周波数の回復を行う重要な機能である。
このようなUFRの機能を、図3を見ながら解説しよう。
(2)df/dt機能なしUFRの仕組み
図3の左図は、df/dt(時間の変化に伴う周波数の変化の割合)機能〔df/dt:時間の変化(dt)に伴う周波数の変化(df)の割合〕なしのUFRの仕組みである。地震発生にともなって発電所が脱落(発電停止)に追い込まれると、周波数(50Hz)が急速に低下していく。UFRは周波数が定められた閾値(しきいち)よりも低下すると、周波数低下の持続時間をカウントし始め、これが定められた動作時限に到達すると負荷遮断が行われる。
例えば、図3の左図の下段では、周波数が48Hzを下回った時間を起点として、周波数低下の持続時間がそれぞれ1秒後、3秒後、4秒後、6秒後というように、動作時限に到達したものから順次、負荷遮断されていく。これによって、あるUFRまでが動作したことにより周波数が回復していくと、残りのUFRは不動作となるため、必要最小限の負荷遮断により周波数の回復が期待される。
しかし、電源脱落の容量が非常に大きい場合には急速に周波数が低下するため、動作時限が7秒後、8秒後のように長く設定されているUFRについては、動作が間に合わず、ブラックアウトに至ってしまうことが問題となる。これを事前に察知し、防止するのがdf/dt機能である。
〔5〕df/dt機能付きUFRの活躍
図3の右図は、df/dt機能付きUFR装置の仕組みである。
系統周波数の変化率であるdf/dtは、おおよそ電源脱落の容量に依存して決まる。大容量の電源脱落が生じた場合には、df/dtも非常に大きな数値となるため、df/dtがある閾値を超える場合には、早期に(4秒後とか6秒後とか待たずに)負荷遮断を行うことで、周波数を効果的に回復させることが期待される。
このように、時限による方式では動作しなかったUFR装置にdf/dt機能をもたせて大規模電源の脱落時には早期に動作させることができれば、(整定値の47Hzまで低下しないよう)状況に応じて先手を打って、周波数が回復できると期待される(図3右下の太い赤い矢印⬆)。
図3 周波数低下保護装置(UFR)の仕組み〈イメージ例〉
今回の北海道電力の場合は、df/dt機能付きUFR装置は、全体の10%程度備わっていたが、時限の遅いもの(例:前出の図3左の7秒、8秒)が、df/dtでも動作するような適切な整定がなされていなかったため、十分に周波数低下を防止できなかった側面もあった。
〔6〕2つのケースに分けてシミュレーション
このようなdf/dt機能付きUFRなどを使用して、
①石狩湾新港発電所と新北本連系設備の運転開始後
②泊発電所再稼働後
の2つのケースに分けてシミュレーションが行われた。その結果を、後出の表6と表7に示す。
▼ 注2
一般財団法人 電力中央研究所:電気事業の運営に必要な電力技術および経済に関する研究、調査、試験およびその総合調整を行い、技術水準の向上を計り、電気事業一般業務の能率化に寄与することを目的として1951(昭和26)年11月7日に設立。2018年度予算:302億円、従業員合計:739人(2018年3月31日現在)。https://criepi.denken.or.jp/
▼ 注3
シミュレーションには、発電機や北本連系の潮流制御などを表す多数のモデルが必要であり、電力中央研究所や東京電力パワーグリッドでは、MATLAB/Simulinkなどを活用して独自にモデル構築ならびにそれらを統合した「周波数応動解析プログラム」が開発されている。
▼ 注4
本誌2018年10月号、12月号で解説。12月号掲載の図3右下を参照。