[北海道全域295万戸がブラックアウト! 火力発電所停止までの18分間を解明]

北海道全域295万戸がブラックアウト! 火力発電所停止までの18分間を解明(その3)

— どのように再発防止していくか、OCCTO検証委員会が最終報告 —
2019/02/01
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

シミュレーション結果1:石狩湾新港発電所と新北本連系設備の運転開始後

〔1〕3つのケースの最過酷断面でシミュレーション

 石狩湾新港発電所と新北本連系設備の運転開始後のシミュレーションでは、現状において想定できる3つの最過酷断面として、表5に示す、「深夜需要」「軽負荷かつ再エネ高出力」「深夜需要かつ揚水なし」の3つのケースが設定された。

表5 最過酷断面:設定された3つのケース(表6参照)

表5 最過酷断面:設定された3つのケース(表6参照)

※1 同じ規模の発電機が停止(解列)しても、事前の「電力需要」の大きさ(昼は大きく、夜は小さい)によって、周波数変動の大きさが異なり、電力需要が小さいほど周波数の変動が大きくなる。例えば、電力需要が少ない深夜の場合、複数の発電所の合計総出力を下げている(例:総計30万kWとする)ため、例えば 10万kWの発電所が停止すると全体の1/3の変動となる。しかし、電力需要の多い昼間は複数の発電所の合計総出力を上げている(例:総計60万kWとする)ため、同じ出力10万kWの発電所が停止する場合は1/6と変動幅が大幅に少なくなる。すなわち周波数変動も小さくなる。このような現象から、深夜は電力需要が最も小さいが、周波数低下の影響が最も大きいということになる。⇒参考サイト:OCCTO「系統運用に関する基本用語の解説」平成30年10月
※2 過去の実績をもとに、電力需要が小さい中間期(軽負荷)で、かつ太陽光発電(再エネ)の出力が大きい時間帯(ここでは、2017年10月1日の11時の実績)での電力需要および太陽光発電の出力を抽出して最過酷断面の1つとした。需要が小さいとき(軽負荷時)に周波数低下が厳しくなる理由は上記の通りであるが、ここではさらに需要の内の一定の割合を供給している太陽光発電が周波数低下により脱落するケースが想定されている。
在来の大規模電源の脱落に加え、太陽光発電も一定の割合が停止すると、非常に過酷な事象となる可能性がある。なお、周波数低下時の太陽光発電の一斉解列(一斉停止)は、現在の系統連系規定に沿ったシナリオが想定されている。周波数低下時にも解列しないように要件を変更することの必要性については、別途議論が進められている。
出所 http://www.occto.or.jp/iinkai/hokkaido_kensho/hokkaidokensho_saishuhoukoku.html

 表5のうち、①−2(昼)、①−3(夜)はともにさらに厳しい断面である。

 そのシミュレーション結果が、表6に示す「シミュレーション結果①:石狩湾新港発電所や新北本連系の運転開始後のケース」である。

表6 シミュレーション結果①:石狩湾新港発電所や新北本連系の運転開始後のケース

表6 シミュレーション結果①:石狩湾新港発電所や新北本連系の運転開始後のケース

出所 OCCTO検証委員会「最終報告書」(概要)29ページ

〔2〕苫東厚真発電所が脱落してもブラックアウトしない

 表6は、石狩湾新港発電所と新北本連系設備の運転開始した後に、最大規模の発電所である苫東厚真火力発電所が地震によって脱落(発電停止)した場合である。

 表6では、苫東厚真火力(1号機、2号機、4号機。3号機は2005年に廃止)が、3台ともフル出力(1598MW:159.8万kW。定格:165万kW)であることを前提として今回のシミュレーションが行われたが、苫東厚真発電所のサイトが3台とも脱落しても、今回のようなにブラックアウトには至らないことが確認された。

 表6の左側に、

(1)需要(需要は実績で、それぞれ256万kW、281万kW、279万kW)

(2)供給力(①脱落対象電源、②非脱落電源)

(3)シミュレーション結果

を示し、表6の右側に、①−1、①−2、①−3が示されている。

〔3〕①−1、①−2、①−3におけるトピック

 詳細は、OCCTO検証委員会の最終報告を参照していただくこととして、石狩湾新港発電所と新北本連系設備が運転開始した後のシミュレーションのトピックを示すと次のようになる。

(1)表6の最下段に示すように、シミュレーションの結果で最も注目される周波数最下点(Hz)は、47.46Hz、47.87Hz、46.95Hz(47.0Hzを下回っているが一瞬なので条件付きでOK)と、新環境の下では、ブラックアウトに至らないことが確認され、最終的には50Hzまで回復した。

(2)脱落対象の電源として、表6に示す次のものがある。

A:苫東厚真火力3基(各ケースで1,598MW=159.8万kW)苫東厚真火力の1,598MWは、電力需要の2,564MWの60%前後を占めており、その脱落の影響は大きい。

B:再エネ他

①−1:計268MW(太陽光:0MW、風力:125MW、その他火力:143MW)、

①−2:計1,168MW(太陽光:960MW、風力:138MW、その他火力:70MW)

①−3:計264MW(太陽光:0MW、風力:115MW、その他火力:149MW)

〔上記の( )内の各数値は報告書の「本文」から引用したもの〕

(3)非脱落電源〔(2)の脱落対象の電源以外の電源〕としては次のものがある。

知内2号機(各ケースで110MW)に加えて、新規の石狩湾新港1号機(各ケースでそれぞれ155MW、142MW、189MW)。その他(各ケースでそれぞれ563MW、554MW、576MW)注5

(4)シミュレーション結果は、次の通りである。

A:既存の北本連系設備(600MW:60万kW)に新北本連系設備(300MW:30万kW)が増設されるため、600MWから900MW(損失率を5%とみて、実質855MW)となるため、北本のAFC最大動作量(AFC:自動周波数制御装置)は、表の下段に示すように、802MW(546MW)、963MW(531MW)、800MW(532MW)となった。

なお、( )内の数字は事前に確保すべき最低限の制御余力(マージン)を表す。すなわち、北海道エリアで電源脱落が生じた場合に、東北電力側から緊急融通が行えるよう、前もって空けておくべき容量を示す。実際には想定した各断面において、この数字以上のマージンが確保されていた。

また、ここで、963MW(=96.3万kW)は新北本連系設備容量の900MW(=90万kW)を超えた数字になっている。これは、北海道電力から東北電力への電力潮流を「南流」とし、東北電力から北海道電力への電力潮流を「北流」とすると、南流していた30.1万kWの潮流が、北流66.2万kWへと流れを反転してさせたため、その潮流の実際の動作量は「南流30.1万kW+北流66.2万kW=96.3万kW」となるからである(図4)。

図4 表6のケース①−2の場合の周波数最下点と北本AFC最大動作量の関係

図4 表6のケース①−2の場合の周波数最下点と北本AFC最大動作量の関係

出所 OCCTO検証委員会「最終報告書」(本文)84ページ

B:シミュレーション終了時点の北本連系設備・新北本連系設備の最終潮流は、例えば①−2の場合、533MW(=53.3万kW)となったが、これは新連系設備容量855MW(=85.5万kW)に対して、322MW(=855MW−533MW=32.2万kW)の調整余力を確保していることがわかる。電源脱落によって生じた最初の周波数低下を乗り切ったあとは、この調整余力は更なる周波数低下の補償に活用できる。


▼ 注5
その他の内訳は、水力、地熱、バイオマス、その他火力などを含む。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...