シミュレーション結果②:泊発電所の再稼働後
〔1〕4つの最過酷断面を設定
表7に示す、石狩湾新港発電所と新北本連系設備の運転開始後、さらに現在、再稼働に向けて審査中の泊原子力発電所3台(1号機57.9万kW、2号機57.9万kW、3号機91.2万kW合計207万kW)を含めたシミュレーションでは、現状において想定できる次のような4つの最過酷断面が設定され、分析された。
表7 「泊発電所再稼働」後の4つの最過酷断面のシミュレーション結果
〈ケース②−1〉深夜需要・揚水なし・北本北流、泊3台脱落
〈ケース②−2〉深夜需要・揚水なし・北本北流、泊2台脱落
〈ケース②−3〉再エネ高出力・揚水あり・泊3台脱落・北本南流
〈ケース②−4〉再エネ高出力・揚水あり・泊3台脱落・北本0MW
このうち、揚水発電も動作しない、しかも大型の泊発電所3台(計2,070MW)が同時に脱落するケース②−1が、最も厳しい最過酷断面である。
〔2〕②−1、②−2、②−3、②−4におけるトピック
次に、再稼働に向けて審査中の泊発電所を含めたシミュレーションのトピックを示すと次のようになる(詳細は、OCCTO検証委員会の最終報告を参照のこと)。
(1)表7の最下段に示すように、シミュレーションの結果で最も注目される周波数最下点(Hz)は、45Hz以下、47.41Hz、47.68Hz、47.44Hzとなっている。新環境の下では、②−1のケースが45Hz以下と整定値の47Hzを大きく下回り、特別な対策(後述の表8参照)を実施しないと、ブラックアウトしてしまうことが確認された。その様子を図5に示す。
図5 表7のケース②−1の場合の周波数最下点と北本AFC最大動作量の関係
図5から、災害発生から3秒も時間が経過していないのに、周波数が下限の整定値である47Hzを超えて45Hzにまで低下してしまい、他の電源も波及的に停止することでブラックアウトに至ると考えられる。
(2)ケース②−1とき、表7の下段に示すUFR(系統周波数低下保護装置)動作量が1,305MWとなっているが、その表の直下に示すUFR残量は580MWも残っている。
この意味は、UFRシステムが全体として約1,900MW(1,305MW+580MW)の負荷遮断容量をもっているが、前出の図3で説明したように、周波数の低下に伴って順番に負荷遮断していくため、一部は周波数低下の持続時間が時限に到達しないところから、使用されないまま580MWが残ってしまったのである。
〔3〕特別な追加対策でブラックアウトを回避
45Hz以下にまで低下してしまった表7のケース②−1の場合について、別の追加的な対策として表8に示す、
(1)「df/dtを活用したUFR整定(整定とはdf/dtの閾値など、UFRの動作に関わる各種数値を適切に定めること)」(表8では、df/dt機能が適用されているUFRの比率が、20%(UFR更新率20%)および100%(全UFR更新後)の場合を示す)
表8 ケース②−1に周波数変化率要素(df/dt)活用対策や安定化装置を適用した場合のシミュレーション結果
(2)「高速負荷遮断を行う安定化装置」(図6)の導入
図6 高速負荷遮断を行う安定化装置と従来の負荷遮断(UFR)の違い
の2つの対策を行い、〈②−1−a1〉〈②−1−a2〉〈②−1−b1〉〈②−1−b2〉という4通りの再発防止策のシミュレーションが行われた。その結果、いずれのケースでも、泊発電所の脱落時にブラックアウトに至らなかったことが確認された。
ただし、このうち、〈②−1−a1〉に示すように、UFRの更新率が20%の場合(すなわち、全UFRのうち20%にdf/dt機能を付けた場合)は、周波数最下点は46.65Hzと、制定値の47Hzを若干下回っているが、無視できるほど短時間(10秒続くとブラックアウトに至るが、1.7秒という短時間)であったため、条件付きで合格(〇*)となった。
これは、df/dt機能付きUFRの適用によって、UFRがくまなく動作した結果、UFR残量は580MW(表7)から49MWへと大きく減少したことによるものである。なお、df/dt機能付きUFRの比率を上げた場合、もしくは安定化装置を導入した場合では、より高い効果が得られており、いずれもブラックアウトを回避できる結果となった。
以上のように、追加的な対策を適用することで、中長期断面において最過酷と考えられる〈②−1−a1〉の泊発電所の3台同時脱落時にも、ブラックアウトに至らないことが確認されたのである。