[特集]

みんな電力のP2P電力取引プラットフォーム「ENECTION2.0」が拓く新たな電力ビジネス

― ブロックチェーン技術によって日本初の「電源のトレーサビリティ」を実現 ―
2020/01/06
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

P2P電力取引プラットフォーム「ENECTION2.0」と再エネ100%マーケットプレイス「ENECTパワープール」

〔1〕ブロックチェーンによる30分ごとの需給マッチング

 ブロックチェーンとは、簡単にいえば、Aさんがもっている何らかの価値の所有権を誰に移動させたかを証明する仕組みのことである(価値の移転証明装置)。それをIT上で実現し証明するものである。

 図5は、パブリック・ブロックチェーン(NEM)のトークン(Power Token:PTk)を使用した、BG内の30分ごとの発電量と消費量を取得しマッチングさせている仕組みである。

図5 ブロックチェーンを利用した電気のトラッキング:Power Token(PTk)のマッチング

図5 ブロックチェーンを利用した電気のトラッキング:Power Token(PTk)のマッチング

出所 みんな電力株式会社、「ブロックチェーンP2PプラットフォームENECTIONを活用したPPAスキームによる非FIT再エネ電力供給」、2019年4月

 図5に示すように、30分ごとの発電量(左側の電源)と電気の使用量(右側のユーザー)はスマートメーター(M)で計測され、それぞれの発電容量kWhに応じて各「発電ウォレット」にトークン(PTk)が配布され、発電量と需要量のマッチング(照合)結果に従って、トークンを移動させている。発電ウォレットから需要ウォレットへのトークンが移動されることで、誰(どこ)の電気が誰(どこ)に使われたかが記録され、取引されたことが客観的に証明されることになる。

 例えば、前述した丸井グループの新宿マルイ本館施設における2018年9月の先行利用試験では、青森県の卒FIT風力や新潟県にある小水力などを指定した結果、2018年9月度の供給量のうち71%が指定先の再エネ電源から約定したものとなった注9

 電気の個別取引の仕組みに、ブロックチェーンがぴたりとはまり、みんな電力は、新規の装置の追加をせずに、既存インフラを活用した電力のトラッキング・システムの構築に成功した。

〔2〕再エネ電力プール「ENECTパワープール」

 みんな電力では、ENECTION2.0を利用した、再エネ電源をプールして需要家とつなぐ「ENECTパワープール」も開設した(前出の図4参照)。現在、このプールに調達できている電力が大容量になり、太陽光や風力などの大手発電事業者を中心に、すでに合計約50万kWhの再エネ電源がプールされている。これは大規模の火力発電所1基分に相当するほどである。

 ENECTION2.0によって、電力の生産者と需要家が直接取引して電力を購入することが可能となった。みんな電力では、これを再エネ電力取引のプラットフォームとして、再エネ電源と需要家を繋ぐサービスを開始している(表3)。また、図6に、同社のP2P電力取引プラットフォーム「ENECTION2.0」を活用した、新たな7つの事業領域を示す。

表3 ENECTION2.0 プラットフォームを利用したサービス(予定も含む)

表3 ENECTION2.0 プラットフォームを利用したサービス(予定も含む)

PPA:Power Purchase Agreement、電力購入契約。再エネの電力を購入(調達)する手段として、電力小売事業者(みんな電力)が発電事業者(Developer)と電力購入契約(Power Purchase Agreement、PPA)を締結すること。発電事業者は、この買取契約を裏付けにして、資金調達を行い、新たな電源開発が可能となる
SaaS:Software as a Service、利用者が必要なときに必要なソフトウェア機能をインターネット経由でサービスとして提供され、利用できるクラウドの一形態
出所 https://minden.co.jp/personal/wp-content/uploads/2018/12/release_20181205.pdf

図6 P2Pプラットフォームによる新たな7つの事業領域

図6 P2Pプラットフォームによる新たな7つの事業領域

出所 みんな電力株式会社、「ブロックチェーンP2PプラットフォームENECTIONを活用したPPAスキームによる非FIT再エネ電力供給」、2019年4月

〔3〕RE100が求める電源のトレーサビリティを付与できる「ENECTION2.0」

(1)「ENECT RE100 プラン」の仕組み

 欧米など、再エネ利用が普及している国の多くでは、発電源証明(REC)注10と呼ばれる電力のトレーサビリティの仕組みが導入されている。日本でも、前述したRE100加盟企業の拡大や個人の再エネ利用意識の高まりなどを背景に、再エネ電源にアクセスして購入できる仕組みが求められている。

 図7は、みんな電力の「ENECT RE100 プラン」(前出の表3も参照)の仕組みを示したものである。

図7 ENECT RE100プランの仕組み

図7 ENECT RE100プランの仕組み

出所 みんな電力株式会社、「ブロックチェーンP2PプラットフォームENECTIONを活用したPPAスキームによる非FIT再エネ電力供給」、2019年4月

(2)電源のトレーサビリティ要件を満たせる

 FIT電気を「再エネ」として供給するためには、非化石証書注11を組み合わせる必要があるが、非化石証書は電源の特定がなされないため、RE100が求めるトレーサビリティ(電源特定)要件を満たせない。しかし、みんな電力のENECTION2.0を活用すると、電気そのものにトレーサビリティを付けて供給するため、RE100が求める電源のトレーサビリティ要件を満たすことができるようになる。これは、電気と分離した環境価値取引である再エネ証書やクレジットの購入に比べると、より直接的な再エネ電力の使用証明が可能となっている。

 さらに、従来のRECの管理単位は、年間のMWh単位、証明費用も年間25万円程

注12と、大規模再エネ電源や大企業需要向けを想定したシステムだが、ENECTION2.0では30分単位の精度のトラッキングのため、約定あたり5円以下と、高い電力取引の証明を低コストで実施でき、大企業だけでなく個人や小規模なユーザーも再エネ電力を利用できる。例えば、日本初の「自然エネルギー100%大学」(RE100大学)を実現した千葉商科大学は、みんな電力のプラットフォームを活用してRE100を実現している。

(3)「再エネ100 宣言 RE Action」向けサービスも開始

 また、みんな電力では、2019年10月から、新たに中小企業や企業以外の団体によるRE100の新枠組み「再エネ100 宣言 RE Action」(本誌2019年11月号参照)向けに、ENECTION2.0を活用した電力トラッキングサービス(ENECT RE100プラン)も開始している注13。これにより、これまで再エネ由来の電気の調達が難しかった中小企業などにおいても、再エネ電力への切り替えが広がることも期待できる。

 「他の小売電気事業者は、電気を市場から仕入れたり、東電などの一般送配電事業者から融通してもらって販売、あるいは自分で発電所を作って販売したりしている。それに対してみんな電力は、それらを一切もたず、店を開いているだけのようなもの。つまり、マーケットプレイス(電子商取引市場)を提供しているようなものなのです」と三宅氏は語る。


▼ 注9
https://minden.co.jp/personal/wp-content/uploads/2018/12/release_20181205.pdf

▼ 注10
REC:Renewable Energy Certificate。例えば、ヨーロッパではEECS/European Energy Certification System、米国ではCRS/Center for Resource Solutions、その他I-REC(グリーン電力証書の国際的機関)など。再エネ電源ごとの発電量を発電源証明という形で認証し、需要家に発行する仕組み。

▼ 注11
石油や石炭などの化石燃料を使っていない「非化石電源」で発電された電気が持つ「非化石価値」を取り出し、証書にして売買する制度。非化石証書には、「再エネ指定」(FIT含む)と原子力を含んだ「指定無し」の2種類がある。2018年に「非化石証書」の取引市場が創設され、5月から取引が始まった。

▼ 注12
I-RECでは初期500ユーロ、年間2,000ユーロ、0.07ユーロ/MWh、電源側の登録に5年ごと1,000ユーロ(I-REC Fee Structure 2018)

▼ 注13
https://minden.co.jp/personal/wp-content/uploads/2019/10/20191010_reaction_release.pdf

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