[特集]

「容量市場」「需給調整市場」は競争市場になり得るか

― 重要な脱炭素政策との整合性と再エネ電源の需給調整への活用 ―
2020/07/11
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

電力システム改革の「発送電の法的分離」が2020年4月に完了し、再エネの主力電源化を中核に据えた新しい電力ビジネスの環境下で、全面的な市場改革の取り組みが本格化してきた。日本の電力市場には、すでに約1,600もの電気事業者が参画している。このような新しい電力市場において、公平かつ健全な市場競争が行われるよう、スポット市場や時間前市場、非化石価値取引市場、ベースロード市場が導入され、これらに加えて、新たに容量市場と需給調整市場の導入も予定されている。
ここでは、2020年5月に開催された、自然エネルギー財団主催のオンラインセミナーのうち、同財団の上級研究員である木村 誠一郎氏の講演(注1)をベースに、その後の展開も含めてレポートする。日本の電気事業の現状を俯瞰したうえで、発電分野の競争状況を整理した後、各市場の内容とその課題を見ていく。

日本の電力システム改革以降の電気事業

〔1〕日本の電気事業者の総数は約1,600者へ

 本題に入る前に、2016年4月1日から実施された電力システム改革の第2弾「電力小売全面自由化」(以下、自由化)以降、日本の電力システム事業がどのように変化してきたか、その背景を概観してみよう。

 図1は、電力の自由化以降に新規参入した登録小売電気事業者数(新電力ともいわれる)注2の推移を示している。図1からわかるように、2016年4月1日に、改正電気事業法によって、電気事業に関するライセンス制度(経済産業省が審査し可否を判断)が導入されて以降、登録小売電気事業者数は当初の289者から急増し、2020年5月には2倍以上の655者に達している。

図1 小売電気事業登録申請および登録事業者数の推移

図1 小売電気事業登録申請および登録事業者数の推移

注:2020年5月14日現在、登録小売電気事業者数は655事業者
出所 「電力・ガス取引監視等委員会の活動状況(2018年9月〜2019年8月)」、2020年1月

 また、表1を見ると、発電事業者は2020年5月現在で885者に、さらに2020年4月1日からの発送電の法的分離によって誕生した一般送配電事業者注3を含むと、日本の新しい電気事業制度における電気事業者の総数(重複も含む)は、約1,600者にのぼっていることがわかる。

〔2〕広域機関が日本全体の電力需給を制御

 約1,600の電気事業者によって作られる日本の日々の電力供給計画は、中立で公平な業務運営を行う認可法人「電力広域的運営推進機関」(以下、広域機関)注4でとりまとめられ、電気事業法に基づいて、全国規模の電力需給のバランス評価が行われている。

 広域機関は、具体的に主に次のようなことを行っている。

  1. 法的分離によって誕生した一般送配電事業者(TSO:Transmission System Operator)が、例えば東京電力エリアや関西電力エリアなどの供給エリア単位で管理している各「中央給電指令所」注5とリアルタイムに連携している。
  2. (1)によって、全国規模で電力の需給状況などを24時間365日監視し、一元的に管理している。

 これによって広域機関は、電力供給に「余力のあるエリア」から「不足しているエリア」に電力を供給するよう「電力の融通指示」などを行い、日本の電力を安定供給できるように全体の需給調整を行っている。

〔3〕次々に開設される電力の取引市場

 電力システム改革以降の日本の新しい環境下では、従来の旧10電力会社(旧一般電気事業者)が電力の安定供給のために行ってきた、発電計画や電力の需給調整を、新しいルールのもとで再構築し、新規参入した多数の小売電気事業者が、公平で中立な市場競争ができる環境を整備する必要がある。

 市場競争を促進する面から見ると、図2や表2に示すように、2003年に設立された日本卸電力取引所(JEPX、表3の用語解説を参照)では、2005年からスポット市場を、2009年から時間前市場を開設した(2016年に4時間前市場を閉設し、1時間前市場を開設)。また、電力システム改革以降の2016年からは、2018年に非化石価値取引市場、2019年にベースロード市場を開設した。

表3 電力取引に関する主な用語解説

表3 電力取引に関する主な用語解説

出所 「日本卸電力取引所 取引ガイド(2019年1月22日更新)をもとに編集部で作成

図2 電力取引市場の整備の方向性

図2 電力取引市場の整備の方向性

ΔkW:デルタ・キロワット、調整力の単位
環境価値:太陽光や風力等の再エネによる電気はグリーン電力と呼ばれる。「電気を創出する価値」の他に、CO2を排出しないという「環境価値」をもっている。この「環境価値」を証書にしたものは「グリーン電力証書」(第3者機関の認証が必要)と呼ばれ、売買の対象となる
※1 2005年:スポット市場を開設、2009年:時間前市場を開設。2016年:4時間前市場を閉設し、1時間前市場を開設。2018年:非化石価値取引市場を開設、2019年:ベースロード市場を開設。
※2 電力広域的運営推進機関(広域機関)、「容量市場の概要について」2019年10月
※3 需給調整市場の概要・商品要件(四国電力)/需給調整市場について(資源エネルギー庁)、
https://www.yonden.co.jp/nw/assets/supply_adjustment_market/index/refere...
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_...
※4 2018年:「FIT非化石価値取引市場」を開設、2020年:「非FIT非化石価値取引市場」を開設
出所 上記URLのほか、資源エネルギー庁、「容量市場について」(2019年4月22日)をもとに編集部で作成

表2 歴史的に見た多彩な各取引市場の開始年とその展開

表2 歴史的に見た多彩な各取引市場の開始年とその展開

ΔkW:デルタ・キロワット、調整力の単位
出所 各資料をもとに編集部で作成

 さらに、2020年には、広域機関によって容量市場が開設され、2020年7月に初の入札が実施される予定だ。さらに、続く2021年には、一般送配電事業者10者によって、需給調整市場が開設される予定である。

 次々に開設されている電力取引市場が、どのように整備されてきたのか。今後、どのように整備されると市場競争が健全に発展していくのか。

 以降では、自然エネルギー財団 上級研究員である木村 誠一郎氏の「発電分野における競争促進と市場制度改革/需給調整市場」という講演をベースに、その後の新しい展開なども含めて見ていく。


▼ 注1
オンラインセミナー「自然エネルギーのさらなる導入拡大に向けた電力システム改革を」(2020年5月26日)のうちの講演、「発電分野における競争促進と市場制度改革/需給調整市場」木村 誠一郎氏(自然エネルギー財団 上級研究員)

▼ 注2
登録小売電気事業者:電気事業法では、需要家に電力を販売できるのは国に登録した小売電気事業者(新電力ともいわれる)だけに限られている。

▼ 注3
一般送配電事業者:旧一般電気事業者10者から法的分離して誕生した事業者。

▼ 注4
電力広域的運営推進機関:略称は「広域機関」(経済産業省管掌)、Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN(略称OCCTO:オクト)。
電力システム改革の第1弾として2015年4月1日に設立され、すべての電気事業者に加入義務のある認可法人として中立・公平な業務運営を行っている。電力の需要と供給のバランスを確保するとともに、電力系統の適切な整備を主導している。

▼ 注5
中央給電指令所:一般送配電事業者が、各供給エリアの電力の需給状況や系統の運用状況を管理しているセンター。
電力会社(旧一般電気事業者、10者)では、系統から供給する電気は蓄えることができない(大容量のためコスト的に蓄電できない)ため、顧客の電気使用量(需要)と自社の発電量(供給)を常に(30分ごとに)一致させる必要がある(計画値同時同量)。この需要と供給のバランスが崩れると、周波数が変動し、最悪の場合には停電に至る恐れがある。

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