脱炭素政策と整合性のある容量メカニズムを
「日本の容量市場において欠如している議論としては、容量市場に参加できる電源に関して、炭素(CO2)排出量に対するハードルが設定されていないことである」と木村氏は指摘した。
例えば、英国の場合、2015年から集中型容量市場を導入しているが、CO2排出量を抑えるために、2015年から排出実績基準(The Emissions Performance Standard)が導入されている。
具体的には、排出係数「450g/kWh」を基準として設定し、実質的に新設火力発電所の年間CO2排出量を規制している。この規制を超えるものは、容量市場に参加できない制度となっている。
このような規制によって、英国では、石炭火力発電所のようなCO2排出量の多い発電所の新設分については容量市場に参加できない、という基準を設けて容量市場をつくってきた。
木村氏は、「日本にはこのような脱炭素政策と整合性のある容量メカニズムがなく、日本ではこの点が必要ではないか」「脱炭素化との整合性を取るために、容量メカニズムにはCO2排出規制の仕組みを取り入れ、かつ変動型自然エネルギーを大量導入するために、市場において柔軟性を確保できるように、制度設計を行うべきであろう」と提言した。
需給調整市場:2021年度からスタート
最後に、2021年度からスタートする需給調整市場の仕組みを整理しておこう。
〔1〕電力システム改革以前と以降
電力システム改革以前は、例えば、旧一般電気事業者の中央給電指令所が、時々刻々と変わる需要に対応し、自社の発電所に運転指示(「出力を増強せよ」など)を行い、各発電所は、それに従って運転を実施してきた。
しかし、電力システム改革以降は、発電事業者や小売電気事業者は、それぞれ30分単位で電力の需要と供給の計画を立て(2016年:計画値同時同量の導入注18)、それに合致するように発電所を運転してきた。
〔2〕一般送配電事業者が調整力を調達
計画値同時同量制度が導入されたものの、電力の需要と供給の計画にアンバランスが生じたとき、このアンバランスを短時間に調整するための電力として「調整力」が必要となる。
この調整力を調達するのが、2020年4月に、旧一般電気事業者から法的分離された「一般送配電事業者」(TSO:Transmission System Operator)だ。一般送配電事業者は、図7右に示すように、電源A、B、Cなどから電力を短時間に調達できるように創設される「需給調整市場」から調整力を調達し、電力の需給調整を担うことになった。
図7 2021年度から開始される需給調整市場のイメージ
出所 https://www.fepc.or.jp/library/data/infobase/pdf/08_i.pdf
電力システム改革がスタートした2016年から、すでに前述した計画値同時同量制度や1時間前市場の創設などが行われてきたが、2021年からは、本格的に、需給調整市場が導入され、この市場と連動させたインバランス(差分:調整力)料金単価などの導入注19が予定されている。
今後の展開:再エネ電源も需給調整に活用を
再エネの主力電源化や卒FIT電源時代を迎えている今、日本では、再エネ(自然エネルギー)電源が、需給調整を担えるようになるのだろうか。
現在の日本では、電力の需給調整市場に変動型自然エネルギー(再エネ)が入っていくのは容易ではない。しかし、海外を見てみると、例えばスペインをはじめ、ベルギー、英国、オランダなどの風力発電は、すでに需給調整市場で自らの電源価値を販売している。
また、時間前市場を拡充することによって、発電事業者や小売電気事業者が、それぞれ自然エネルギー電源を自ら需給調整に利用していくことなども行われている。
木村氏は講演の最後に、「変動型自然エネルギー発電所、すなわち再エネ発電所の出力変動を、既存の火力発電所の需給調整機能だけで補うという考えではなく、中長期的な視点から、自然エネルギー(再エネ)発電所も需給調整に貢献できるような仕組みにすべきである。さらに、天候に左右される変動型自然エネルギーによる、発電量の予測技術精度の向上を図るとともに、時間前市場を直前まで利用できるように改めるべきである」とアピールし、締めくくった。
▼ 注18
計画値同時同量:改正電気事業法の下に、2016年4月1日以降に実施された「計画値同時同量」(30分計画値同時同量)では、「発電側と需要側の双方」においてそれぞれ計画値が策定され、同時同量が義務づけられた。このため、発電事業者および小売電気事業者は事前(前日)に策定した、①発電事業者(発電側)の発電実績に基づく発電計画、②小売電気事業者(需要側)の需要実績に基づく需要計画などを、広域機関を通じて一般送配電事業者に提出することになった。
これを受けて一般送配電事業者は、これらの「計画値」と「当日の実績値」との電力の差分(インバランス)を調整(調整力電源を用いて調整)し、電力の安定供給を実現している。
https://sgforum.impress.co.jp/article/4166?page=0%2C1
▼ 注19
一般送配電事業者から供給される電力の差分(具体的には調整に使う調整力電源などの費用)について、発電事業者や小売電気事業者は、その対価として市場価格をベースに算定された「インバランス料金」を支払うことになる。