[特集]

石炭火力発電所フェードアウト方針と世界の潮流

― 日本はパリ協定実現に向けて石炭火力を廃止できるのか?! ―
2020/08/06
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

政府は、猛威をふるう新型コロナ禍の中、パリ協定の実現(脱炭素化)に向けて、非効率な石炭火力のフェードアウト(休廃止)に向けた方針を発表した。
197カ国から代表者2万2千人が参加したCOP25(スペイン・マドリード、2019年12月2日〜15日)では、日本は、地球温暖化対策に後ろ向きな姿勢を示した国に贈られる不名誉な「化石賞」に選ばれた。国連のグテーレス事務総長からは「石炭中毒」(CO2排出量が多い石炭火力発電への依存が強い)と批判を受けたほか、欧州各国などからも非難が寄せられた。
今回の発表で日本は、本当に石炭火力発電所を廃止できるのか。ここでは、政府の発表内容を見ながら、日本の石炭火力発電の現状を徹底分析するとともに、脱炭素化を中心に据えた全世界の電源構成の潮流や、脱石炭火力発電への取り組みを見ていく。また、国際ビジネスの展開に危機感をもった日本の非国家アクター(政府以外の企業などの組織)が、TCFDやSBT、RE100などの脱炭素化を目指す国際的組織において、先進的に活躍している姿を紹介する。

「フェードアウト」と「フェーズアウト」

 IGES気候変動とエネルギー領域・戦略的定量分析センターの田村 堅太郎氏、栗山 昭久氏による、「非効率石炭火力の段階的廃止」方針に対するコメント(修正版)によれば、政府の使用した「フェーズアウト」という表現について、以下のように説明している。

 第五次エネルギー基本計画および長期戦略※1では、「フェーズアウト」(phase out)ではなく、「フェードアウト」(fade out)という表現を使っている。フェードアウトという表現は、次第に減っていくといったニュアンスを持つ。一方、脱石炭に関する国際的な議論では、意図的かつ段階的に減らしていくというニュアンスをもつフェーズアウトという表現を使うことが一般的である。

 その背景には、40年〜50年といった通常の稼働年数を経たものから減らしていくといった自然減ではパリ協定の目指す2度目標や1.5度目標には到達できない、という認識がある。エネルギー基本計画等で使われているフェードアウトも、省エネ法に基づく政策措置などにより、非効率石炭火力を減らしていくことを想定しているが、言葉のニュアンスとして不十分なため、本稿ではフェーズアウトという表現を用いる。

※1 長期戦略:閣議決定「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」、2019年6月11日
出所 「非効率石炭火力の段階的廃止」方針に対するコメント(修正版)に一部補足して掲載

 本記事においても、このメッセージに賛同し、「フェーズアウト」という表現を使用する。ただし、政府発表の用語については、「フェードアウト」(休廃止)を使用する。

急を告げる石炭火力発電所のフェードアウト問題

〔1〕経済産業大臣の記者会見

 2020年7月3日、梶山 弘志 経済産業大臣は、「非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討」に関する記者会見を行った(表1)注1

表1 最近の石炭火力発電に関する主な動き(2020年7月3日〜13日)

表1 最近の石炭火力発電に関する主な動き(2020年7月3日〜13日)

経協インフラ戦略会議:日本企業によるインフラ・システムの海外展開等を支援するとともに、日本の海外経済協力(経協)に関する重要事項を議論し、戦略的かつ効率的な実施を図る会議(議長:内閣官房長官)
出所 各種資料をもとに編集部で作成

 その内容は、脱炭素社会の実現を目指すために、第5次エネルギー基本計画(2018年7月)に明記されている非効率な石炭火力発電所のフェードアウト(休廃止)や再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化を目指していくうえで、より実効性のある新たな仕組みを導入するため、2020年7月中に検討を開始し取りまとめる、というものであった。

 具体的には、「非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設、既存の非効率な火力電源を抑制しながら、再エネ導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直しなどの具体策について、地域の実態等も踏まえつつ検討を進めていきたい」と述べた。

〔2〕経協インフラ戦略会議:海外輸出の4要件を厳格化

 同記者会見後の7月9日に開催された、第47回経協インフラ戦略会議(表1参照)は、石炭火力発電の海外輸出条件の見直し、およびインフラの海外展開に関して、「インフラ海外展開に関する新戦略の骨子」注2を発表した。

 この骨子を見ると、「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進していくことを基本方針として、今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、日本が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉(ちしつ。詳しく知り尽くしていること)していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とし、従来の海外輸出の4要件注3を厳格化した。

〔3〕電力・ガス基本政策小委員会で具体的な検討を開始

 さらに、前述した梶山経済産業大臣の指示を受けて、同年7月13日には、第26回電力・ガス基本政策小委員会が開催され、非効率石炭のフェードアウトおよび再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討〔同小委員会の資料3(表1)を参照〕が開始された。


▼ 注1
梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要

▼ 注2
インフラ海外展開に関する新戦略の骨子

▼ 注3
第5次エネルギー基本計画に基づく石炭火力輸出に関する4要件:①エネルギー安全保障および経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、②当該国(相手国)から、我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、③OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、④原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨界圧発電、後述)以上の発電設備について導入を支援する。

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