[【8周年記念】特集]

【気候変動アクション日本サミット2020レポート】脱炭素化への日本の課題

― 「ゼロエミッション」は国家戦略、事業転換しビジネスが変わる ―
2020/11/07
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

世界各地で異常な熱波による森林火災、集中豪雨や洪水などが多発し、気候危機が深化している中、「気候変動アクション日本サミット2020(JCAS2020)」(注1)が2020年10月13日に開催された(主催:気候変動イニシアティブ、表1)。同サミットには、世界各国の企業や自治体のほか、大学、宗教団体など約1,500人が参加した。
現在、各国では、コロナ危機からの回復と脱炭素化を両立させるグリーンリカバリーが進められている。今回のサミットは、コロナ危機と気候危機の克服に向けた世界の動きや、日本の企業・自治体の先駆的な経験を共有し、2021年11月に英国グラスゴーで開催されるCOP26に向けて、非政府アクター(注 16参照)の取り組みを高める場として設けられた。
ここでは、気候変動イニシアティブ(JCI)の代表であり、国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問でもある、末吉 竹二郎(すえよし たけじろう)氏(写真1)の講演「脱炭素化への日本の課題」を中心にレポートする。

表1 気候変動イニシアティブのプロフィール(敬称略)

表1 気候変動イニシアティブのプロフィール(敬称略)

出所 https://japanclimate.org/等をもとに編集部で作成

地殻変動とも言われる大転換の始まり

写真1 講演をする気候変動イニシアティブの代表 末吉 竹二郎氏

写真1 講演をする気候変動イニシアティブの代表 末吉 竹二郎氏

出所 「気候変動アクション日本サミット2020」(2020年10月13日)より

 末吉氏は、講演の冒頭、次のようにアピールした。

「時代の変革期を迎えているときに大事なことは、今、世の中がどう動いているのか、大局観をもつことです。それを時代感覚としますと、私の時代感覚は『脱炭素化という、いわばモンスターが世界中で暴れ始めた。特にビジネスの世界においては、地殻変動ともいわれるような大転換が始まっているのです』」

 続けて、「にもかかわらず、日本ではそういった危機感が感じられない。ですから、私は、このような非常に大きなギャップに、個人的にも大きな懸念を抱いています」と語った。世界では、これまで経験したことがないような事業ポートフォリオの大転換(ターゲット市場の変更)が始まっている。

 それは「海図なき事業転換」である。

エネルギー分野:地殻変動で大改革へ

〔1〕ドイツの大手エネルギー関連企業の「E.ON」「RWE」「シーメンス」

 2016年に、急進展する世界のエネルギー転換に対応するため、ドイツの第1位と第2位のエネルギー会社が、ともに自社を2つに分社した(表2)。

表2 大手エネルギー関連企業が次々に分社化/市場から脱落(主な例)

表2 大手エネルギー関連企業が次々に分社化/市場から脱落(主な例)

出所 末吉竹次郎、「脱炭素化への日本の課題」、気候変動アクション日本サミット2020(2020年10月13日)をもとに編集部で作成

 第1位のE.ON(エーオン)は、RE(再生可能エネルギー。以下、再エネ)や送電網、顧客サービスなどへ特化させ、残る伝統的な発電部門を「Uniper(ウニパー)」として分離・上場した。

 一方、第2位のRWE(エル・ヴェー・エー)は、再エネと送電網部門を「Innogy(イノジー)」として分離し、上場した(注:その後、2020年6月、E.ONはInnogyを買収)。

 さらに、2020年9月28日、ドイツを代表する国際企業であるSiemens(シーメンス)が、同社の売上高の1/3を占める、ガス・電力・風力発電部門(SGRE注2)を「Siemens Energy(シーメンスエナジー)」として分社化し、上場した注3

「このような企業の取り組みには、特にCEOの決断力が求められ、やらなければいけないことを英断する判断力や実行力が必要です。ドイツのCEOたちの決断力を尊敬するとともに、そのような大転換を受け入れるドイツの経済や社会における風土は、すばらしいと思います」(末吉氏)。

〔2〕ダウ平均銘柄から消えた米国の「エクソンモービル」と「GE」

(1)ダウ平均から消えたエクソンモービル

 米国では、2020年8月31日、米国ニューヨーク証券取引所(NYSE:New York Stock Exchange)のダウ工業平均株30種注4の中から、エネルギー関連の巨大企業のExxon Mobil(エクソンモービル)の名前が消えた(表2)。

「皆さんよく御存じと思いますが、エクソンモービルといえば、米国の資本主義を引っ張ってきた会社です。それがダウから名前を消されたのです。私は本当にびっくりしました」(末吉氏)。

 エクソンモービルは、1928年からNYSEのダウ平均の構成銘柄として採用されており、旧30銘柄のうち最も古い企業だった。

(2)GEもダウ平均から消えた

 それだけではない。エクソンモービルがダウ平均から消えた日よりも2年前の2018年6月には、世界最大規模の米国の総合電機メーカーであるGE(ゼネラル・エレクトリック)が、電力事業の不振により、ダウ平均30種から名前を消されている(表2)。

「GEといえば、エジソンが作った会社です。アメリカの工業資本主義の象徴だったのではないでしょうか。エクソンモービルやGEのような2つの企業が、いとも簡単にダウ平均30種から消されたのです」(末吉氏)。

 さらに末吉氏は、「資本市場は、先を読みながら、非常に冷徹・非情に決断を要求しています。このような厳しい競争の中に、日本の企業も置かれているのではないでしょうか」と問いかけた。

〔3〕英国の石油会社「BP」と「シェル」

(1)石油会社から総合エネルギー企業へ脱皮

 一方、国際大手石油会社の第1位、第2位でもある、英BP(旧ブリティッシュ・ペトロリアム)とRoyal Dutch Shell(ロイヤル・ダッチ・シェル)も、会社創設以来の大改革を始めており、もはや石油会社ではなく、エネルギー会社に脱皮している。

 両者は、コロナ禍で売上げが減って赤字が出ている中でも、4〜6月期に2兆円規模の減損処理をしている。

(2)BPとシェルの覚悟

 両社のCEOは、先々役に立たないような経済価値のない施設は全部捨てる、という覚悟をしている。このようなことを要求しているのは、明らかに「エネルギー転換」と考えられる。

「ですから、この脱炭素化の要求は、誰も止められない勢いで世界的な広がりを始めているのです」と末吉氏は語った。


▼ 注1
「気候変動アクション日本サミット2020」のプログラムは以下を参照。オンライン開催。
https://japanclimate.org/news-topics/jcas2020/

▼ 注2
SGRE:Siemens Gamesa Renewable Energy、
Siemens(シーメンス)がスペインのGamesa(ガメサ)を買収して、自社の風力発電部門と統合(2017年4月に合併完了)し、活動を開始した。

▼ 注3
https://new.siemens.com/jp/ja/kigyou-jouhou/press/pr-20200928.html

▼ 注4
ダウ工業平均株30種(ダウ平均):ボーイング、アップル、ゴールドマンサックス、マイクロソフト、ウォルマート、コカ・コーラ、マクドナルド、ウォルト・ディズニー、ナイキなど、米国経済を代表する30銘柄で構成されており、日本の日経平均株価と同じように平均株価を指数化している。

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