[【8周年記念】特集]

大規模蓄電池化の技術課題と今後の展望

SmartGridフォーラム2020レポート【吉野 彰 氏(旭化成 ノーベル化学賞受賞者) × 江崎 浩 氏(東京大学 SmartGridニューズレター編集委員長)】
2020/12/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

特集2では、特集1の基調講演で登壇いただいた旭化成株式会社 名誉フェローの吉野 彰 氏(ノーベル化学賞受賞者)と、東京大学大学院理工学系研究科 教授の江崎 浩氏(SmartGridニューズレター編集委員会委員長)の特別対談をレポートする。
両氏は、CASE/MaaS時代の自動運転車とリチウムイオン蓄電池(注1)をめぐる新ビジネスを中心に、「大規模蓄電池化の技術課題と今後の展望」を熱く語った(文中敬称略)。

脱炭素社会に向けて「環境」「経済性」「利便性」のバランスを

Akira Yoshino

〔1〕特に注目されるシェアリング

江崎 吉野先生の基調講演の中で、「環境」「経済性」「利便性」の3つの6角形が示されました(図1)。基調講演の内容を要約しますと、脱炭素社会の実現に向けて、

  1. 他人のために貢献することが自分に返ってくる、というエコシステムの視点をもってモノを作ると、非常に効率的なものを作ることができるということ。つまり、シェアリング(共有)によって稼働性を上げてコストが下げられる、
  2. 物理的なアセット(例:自動運転車)を共有することによって少ない資源で済む、
  3. さらに、AIに象徴される「スマート」な技術を採用することによって、人にやさしく環境負荷が少ないものを作ることができる、

という理解でよろしいでしょうか?

吉野 はい。その通りです。図1に示すように、脱炭素社会の実現に向けて、これまで対立関係にあった「環境」「経済性」「利便性」を、バランスを取りながら同時に実現することが重要となってきた、ということです。

図1 「環境・経済性・利便性の対立」から「環境・経済性・利便性の同時実現」へ

図1 「環境・経済性・利便性の対立」から「環境・経済性・利便性の同時実現」へ

出所 吉野 彰、「リチウムイオン電池が拓く未来社会」、インプレス SmartGridフォーラム2020、2020年11月5日

Hiroshi Esaki

〔2〕蓄電池の性能劣化と寿命

江崎 吉野先生がおっしゃる「エコシステム」ですが、基本的には今の蓄電池もいろいろな企業が連携し、お互いに協調しあってエコに作られています。しかし技術的に、蓄電池は充放電を繰り返すと寿命が下がってきますね。このような性能を改良していくことが重要となってきているということでしょうか。また、それは技術的に難しいことでしょうか。

吉野 そうですね。技術的には、例えばコストまたはエネルギー密度など、何かを犠牲にすれば、長期的に使える耐久性を重視した蓄電池の設計は可能です。しかし、それではビジネスとしては難しくなります。そこで今後は、さらに連携しあって適切な技術を開発したり、蓄電池の新しい利用方法(例:二次利用等)を開発したりして解決していくことが求められていますが、それはそんなに難しいことではありません。

 基調講演でも申し上げましたが(特集1を参照)、現在、EV(電気自動車)には1台約50kWhの容量をもつ蓄電池が搭載されていて、2025年以降には、トータルで250GWhの蓄電池を搭載したEVが日本中を走っていると予想されていますので、そのような全体感をもって見ていくことも重要です注2

江崎 その蓄電池に関連して、私たちの研究会が2016年頃に、日産自動車(以下、日産)がリチウムイオン蓄電池30kWhを搭載した日産リーフ(EV、以下「リーフ」)の新モデルを発表して間もない頃に検討したデータを、図2に示します。

図2 EVにおける蓄電池容量と他の発電方式の比較

図2 EVにおける蓄電池容量と他の発電方式の比較

出所 江崎 浩、「対談:大規模蓄電池の技術的課題と今後の展望」、インプレス SmartGridフォーラム2020、2020年11月5日

 災害時には、例えば、EVの充電状態が満充電(100%充電状態)になっていると、停電があっても3〜4日は生き残れる(生活できる)容量でした。当時はまだ、リーフの普及台数は日本でわずか7万5,000台位(出力30kW×75,000台=225MW)注3でしたが、分散型の蓄電池でも、集中型の原子力発電(300〜500MW)に匹敵するパワー(出力)をもっているのです。このような試算でよろしいでしょうか。

吉野 そうですね。

江崎 また、図2の左下に示すように、身近な駐車場にリーフが常時100台駐車している場合は、常時3MW(30kW×100台=3,000kW)、また駐車台数が増えるとピーク時で10MWくらいの出力になるので、ビル1棟分くらいの電力になると、当時試算していました。


▼ 注1
リチウムイオン蓄電池は法令上規定された呼称で、一般には「リチウムイオン電池」と呼称される。
蓄電機能にフォーカスした対談であったため、ここでは「リチウムイオン蓄電池」とした。後出の注6を参照。

▼ 注2
5年先までの市場予測はほぼ確定しており、2025年時点の新車販売台数の15%程度がEVで、残りの85%が現在のガソリン車あるいはディーゼル車と予測されている。その時点でのEV車載の蓄電池(LIB)は全世界で年間500GWhと想定される。これが5年で入れ替わっていくと、2025年以降は全世界で2,500GWh(500GHh×5年)の蓄電池が走り回っていることになる。そのうちの10%が日本のシェアだとすると、250GWhのEV蓄電池が日本で走っていると予測される(吉野氏の基調講演より、特集1を参照)。

▼ 注3
日産自動車は「世界EVデー」の2020年9月9日、2010年の初代モデル発売以降、EV車「日産リーフ」の生産累計台数が全世界で50万台に達したと発表した。なお、2019年1月、日産は62kWhの大容量蓄電池を積んだ「日産リーフ e+(イープラス)」を発表している。
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/200909-01-j

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