拡大する蓄電池市場とIEC国際安全規格
〔1〕急浮上する蓄電池の再利用市場
モデレーターを務めたInsuRTAP株式会社 代表取締役の花房 寛(はなふさ ひろし)氏は、「今後、電気自動車(EV)が普及してくると、蓄電池の市場が急速に拡大していく」と述べ、拡大するEV用蓄電池市場や、蓄電池に関するIEC(International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議)規格の最新動向を語った。
それによると、「10年後の2030年の車載用リチウムイオン電池の世界市場規模は、市場ベース予測で約500GWhへ、政策ベース予測で約1,700GWhへと拡大する(矢野経済研究所調べ)注3。現在の自動車の市場は、新車と中古車の販売量がほぼ同程度なので、10年後に予測される中古EVの販売量も同程度と考えられ、中古EVの蓄電池が500GWh以上になると予測できる」。
さらに、「中古EVに搭載されている蓄電池は引き続きEVに使えるものと、劣化するとEVとしては適切でないが、家庭等で定置用の蓄電池として再利用するには十分な性能をもつものもある」ということだ。
〔2〕日本が主導したIEC規格の発行
花房氏は「定置用蓄電池として使う場合にはいくつか問題がある」と指摘した。例えば、蓄電池が古くなると安全性が損なわれる場合があるからだ。
そこで蓄電池に関して、IECにおいて、日本が主導して、定置用蓄電池ESSシステムの国際標準安全規格「IEC 62933-5-2」(表1)が策定され、2020年4月に発行された。この国際規格によって、蓄電池のリモート監視や蓄電池が燃えた場合の位置情報が取得できるようになった。同規格は、日本ではJIS規格「JIS C 4441」として発行される予定になっている。
表1 IECにおける定置用蓄電池ESSシステムの国際標準安全規格
出所 花房 寛、「Energy Storage Summit Japan 2020」(2020年12月8日)をもとに編集部で作成
〔3〕「蓄電池の再利用」に向けた新規プロジェクト
さらに、表1に示すように、IECでは、EVで使用された蓄電池を再利用(二次利用)する場合の課題を解決するため、2023年の発行を目指して、「ESS用蓄電池の再利用」に関する新規プロジェクトを開始した。現在、蓄電池を再利用する場合、
- 蓄電池には劣化するというリスクがあること、
- 蓄電池の中には、常にエネルギーが含まれているというリスクがあり、その持ち運びは簡単ではないこと、
などが挙げられている。さらに、花房氏は、次のような4つの重要な課題があると述べた。
- どれだけ蓄電池の寿命が残っているか。
- 当該蓄電池は安全に使えるかどうか(過去におかしな使い方がされていなかったか、等の蓄電池の履歴)。
- 蓄電池を監視するためのリモート監視が可能か。
- トラブルが発生した場合のメンテナンス方法はどのようになっているか。
花房氏は、「今後、EVと蓄電池は急速に普及していくと予測されるので、サスティナビリティ(Sustainability)注4という視点が重要となってきます」と語り、セッションが開催された。
▼ 注1
https://essj.messe-dus.co.jp/jp/home
▼ 注2
【ESSJ 2020プログラム】
▼ 注3
2019年の車載用リチウムイオンの世界市場規模は容量ベースで133.1GWhと推計している。市場ベース予測とは、電動車の使い勝手や車両価格の求めやすさ、さらに経済のコロナ禍などによる減退等を考慮した予測で、政策ベース予測とは、世界的な環境規制強化による自動車メーカー各社の電動化シフトの加速や、各国の普及政策などを考慮した予測としている。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2493
▼ 注4
サスティナビリティ(Sustainability):広く環境・社会・経済の3つの観点からこの世の中を持続可能にしていくという考え方。持続可能な社会とは、地球環境や自然環境が適切に保全され、将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現在の世代の要求を満たすような開発が行われている社会をいう。