[特別レポート]

九州エリアで「タフな地域コミュニティ」を目指すリフェコのVPPビジネス戦略

― 再エネ7,400件/サービスゲートウェイも開発へ ―
2021/05/02
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

VPPビジネス実現への道

〔1〕九州エリアにおけるVPPシステムの基本構成

 図4には、左側にゆめソーラー(PV:太陽光発電)の顧客数(7,406戸)、提携ハウスメーカー数(135社)、日産自動車ディーラーの数(117店舗)を、右側にVPPシステムの基本構成を示す。

図4 九州エリアにおけるVPPシステムの基本構成(各用語説明は表2を参照)

図4 九州エリアにおけるVPPシステムの基本構成(各用語説明は表2を参照)

日産ディーラー店舗:福岡県76+佐賀県15+熊本県26=計117店舗
RA:Resource Aggregator、リソースアグリゲーター。住宅や工場などの需要家とVPPサービス契約を直接締結して、需要家側の太陽光発電や照明・空調設備などのリソース制御を行う事業者(リソース:電気を発電する機器や消費する機器のこと)
SGW:Service Gateway、サービスゲートウェイ。VPP環境において、RAが、顧客側に設置された、電力を「つくる」「ためる」(太陽光パネルや蓄電池、EV等)、「つかう」(照明機器・空調機器等)などの各機器と接続し、クラウドから状態管理や当該機器への制御を行う装置。
V2H:スマートハウスに電気自動車(EV:Electric Vehicle)の蓄電池を接続することによって、EVに搭載された蓄電池の電気をスマートホーム(Home)で利用する形態。
AC:Aggregation Coordinator、アグリゲーションコーディネーター。RAが制御した電力を束ね、一般送配電事業者(系統運用者)や小売電気事業者、再エネ発電事業者と直接電力取引を行う事業者のこと。
出所 リフェコ株式会社、「タフな地域コミュニティ」につながるVPP実証事業、2021年4月

 RA(リソースアグリゲーター)は、PVを設置した家庭(スマートハウス)やEVを所有する家庭(V2Hシステム経由)と契約し、需要家側の(PVやEVなどの)リソース制御を行う。需要家側にある各機器は、図4 のSGWに接続されて制御される。このようにして需要家(顧客)から集められた電力は、RAが上位のAC(アグリゲーションコーディネーター)を介して、系統運用者である一般送配電事業者や小売電気事業者と取引を行っている。

〔2〕VPPビジネスの実現に向けて国の実証事業に参加

 VPPビジネスが可能となってきた背景には、FIT制度のもとで太陽光発電を設置している一般需要家宅では、これまで48円/kWhで売電されていた電気が、FIT契約期限となる2019年11月から順次終了(卒FIT)し、売電価格が7円/kWh程度まで低下してきたことなどが挙げられる。

 これまで48円/kWhで売電していた電気が7円/kWh程度まで下がると、例えば5kWの太陽光発電を設置して、1カ月に661kWh売電していた家庭の場合、

  1. FIT時代:661kWh×48円/kWh=31,728≒3万2,000円
  2. 卒FIT時代:661kWh×7円/kWh=4,627円≒5,000円

と、売電金額は5,000円を切るまでに低下してしまった。さらに、電気代自体も高騰してきていることもあり、これらを解決するため、消費者(需要家)は太陽光発電で作られた電気を売るだけではなく、その電気を自分で消費する「自産自消」(地産地消)に向けて、家庭用蓄電池やEVを導入するようになってきたのだ。

「このことは、そのエリア内の各家庭が互いに電気を融通しあうことや、災害時のバックアップを可能にしていくことにもつながっているのです。つまり、VPPを有効活用したビジネスが可能となり、そのことが脱炭素化やSDGsへとつながるのではないかと考えています」と、辻氏はVPPビジネスへの手ごたえを語った。

 これらの動きを契機に、リフェコは、①エフィシエントをRAとして、②ニチコンのV2Hシステム、③岡谷鋼機のV2Hと接続するSGW、④東芝エネルギーシステムズのVPP-RAシステムで構築された環境を活用し、需要家宅への導入で協業し、VPP実証システムを構築した(表3参照)。「平成31(2019)年度VPP構築実証事業(VPP/V2Gリソース導入促進事業)」への採択注7に続いて、令和2(2020)年度VPP構築実証事業へも参画し、VPPビジネスの実現に向けて実証を重ねてきた。

 さらに、リフェコは、令和2(2020)年度から始まった「ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」に協力事業者として参画し、エフィシエントとel Design(エルデザイン)のダイナミックプライシング対応プラットフォームを基盤として、3社で実証を行ってきた(実証期間は2020年12月12日~2021年2月12日)注8

〔3〕実証事業への参加者:VPPには12者、DPへは8者

 VPP実証事業には12者が、DP実証事業には8者の、合計20者が参加した。参加者は、法人から経営者、教職員、医師に至るまで、多彩な需要家となった。

「実際、図4に示すようなVPPシステムで実証すると、施工不良が発生したり、EVソフトが古いバージョンだったためにV2Hでの放電ができなかったりするなどの問題も発生しました。また、ゲートウェイ(SGW)の設定が不十分だったり、RA側からうまくシステム監視ができなかったり、宅内ルータとスマートメーター間の通信不備や分電盤の位置が遠いためうまく通信できない等々、VPPをビジネス化して普及させていくうえで、多くの実務レベルの知見を蓄積できました」と、辻氏は語る。

 さらに辻氏は、「これまでの実証事業は、富士山登山に例えると、先に述べたように、登山道具を用意して登山ルートや天候を確認し、5合目まで車で到達した様子に似ています。つまり、VPPビジネスのベース(素)となる太陽光発電やEV(蓄電池)などをまず普及させてきたという段階なのです。再エネ電気を活用するダイナミックプライシング(時間別料金)については、引き続き、最終年度である2022年度の実証事業まで、参加していきたいと思っています」と、VPPビジネスへの可能性の広がりと、今年度以降の抱負を語った。


▼ 注7
https://www.lifeco.co.jp/news/pressrelease/jel-subsidy/

▼ 注8
https://www.lifeco.co.jp/news/pressrelease/jel-pre201118/
[成果報告]https://www.lifeco.co.jp/news/pressrelease/pre210324/

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